魅力的なキャラクターを造成するには「人間臭い」ことが大切。キャラクターを深めるために必要な「力」とは?【プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑】
文章表現は語彙力が9割②〝人間臭い〟描写技法
魅力的なキャラクターを造成するには、〝人間臭い〟ことが大切。おわかりかと思いますが、別に体臭がひどいとか口が臭い人物を描くことではありません。
ある種の感情的な特徴や傾向を備えた、不完全でリアリティある人物という意味です。その基本的な捉え方は、人間の四大感情である「喜怒哀楽」に特化すれば間違いないでしょう。具体的には、喜=「明るい人」、怒=「激しい人」、哀=「暗い人」、楽=「のん気な人」、とテンプレート的に大別されるので、そこから特性を突き詰め、定型化を脱していけば、オリジナルの独自キャラを作れます。さらにその先の綿密な作り込み作業が実を結べば〝個性〟豊かな登場人物として、読者に愛され支持されて、作品のクオリティとグレードがアップします。いわば物語創作の1stステップといっても過言ではありません。
さて、ここからが本題です。ただ、明るい人、と書いても読者に伝わりません。実際、あなたは「明るい人」というワンフレーズからどんな人をイメージするでしょう?千差万別で、その人物像は無限に広がります。陽気な性格なのはわかるとして、よく考えてみてください。24時間365日いつも無意味に「明るい人」が愛されキャラとして読者に支持されるでしょうか?あるいはリアリティある〝人間臭い〟人物だと思いますか?
答えはNOです。
何度も触れますが、たとえば「悲しみ」「楽しみ」「苦しみ」という感情も、どういう種類の特性を持ち、心身にどんな変化をきたすメンタル状態かを丁寧に描写しなければ読者には伝わりません。「明るい人」も同様です。基本は喜びや希望に溢れたキャラとして描きつつも、なぜそんな性格なのか、前向きな原動力は何なのか、実際は心根が弱ったりしないのか、弱点は何なのか、と、まず書き手自身が徹底的にキャラを追求する必要があります。
そして、それら感情的な特徴や傾向を文章化する際に求められるのが語彙力です。「明るい人」の心情の移り変わり、暗い影を落とす瞬間、前向きな性格ゆえの葛藤など、シーンごとの微細な揺れや動きを描いてこそ、不完全たるリアリティが生まれます。
あるいはどんな「明るい人」でも、コンプレックス、トラウマ、家庭環境の問題点や人の好き嫌いがあるはずです。はたまた嗜好やライフスタイル、主義についてはどうでしょうか。このような多角的な深掘りをする際にも語彙力が問われます。
登場人物の過去を語らずして、キャラ造成の説得力は生まれません。
人物像の物語性の裏側の暗部に触れて初めて、表部分が際立つもの。これが〝人間臭い〟魅力的なキャラクターの造成につながります。
【出典】『プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑』著:秀島迅