離乳食、幼児食を食べてくれない…超偏食の3歳自閉症娘、ある日「突然食べるようになった瞬間」
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
マユユの食べられるものと悩み
わが家は私・長女・次女・夫の4人家族で、長女マユユは2歳の時に発達障害の診断を受けています(ASD/自閉スペクトラム症・軽度知的発達症/知的障害)。
離乳食はけっきょくあまり食べられないまま終わり、次にはじまったマユユの幼児食。しばらくは目新しいものも口に運んでいましたが、次第に”見慣れないものは口に入れない”ようになっていきました。
こだわりや警戒心が強いタイプなので、そこからはなかなか食べられるものは増えず……悩みは増えていきました。
現在まで安定して食べてきたものは、白ご飯・肉や魚を焼いたもの・果物複数・トマト・スープ2種類など。どろっとした歯応えのないものは総じて苦手な様子なのと、食べ慣れたメニューを繰り返し食べたがります。
麺類や粉物などほかにも食べられるものがあるのですが、好んで食べる時期もあれば、まったく食べない時期もあり……こだわりの強さによる波なのかな?と思っています。
私自身も今は、苦手なものを克服させたい!という気持ちはあまりなく、その時に食べられるものから栄養がある程度取れればというスタンスではあります。しかし、肝心の「その日食べてくれるもの」が分からないのも大きな悩みです。
食べられるものが増えた瞬間
そんな食べられるものが増えにくいマユユですが、これまでに何度か「突然食べるようになった瞬間」がありました。
3歳の頃マユユは、あるアニメを気に入って観るようになったのですが、その中で生野菜を美味しそうに食べるシーンがありました。そしてある日、私がキッチンで野菜を切ろうとしているとそれをちょうだいとマユユが要求してきたのです。(まさかね)と思いながらも少し期待して野菜を渡すと、マユユはパクリと食べてしまいました。
初めは「キャラクターの真似をしたい」といった雰囲気でしたが、次第に「食べられるもの」の一つになりました。
さらに同じような経緯で、ある日今まで食べなかったハンバーガーにかぶりつき完食。具材とパンが一緒になっているようなものを食べられないと思っていたので驚きました(サンドイッチやホットドッグは、パンだけちぎる、具材だけ食べる感じでまだかぶりつけません)。
それからは、ハンバーガーを食べられるようになりました。
ハンバーガーについては食べ物の歌でとても気に入っているものがあり、それでとても強い興味を抱いている様子がありました。
食事が進んでいなかった理由
これまで、料理を見た時や料理名を伝えた時はうれしそうなのになぜかあまり食べないな……ということが割とありました。「好きなはずなのにどうして食べないの?」とモヤモヤしながらも、試行錯誤しているうちに分かったことがありました。
それは、”手や口が汚れるのを嫌がる”という点でした。
マユユは同年齢の子に比べ食具を扱うのが苦手です。焦れてよく手が出てしまうのですが、手が汚れたままでは次にどうして良いか分からず、困ってフリーズしているようでした。
しばらくすると、汚れたらすぐそばのティッシュをとり拭く→食べる→拭く→食べる……と自分で行うようになり、食べ進みが良くなりました。
以前は”食具を使えるのになぜ手で食べるのか?”など疑問に感じて、時には叱ってしまうこともありました。しかし今思えば、使えるように見えていてもスムーズに食事ができておらず、本人にとってはストレスだったのだと思います。
不器用さを理解してからは”叱っても解決しない”と思い直し、”フォークでぶす!ってしてみる?”のような声かけにして、叱らない、手だろうと食べていること自体をたくさん褒めることに意識を向けました。
そうしていると、不思議とマユユが頑張って食具を使ってみる様子や、”最後にもう一口”を頑張ってみたり、反発せずこちらの声かけに耳を傾けてくれることが増えました。
成長にともない、褒められてうれしいという感覚も出てきたのかなと思います。
最近の様子について
現在もまだ外食や給食では”白飯のみ・お肉やポテトのみ”のような具合ではありますが、自宅では見慣れない食材をすすめてみた際に少しかじってみることができる時も。
以前であれば「絶対に口に入れない!」という強い意思を感じましたが、本人の内面や人との関わりの面の成長で、ちょっとやってみようかなの気持ちが芽生えたように思います。
口にできたからとすぐに食べられるものが増えるわけではありませんが、大きな進歩だと思います。
次は、いかに楽しく食具の練習をするか、興味を持ってもらうかを考えているところです。
食べること自体は好きな様子なので、マユユにあったやり方で、私も本人もラクな方法で、ご飯を楽しめる道をゆっくり見つけていきたいです。
執筆/サチコ
(監修:新美先生より)
娘さんの偏食問題について詳しく聞かせていただきありがとうございます。サチコさんが本文で説明していただいたように、偏食についてはさまざまな要因が絡んできますね。その一つひとつに丁寧にアプローチして、無理しすぎず食べられるものが増えてきた過程がとてもよく伝わってきました。食事自体を嫌いになったり、警戒モードにしないように、無理強いしすぎず、あきらめずアプローチされる様子が素晴らしいと思いました。
しつけ的に厳しく食べさせようとすると、警戒心が増して、かえって拒否が強くなったり、食のこだわりが悪化することもあります。焦らずゆっくり、本人の興味やモチベーションを引き出して、だんだん食べられるものが増えていくというのがよいと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。