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「ひとりじゃない」と信じる強さを与えてくれる~前田公輝主演、新作ミュージカル『ミセン』プレビュー初日レポート

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新作ミュージカル『ミセン』舞台写真

2025年1月10日(金)より、大阪・新歌舞伎座にて、新作ミュージカル『ミセン』が上演されている。この度、プレビュー初日レポートが届いたので紹介する。

本作は、韓国のウェブコミック・WEBTOON(ウェブトゥーン)発の大ヒット漫画『ミセン』を日韓のトップクリエイター陣の手によってミュージカル化した舞台。前田公輝、橋本じゅん、清水くるみ、内海啓貴、糸川耀士郎、中井智彦、あべこうじ、東山光明、石川禅、安蘭けいらが出演。

なお、大阪公演は1月14日(火)まで上演。その後、2月1日(土)~2日(日)愛知・愛知県芸術劇場大ホール、2月6日(木)~11日(火祝)東京・めぐろパーシモンホール 大ホールにて上演される。

新作ミュージカル『ミセン』世界初演開幕! プレビュー初日レポート

1月10日、新作ミュージカル『ミセン』が大阪・新歌舞伎座にてプレビュー公演初日の幕を開けた。原作は十年以上前に韓国で大ヒットしたWEB漫画で、それをもとに2014年に製作、放送された同名のドラマも大いに支持を集め、日本にもファンが多い。愛着の深さからミュージカル化を懸念する声も耳に入らないではなかったが、いざ蓋を開ければ心配は一掃、働くすべての人々へ送る応援歌のような、人間讃歌の快作が立ち上がっていた。

「♪ワン・インターナショナル」

「♪それぞれの戦い」

囲碁のプロ棋士になる夢を絶たれ、大手商社にインターンとしてコネ入社する高卒の主人公チャン・グレ。未知なる世界へ踏み出した彼と、組織で躍動する社員たちによるオープニングから早くも視線が釘付けになった。作曲家チェ・ジョンユンが手がけた爽快なメロディと、俳優一人一人に違う振りを付けたという振付家KAORIaliveのステージングの鮮烈さ。その掛け合いが、劇世界への導入にふさわしい高揚感を生み出していた。舞台上部のカメラからとらえたステージ面をバックスクリーンに映し出し、人々の交錯するさまをあたかも碁盤に打たれた石のように見せる意匠が面白い。グレはそれまでの人生のすべてであった囲碁を基調にして思考を巡らせ、慎重に、しかし内では懸命にもがきながら自らの居場所を探っていく。その成長の過程で、組織で働く者にとっては身につまされるような出来事が次々と展開するのである。新入社員たちの競争と焦り、上からの圧力による中間管理職の苦しみ、差別に対する女性社員の悔しさと連帯、汚職疑惑の果ての組織の冷酷さなど、原作から劇的エピソードを巧みに抽出したパク・ヘリムの脚本は、ひたむきな中に笑いもふんだんにまぶして疾走する世界観に、時折ピリッと辛辣なエッセンスを効果的に落とし込んでいく。

チャン・グレ役:前田公輝

(下)チャン・グレ:前田公輝、(上)グレの母:安蘭けい

主演の前田公輝は、およそミュージカルの主人公にはそぐわないチャン・グレという地味なキャラクターを、柔和なふるまいの中に意志の強さを光らせて、独自のリズムで息づかせていた。一見無感情のようでいながら彼の不器用な一喜一憂が確かに見てとれて、どんどん愛おしさと共感が膨れ上がる。そんな彼ゆえ、母親とのシーンで初めて見せた激情の表現には胸を突かれる感慨を味わった。もう一人の主人公とも言えるオ・サンシク課長に扮した橋本じゅんは、ひさしぶりの舞台出演で溌剌と役を生きるさまが微笑ましく、持ち前の愛嬌とシリアスな存在感のギャップに引き込まれる。ただ美しく歌うのではない、歌でドラマを伝える力に何度も魅了された。そしてキャリアウーマンのソン・ジヨン次長にグレの母親、この真逆のキャラの演じ分けを自由に颯爽と、時にコミカルな味を放って魅せた安蘭けい。働く女性たちが励ましあう曲も、愛する息子を信じて見守るナンバーも、観客の涙腺を刺激する圧巻の歌声だった。

オ・サンシク役:橋本じゅん

ソン・ジヨン次長:安蘭けい

誠実な努力と負けん気で不当な扱いにもへこたれないアン・ヨンイ(清水くるみ)、お調子者の笑顔に野心と優しさを秘めたハン・ソギュル(内海啓貴)、エリート意識の隙間にのぞく実直が憎めないチャン・ベッキ(糸川耀士郎)ら、個性豊かなインターン仲間がグレを励ます友情シーンは、客席も巻き込んで弾けまくる愉快なひとときだ。企業戦士の欲望と哀愁を体現するパク・ジョンシク課長(中井智彦)、最高の世話好き&ムードメーカーで場を和ませるキム・ドンシク課長代理(あべこうじ)、グレたち若者を豪快に励ます居酒屋店長(東山光明)、さらに善と悪の顔を併せ持つようなフィクサー的存在のチェ・ヨンフ専務(石川禅)と、それぞれの人物像に十分な深層をもたらした俳優陣の実力はもちろんのこと、人と人との繋がりをきめ細やかに浮かび上がらせたオ・ルピナの演出手腕に唸る。多役を担い、タフなステージングを鮮やかにこなすアンサンブルの一人一人も際立って記憶に残るのは、オ・ルピナの演劇を、人間を愛する眼差しからだろう。「隣に誰かがいること、それがどれほど幸せかを考える時間になれば嬉しい」。稽古場取材での演出家の言葉が思い起こされた。

アン・ヨンイ役:清水くるみ

ハン・ソギュル役:内海啓貴

チャン・ベッキ役:糸川耀士郎

パク・ジョンシク課長:中井智彦

キム・ドンシク役:あべこうじ

居酒屋店長:東山光明

チェ・ヨンフ専務:石川禅

シーンを盛り立てる情感豊かな音楽のどれもが心地よく耳に残り、いまも口ずさめるほど。駆け抜けるような2時間半の中で出会った、今の自分に刺さる言葉がいくつも蘇る。

営業3課(左から)あべこうじ、前田公輝、橋本じゅん

(左から)清水くるみ、前田公輝、内海啓貴、糸川耀士郎

「僕は今、必要な石になれたか?」

チャン・グレのつぶやきは、社会で働く誰もの胸にズシンと響いたのではないだろうか。一人では未生(ミセン=はたしてどう転ぶかわからない弱い石)でも、大勢の力が合わされば完生(ワンセン=完全に生きた強い石)になる。ワンセンを目指すミセンたちの物語は、「ひとりじゃない」と信じる強さを与えてくれる。

「♪ヨルダン」

文:上野紀子    撮影:河上良

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