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まるでウサギの耳? 昭和天皇が発見に携わった<コトクラゲ>の不思議な見た目

サカナト

新江ノ島水族館に展示されている成長中のコトクラゲ(提供:天草せりひ)

4月29日は「昭和の日」。

昭和天皇の誕生日であり、激動の時代を経て復興を遂げた昭和を顧みる日ですね。

実は、昭和天皇が深い関わりを持っていた、とても不思議で愛らしい海の生きものがいるのです。

コトクラゲってどんな生きもの?

昭和天皇が深い関わりを持っていた海の生きものとは、コトクラゲLyrocteis imperatoris。

同種は、有櫛動物門有触手綱クシヒラムシ目コトクラゲ科に分類されるクシクラゲの一種。名前に「クラゲ」とありますが、私たちがよく知るミズクラゲなどの一般的なクラゲとは分類の違う生きものです。

コトクラゲ(提供:PhotoAC)

一般的なクラゲは、毒のある触手をもつ動物のグループである刺胞動物門に含まれています。「門」とは、生物を分類する際、一番はじめに分けられる非常に大きな枠組みのこと。根本から違えど、似た生活史・見た目であることから、同じ呼称がついているのは面白いですね。

本来、有櫛動物の仲間は、「櫛板(くしいた・しつばん)」と呼ばれる繊毛が並んだ板のような構造を持ち、それで水中を泳ぐのが特徴。しかし、コトクラゲは成長するにつれて櫛板がほとんど目立たなくなり、遊泳を行わなくなります。

代わりに、海底の岩などに体の一部で張り付いて生活するようになるのです。

まるでウサギの耳?な<コトクラゲ>

そして、注目して欲しいのはやはりその見た目。コトクラゲの成体はやや平たい袋状で、そこから2本の大きな腕がすっと上に伸びています。

コトクラゲが触手を伸ばしている様子(撮影:天草せりひ/撮影場所:新江ノ島水族館/展示協力:FullDepth/TBSテレビ)

この全体のフォルムが楽器の竪琴(ハープ)に似ていることから「コトクラゲ」と名付けられたのですが、見れば見るほど、まるでウサギの耳のようで、とても愛らしい形をしていますよね。

大きさは10~20センチほどで、水族館などの飼育環境下では、より大きく成長することもあるそうです。

触手で動物プランクトンを体内に取り込む

コトクラゲは、“ウサ耳”のような腕の上部から、自身の体長を優に越える長さの粘着力のある細い櫛状の触手を水中に伸ばします。そして、触手に触れた小さな甲殻類などの動物プランクトンを捕らえて、体内に取り込んで口まで運んでいきます。

主に水深70~数100メートルほどの深海に生息しており、国内では江の島沖をはじめ、比較的広い範囲でその存在が確認されています。

コトクラゲと昭和天皇の関係

このユニークで美しいコトクラゲは、実は昭和天皇との深い関わりがあります。

昭和天皇は公務の傍ら、長年にわたり海洋生物、特にヒドロ虫(クラゲやイソギンチャクに近い仲間)の研究に情熱を注いだといいます。

コトクラゲが触手を伸ばしている様子(撮影:天草せりひ/撮影場所:新江ノ島水族館/展示協力:FullDepth/TBSテレビ)

コトクラゲは1941年、昭和天皇が相模湾で採集された標本をもとに、当時の研究者である駒井卓博士によって1942年に新種として記載。この発見と研究への貢献を称え、種小名にはラテン語で「皇帝の」を意味する「imperatoris」という言葉が献名されたのです。

学名Lyrocteis imperatorisは「皇帝の竪琴」の意味を持ち、この学名そのものが、昭和天皇とこの不思議な生きものとの強い絆を物語っていますね。

新江ノ島水族館では成長中のコトクラゲに会える?

ウサギの耳のような不思議でかわいらしい姿で佇むコトクラゲの姿は、私たちがまだ知らない深海の神秘と、自然界の多様性を改めて感じさせてくれます。

そんなコトクラゲですが、2025年4月現在、神奈川県藤沢市の新江ノ島水族館にある「皇室ご一家の生物学ご研究」コーナーで、成長まっただ中の姿が展示されています。

現在は扇状の平たい姿ですが、ここからより成体へと近づくにつれて、個性豊かな色や模様が顕著に現れてくることになります。どのような姿へとドラマチックに変化していくのか、その成長過程はまさに必見です。

併せて、今回紹介した昭和天皇のより詳しいご研究の一端に触れることができるので、機会があればぜひ新江ノ島水族館に訪れてみてください。

(サカナトライター:天草せりひ)

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