世界最大の甲殻類『タカアシガニ』 鍋に入らないほど長い脚は美味しいの?
世界最大の哺乳類はシロナガスクジラ、世界最大の魚はジンベエザメ、世界最大の頭足類はダイオウイカ、世界最大の貝類はオオシャコガイ……。では世界最大の甲殻類はいったい何でしょうか。それがタカアシガニです。このカニは日本の太平洋岸から台湾の深海にのみ生息している種で、脚を広げると3mにもなります。今回はそんな世界最大のカニ、タカアシガニをご紹介します。
(アイキャッチ画像提供:椎名まさと)
世界最大の甲殻類『タカアシガニ』
タカアシガニ(学名 Macrocheira kaempferi Temminck 1836)は十脚目(エビ目)クモガニ科に含まれる甲殻類です。甲長30cm、甲幅20cmほどですが、脚を広げると3メートルになり、世界最大の現生甲殻類といえます。
タカアシガニは小型個体(幼体)と成熟した個体では見た目が大きく異なっており、小型の個体では剛毛や長棘が甲や脚に多数みられますが、これらは成熟個体ではほぼ消失します。成熟個体に見られるコブ状の突起はその名残ともいわれています。
分布域は岩手県釜石から九州南岸までの太平洋で、国外では台湾から知られています。海洋生物のデータベース”Sealifebase“によれば、英語名”Japanese giant spider crab”、つまり「日本の巨大クモガニ」という意味になります(Sealifebase-Japanese giant spider crab)。
タスマニアンジャイアントクラブも巨大
なお、タカアシガニとならぶ巨大なカニとして、オーストラリア近海に生息するタスマニアンジャイアントクラブというカニがおります。
甲幅40cmを超え、甲幅という意味ではこちらが最大です。しかしタスマニアンジャイアントクラブは、甲と鉗脚(はさみ)は巨大ですが、脚はそれほど長くなく、その点でタカアシガニには劣ります。
ちなみに尾が長いエビの仲間では海産ザリガニの一種でアメリカ東海岸に生息するアメリカウミザリガニが最大で体長120cmになるようです。ウミザリガニの仲間は大西洋の東西に見られるもので、重要な食用種とされます。いわゆる「ロブスター」「オマールエビ」です。
深い海にすむタカアシガニ
タカアシガニは水深50~300mほどの海底に生息しており、深海の手前~深海でも比較的浅いところに生息するカニといえます。
深い海のカニですが冬季にはダイバーが観察できるような(比較的)浅い海域にも出現することがあり、静岡県沼津の獅子浜や、徳島県の日和佐などが有名なポイントとされています。
底曳網漁業においてよく漁獲されるカニであり、日本においては駿河湾、三重県、和歌山県、高知県、愛媛県、宮崎県など底曳網漁業が行われる場所でよく漁獲されるカニですが、ほかにエビ網にかかることもあるようです。
タカアシガニのお味は?
タカアシガニは「深海魚のまち」静岡県沼津市戸田でよく食されているカニです。戸田ではタカアシガニの料理を出してくれるお店が多くあり、漁獲されたタカアシガニを生かしておくためのイケスも置いてあります。
また、一部の漁協や漁業者ではタカアシガニの通販も行っていますので、興味があれば購入するのもよいでしょう。同地においてはタカアシガニの資源管理が行われており、稚ガニの放流も行われています。
食味のほうはズワイガニなどと比べるとやや水っぽいものの、美味しいカニです。
食べ方についてもズワイガニなどとほぼ変わらず、鍋ものにしたり茹でるなどして食べます。
甲は大きく普通の鍋に入りきらないこともありますが、カニミソも美味しいとされています。なお筆者が入手したタカアシガニは小ぶりのものでしたが、それでもハサミや脚は大きく、鍋に入れるのも一苦労。ですが、とても美味でした。
水族館の人気者
近年深海魚、深海生物が人気で、多くの水族館で深海生物の飼育展示が行われています。
その中でもこのタカアシガニは大型になりますので水槽も大型のもの、低水温の環境を準備する必要があります。しかし、それらの飼育環境さえ整えてあげれば飼育は容易で、深海生物を飼育展示している水族館ではほぼ確実にその姿を見ることができるカニといえるでしょう。
深海水槽であまり動かずじっとしていたり、あるいはよく歩いたりとさまざまな素顔を見せてくれる、人気の生き物です。
基本的にタカアシガニのみが飼育されるということはなく、ツボダイやユメカサゴ、サギフエなど同じように水深200メートルほどの「深海の入り口」の魚や無脊椎動物と一緒に飼育されていることが多いです。
みなさんもぜひ水族館へタカアシガニを探しに、静岡県戸田へタカアシガニを食べに行ってみてください。
参考文献
三宅貞祥(1983)、原色大型甲殻類図鑑(II)、保育社
<椎名まさと/サカナトライター>