Yahoo! JAPAN

【第172回直木賞候補作品から③ 月村了衛さん「虚の伽藍」】 例えて言うなら富士急ハイランド「FUJIYAMA」

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。1月15日発表の第172回直木賞の候補作品を紹介する不定期連載。3回目は月村了衛さん「虚の伽藍」(新潮社)を題材に。受賞作の予想は15日午後3時からのSBSラジオ「3時のドリル」内で。

2010年に「機龍警察」で小説家デビュー。日本SF大賞、大藪春彦賞、日本推理作家協会賞など数々の受賞歴がある月村さん。2023年には「香港警察東京分室」が第169回直木賞候補になっている。

「虚の伽藍」を例えるなら、山梨県の遊園地「富士急ハイランド」のジェットコースター「FUJIYAMA」のスタート部分である。「キング・オブ・コースター」を自称するFUJIYAMAは、車体がじりじりと地表から79メートルの高さまで持ち上げられ、そこから地面ぎりぎりまで急降下する。

2部構成の小説の第1部、第2部はそのままジェットコースターのアップ、ダウン部分に例えられるだろう。その「落差」、そして落ちるスピードはめまいがするほどだ。

主人公は伝統仏教の最大宗派・錦応山燈念寺派の宗務庁に勤める、若き僧侶志方凌玄。実家は滋賀県にある同派の末寺で、寺格は著しく低い。第1部はそんな凌玄の「成り上がり物語」と言っていいだろう。欲にまみれた幹部の不正を白日にさらし、出世を繰り返す凌玄。

「仏教で人を救う」「社会をちょっとでもええもんにする」との理想に燃え、「僧兵」に見立てたヤクザと手を取り合って、権謀渦巻く宗務庁で生き残っていく。友に恵まれ、才能を認められ、寺格の高い寺院の娘と結婚する。絵に描いたようなヒーロー譚である。

ところが、第2部の凌玄は一気に「落ちる」。いや、「堕ちる」。ミイラ取りがミイラになるとはこのことだ。修羅の道を行く凌玄。相次ぐ裏切り。人々がどんどん「鬼」になっていく。

ジェットコースターであれば地表まで下ってから上昇に転じるが、この作品は暗い地下をどこまでも行く。ラストに向かって角度が急になっている。落ちるスピードが加速する。動悸が収まらないまま、最後の1行を読み終える。絶叫マシンのような読後感だ。
(は)

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. チップ&デールのスペシャルカフェが新宿ミロードに期間限定オープン

    あとなびマガジン
  2. JALにUSJ塗装機「ドンキーコング・カントリー オープン記念ジェット」就航

    あとなびマガジン
  3. 【アルビレックス新潟・2025シーズン新体制会見レポート】新たなメンバーを加えて、いざ始動!!

    日刊にいがたWEBタウン情報
  4. 日本最大級!阪急うめだ本店「バレンタインチョコレート博覧会」開催

    PrettyOnline
  5. 船カワハギ釣りで24cm良型ゲット【茅ヶ崎・まごうの丸】深場の小さなアタリを攻略して連発

    TSURINEWS
  6. 「ハンギョドン」が激かわサンドイッチに♪【サンリオ期間限定カフェ】の『フード&グッズ』が可愛すぎて神!

    ウレぴあ総研
  7. 【ONE PACT】メンバーによる楽曲解説で感じる音楽の成熟度。2ndミニアルバム『[fallIn’]』インタビュー【メンバー撮影写真満載】

    ウレぴあ総研
  8. 南極ゴジラ新作公演『wowの熱』上演が決定

    SPICE
  9. Maika Loubté オリジナル版がTikTokで累計再生回数100万回突破、「Ice Age - Remix」のリリースが決定 Remix素材の無料配布も

    SPICE
  10. キャストが本番中に劇場を行き来しながら異なるストーリーを同時に展開 『ダブルブッキング2nd!』の上演が決定

    SPICE