性欲は悪ではない 性犯罪リスクを下げる知識と楽しみ方 良い性行動と悪い性行動とは
■人間に不可欠な性欲 性を一人で楽しむ力が重要
性欲は悪ではない――。性教育に長年携わる元中学教師のカウンセラーは性欲が人間にとって不可欠で、性行動に良いものと悪いものがあると説く。性の話題は敬遠されがちだが、科学的な知識を学んだり、性を一人で楽しむ力を養ったりする必要があるという。【全3回の3回目】
今夏、静岡市で「全国夏期セミナー東海大会」が開催された。主催した一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会(以下、性教協)」は日本でも有数の性教育の実践研究団体として活動。静岡県のサークルには教育や医療関係者が所属し、定期的にセミナーを開催している。
2日間に渡って行われた今回のセミナーは「包括的性教育をたしかなものに」を大会のテーマに掲げ、セクシャリティやデートDVを考える模擬授業、障害のある子どもたちに向けた包括的な性教育を掘り下げる分科会などが実施された。
藤枝市でカウンセリングルームを運営する松林三樹夫さんは、「性暴力への対応力を高めるために」と題した分科会に登壇した。松林さんは元中学校の教師で、カウンセラーに転身して約20年が経つ。
■小、中学生にも大切な正しい知識 悪い性行動と良い性行動
分科会では、性欲(性的欲求)への誤解や重要性を説明した。大前提として性欲は人間にとって不可欠なもので、性欲がなくなれば人類は100年で滅ぶと訴えた。そして、「性欲には良い行動と悪い行動があり、正しい知識を身に付けることが非常に重要です」と力を込めた。悪い性行動と良い性行動の例には次の内容を挙げる。
【悪い性行動】
・人をからかうような、傷つけるような性的言動
・人前での性的行動
・相手への強要(同意のない一方的な性的行為)
・子どもをつくるつもりがないのに避妊しない性交
【良い性行動】
・安心・安全・同意や合意のある性行動
・人前ではしない(プライベートな場所で)
・子どもをつくるつもりがない時にはきちんと避妊する性交
■性加害のリスクを軽減 性欲を解消する3つの方法
具体的な性行動の善悪を理解した上で、次に必要なのは性行動のコントロール。性欲を解消する方法を誤ると周りの人を傷つけ、性犯罪の加害者となるリスクもある。松林さんは性欲の解消法として主に以下の3つを挙げる。
①パートナーを持って良好な関係をつくり、お互いに性的な欲求を満たし合う。
②自慰行為(セルフプレジャーという)
③法に触れない範囲内での性的行為、スポーツや趣味、芸術、学問といった性行為の代用となる楽しみ
中でも、自慰行為は性行動をコントロールする上で大切な手段となる。ニューヨークを舞台に描いたラブストリーの映画「Annie Hall」では、「自慰は最も愛する人との性行為」と表現されているが、松林さんは「性を一人で楽しむ自慰力は健全に生きる力につながります」と話す。
■犯罪抑止につながるアダルトコンテンツ 度を越した内容は「推奨できない」
分科会の最後には参加者から質問を受け付ける時間が設けられ、自慰に関して「度を超えたアダルトアニメや漫画を楽しむことも性欲を解消して犯罪抑止に効果があるのでしょうか?」という質問もあった。松林さんは次のように回答している。
「度を越した内容は良いとは言えませんが、性的欲求がある程度解消されて、多少なりとも犯罪抑止の効果があると思います。ただ、度を越した過激なコンテンツは推奨しません。男性用のアダルトビデオにはコンドームを付けるシーンをちゃんと入れたり、女性向けアダルトビデオのように互いを大切にするような内容が柔らかくなったりすることが望ましいです」
性教育に関する論文の中には、アダルトビデオの普及によって日本の性犯罪率が低下したというデータもある。アダルトコンテンツ自体は有害とは言い切れない。ただ、度を越した内容は性の誤解につながったり、性暴力につながったりする恐れがある。
性の話題は恥ずかしさや勉強不足から避ける大人は少なくない。だが、松林さんは言い切る。「性欲は悪ではない」と。
(間 淳/Jun Aida)