「オスカルの心を近くに感じた」 劇場アニメ『ベルサイユのばら』沢城みゆきインタビュー②
TOPICS2025.02.04 │ 12:00
「オスカルの心を近くに感じた」 劇場アニメ『ベルサイユのばら』沢城みゆきインタビュー②
世代を超えて愛され、この冬、完全新作となる劇場版アニメが公開された劇場アニメ『ベルサイユのばら(以下、ベルばら)』。その制作の舞台裏では、いったいどんな言葉や熱い思いが交わされていたのか。オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ(以下、オスカル)役・沢城みゆきへのインタビュー後編では、マリー・アントワネット(以下、アントワネット)やアンドレ・グランディエ(以下、アンドレ)との、深く読み込まれた関係性に迫る。
取材・文/髙野麻衣
※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。
インタビュー_TOPICS劇場アニメ『ベルサイユのばら』声優沢城みゆき
劇中の時間経過を意識したアフレコ
――今回、劇場版を見た方の多くが驚き、感動するのが全編にあふれる歌唱シーンではないでしょうか。歌に挑んだときの心境はどうでしたか?
沢城 メインキャストの4人が決まった瞬間、「あ、これは私が頑張るだけなんだ」と明確に思ったことを今も鮮やかに覚えています。平野綾さん、豊永利行さん、加藤和樹さんと「歌唱力◎」の人たちが並んでいる中、私がどこまで二重丸に足をかけられるか。そう思ってすぐ、「練習する時間をください」と事務所に言ったんです。ボイストレーニングに通って、家で自分の歌を録って、聞いて、修正して、そしてまた録り直すという地味な作業をひたすら繰り返しました。今回はダブルボーカル(メインボーカルに同じピッチの歌声を重ね、厚みや広がりを得る手法)の収録がとくに難しくて。豊永さんや加藤さんみたいに、うまい方は女性キーで歌ってもキャラクターを維持できますが、私の場合、キーが上がると別のキャラクターに聞こえちゃうんです。結果的に、メインの1オクターブ上と下を歌って、それを融合することでオスカルに聞こえるよう補完するというスタイルに。調整作業でお化粧をしていただき、なんとか完成することができました。
――大役の重責に加え、大変な努力と挑戦があったのですね。歌のレコーディングのあと、収録の際には吉村愛監督、音響監督の長崎行男さんからどのようなディレクションがありましたか?
沢城 吉村監督、音響監督の長崎さんはじめ、スタッフとキャストがともに気をつけていたのは「今、このシーンでは何歳なのか」ということです。今作では、歌を挟むと一気に5年くらいときが経っていたりするので。いつもは「次のシーンです」と言われたらつい前のシーンと同じ気持ちで演じるのですが、ワンシーンごとに「ここは何年経っている」と意識しながら進んでいきました。ありがたいことに(アントワネット役の)綾ちゃんとは全編通して一緒に収録することができたので、監督サイドからも「セリフとして拮抗(きっこう)してほしい」「聞き役にならないでほしい」など、細かなディレクションをしていただきました。(アンドレ役の)豊永さんとも大事なシーンは一緒に録ることができたので、オスカルの鎧を着たような音色が少し和らいでいく安心感を引き出していただいたように思います。トッシー(※豊永さんの愛称)といえば、吉村監督は『ベルばら』の高貴な雰囲気を、わかりやすい言葉に言い換えるのがすごくお上手で(笑)。たとえば、豊永さんのレコーディングが終わったあと「どうでした?」と吉村監督に感想を聞いたら、「『そういうキャラちゃうやろ』っていうぐらいうまかったです」と言うんです(笑)。アンドレ像を誰よりも深く把握している吉村監督だからこそ言える言葉なんですよね。実際に歌を聞くと、トッシー演じるアンドレが情熱的すぎて、たしかに一歩も二歩も三歩も絵から飛び出してきましたから。
「フランス万歳」というセリフの難しさ
――情景が目に浮かびます(笑)。キャスト同士でも話し合いはしたのでしょうか?
沢城 収録の待ち時間に、お互いが抱えている疑問などを話し合いました。「(原作の)ここは描かれていないけど、なんとか香るようにしたいね」「そこにもうちょっと間(ま)がほしいね」といった感じで。大勢の収録ではなかった分、濃密だった気がします。ただ、オスカルとアントワネットは、そばにいるんですけど、お互い見ているものが違うという関係性。「あなたが立派な女王におなりあそばすことが私のいちばんの願いです」と言っても、「まあ、オスカルったら。そんな冗談を」みたいな感じで伝わらない、コミュニケートできない存在なんですよね。演じているときはオスカルの心境なので、綾ちゃんとも少し距離を置きながら、それぞれの役の願望をかなえていってあげたいと思っていました。トッシーとは真逆ですよね。彼とはふたりでひとつという感じだったので。
――オスカルにとってのアンドレの存在を、沢城さんはどのようにとらえていますか?
沢城 アンドレは、途中まで見えていません。オスカルはアントワネットのことで心がいっぱいで「アントワネット様がどうも道を逸(そ)れている気がする」と常に気を揉んでいる。その悩みを、隣にいるアンドレとは分ち合うことができるんですが、アンドレ本人の顔は見えていない感じなんです。可哀想なくらい(笑)。アンドレは、オスカルに相反したことは言わないじゃないですか。だから、いい意味で空気みたいだったんですよね。その彼が、命を懸けて自分を殺しにくる。そのとき、自分の顔に落ちてきた彼の熱い涙によって、目の前にぶわっとアンドレという存在が現れたんです。ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン(以下、フェルゼン)との出会いで知った恋という感情が、一気にアンドレに移行していくのがわかりました。
――転換点として納得のシーンでした。個人的には、オスカルが衛兵隊に「自由であるべきは心のみにあらず!!」と叫ぶあたりから涙が止まらなかったのですが、沢城さんご自身が特別な思いを込めたセリフはありますか?
沢城 台本を見て、いちばんヤバいなと思ったのは「フランス万歳」というセリフです。これがまかり通らなければ成り立たない作品ですよね。この作品をフランスの人が見たときにどう思うのだろうかと、凄まじいプレッシャーを感じました。だけど、『ベルばら』を冒頭から丁寧に収録していったことで、これは国だけではなく人間が解放されていく物語なんだとわかったんです。自由な意志を持って、この国に生きている仲間たちのことを愛するということなら自分にも言えるはず。そう考えて、最後は押し切った感じです。
若い世代にも受け継がれていってほしい
――映画の中では、舞台となるベルサイユ宮殿やパリの空気感も、実写と見まがうほどリアルに再現されていますよね。
沢城 映像の絵の密度、すごいですよね。だからこそ、映画が持たざるを得ない「時間の制約」を超えられたんだと思います。たとえば、アントワネットが仮面舞踏会に行くシーン。あの美しい空間とひとときの高揚感で、彼女の孤独がまぎれて救われたこと、しかしそれが毒だったことが、音楽と絵の密度から伝わってくるんです。原作だと、デュ・バリー夫人との対立や首飾り事件などを通して丁寧に描かれたアントワネットの葛藤を、映画では短い尺で描かなければならない。その制約を、絵がきっちり補完してくれていると感じました。キャラクターの感情をぎゅっと凝縮し、原作を見たような気持ちにさせる努力がなされていると思います。
――音楽も同様ですね。世代を超えて愛されている『ベルサイユのばら』は、この劇場版を通してまた次の世代へと受け継がれていくのではないでしょうか。
沢城 そうですね。完成映像を見ましたが、若い世代にも間口が開かれた作品であることをとてもうれしく思います。『ベルばら』は「自由に生きていくってなんだろう。みんなでよりよく生きていくってなんだろう」と問いかけるルソーの『社会契約論』が根底にあって、その上にキャラクターたちの恋愛が芽吹いた物語。ベースにあるのは普遍的な問いなんです。それはおそらく、お母さんの世代、おばあちゃんの世代も向き合ってきたことで、今小学生の子たちだってこれから問われていくこと。だからこそ、若い世代に見てもらいたいですね。オスカルというキャラクターも、決して立派なわけじゃない。広い世界を知りたい、知らなくてはともがいた先に、自由に生きられる未来をつかんだ人。そんなオスカルの背中を見せられることに、今、大きな期待を持っています。
沢城みゆきさわしろみゆき 青二プロダクション所属。主な出演作に『ルパン三世』(峰不二子:三代目)、『鬼滅の刃 遊郭編』(堕姫)、『ゲゲゲの鬼太郎(6期)』(鬼太郎)など。作品情報
劇場アニメ『ベルサイユのばら』
1月31日(金)全国ロードショー
原作:池田理代子
監督:吉村 愛
脚本:金春智子
キャラクターデザイン:岡 真里子
音楽プロデューサー:澤野弘之
音楽:澤野弘之、KOHTA YAMAMOTO
アニメーション制作:MAPPA
製作:劇場アニメベルサイユのばら製作委員会
配給:TOHO NEXT、エイベックス・ピクチャーズ
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ:沢城みゆき
マリー・アントワネット:平野 綾
アンドレ・グランディエ:豊永利行
ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン:加藤和樹
ナレーション:黒木 瞳
主題歌:絢香『Versailles – ベルサイユ – 』
★The Rose of Versailles (MovieEdit) 配信情報
12⽉25⽇(⽔)より劇場公開に先駆けて配信中︕
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★Song Collection from The Rose of Versailles 商品情報
澤野弘之による挿⼊歌全15曲を収録︕
ムービーエディット版10曲も含めた全25 トラック収録︕
2025年2⽉26⽇(⽔)ON SALE
¥3,850(税込)
<仕様>MAPPA描き下ろしジャケット(オスカル)
予約はこちら
★The Rose of Versailles Original Soundtrack 商品情報
澤野弘之・KOHTA YAMAMOTO による美麗な世界観を形作るサウンドトラック全31曲を収録︕
ブックレットには澤野弘之とともに作曲を⼿掛けるKOHTA YAMAMOTO のインタビューを掲載︕
2025年2⽉26⽇(⽔)ON SALE
¥3,850(税込)
<仕様> MAPPA描き下ろしジャケット(マリー・アントワネット)
※収録内容・商品内容は予告なく変更になる場合もございます。
予約はこちら
©池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会