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美味しさと未来の食を変える役割を兼ね備えたデンマークのライ麦パン「ロブロ」について知ってほしい!

パンめぐ

イベントで提供されたスモーブロ(オープンサンド)

2025年5月のGW最終日、八王子市南大沢にある「CICOUTE BAKERY(チクテベーカリー)」さん主催の【ロブロ会】が開催されました。
最近、雑誌やSNSでよく目にする「ロブロ」というパン。
気になってはいるけれどどんなパン?という方も多いと思います。
『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(誠文堂新光社刊)を昨年5月に上梓された「くらもとさちこ」さんが、デンマーク在住30年以上の経験から、デンマークの日常食「ロブロ」を通じて食文化や暮らし、食に対する考え方などをわかりやすく話してくださいました。

ロブロってどんなパン?

デンマーク語でライ麦パンのことを「ロブロ(RUGBRØD)」と言います。
RUG(ロ)=ライ麦、BRØD(ブロ)=パン。

基本の材料は、ライ麦全粒粉、ライサワー種(ライ麦と水から起こした発酵種)、塩、水。
そこに砕きライ麦やシード類を混ぜ合わせたものもあります。

デンマークは緯度が高くて小麦が育たない土地のため、耐寒性のあるライ麦は貴重な穀物でした。
ライ麦の栽培年数(1000年以上)と同じだけライ麦パンも作られていて、長きに渡って人々の糧となっています。

デンマークってどんな国?

◉北欧(一般的にスカンディナビア半島を中心とした地域)に位置し、世界で2番目に古い立憲君主国家です。
同じ北欧でもノルウェーとスウェーデンでは大麦とカラス麦しか育たず、ライ麦文化圏=デンマーク王国、という独自の文化を持ち続けました。

◉日本同様、国の資源が少ないため、人材が大事になります。
私が印象に残ったのは「8:8:8」という時間枠の考え方。8時間寝て、8時間働いて、8時間自分のために時間を使うというもの。
基本的には専業主婦やパートタイムという働き方はなく、仕事、家庭、社会において男性も女性も平等の権利と義務、そして可能性を持つ、社会に貢献する、という理念が礎となっているのだそう。

高福祉・高負担国家であるのは、全国民がしっかり働き納税するから平等に権利を享受でき、世界幸福度がトップクラスとなるという構造なのですね。

◉「サステナブル(持続可能な)」を目的とした「オーガニック」の普及。
農家さんにオーガニック食材を作ってもらうために、コペンハーゲンでは100%オーガニック給食にしたのが普及要因の一つでもあるそう。
どんなにいいものを作ってもそれを消費する構図がなければ廃棄することになり結局は作ることをやめてしまい、持続可能な社会にはなりません。

ロブロはライ麦全粒粉を使うため、廃棄する部分がありません。
ライ麦は非常に背が高くそれと同じだけ地中深くに根を張ります。ライ麦の根が土壌中に豊富な有機物を供給し、それにより土壌微生物の活動が活発化し団粒構造を形成。土の通気性や排水性が向上し植物が育ちやすい環境になります。

日本では緑肥(肥料)用の作物としてライ麦を育てていましたが、近年、食用品種の風味の良いライ麦を育てる農家さんも増えています。

◉酪農が盛んではあるがCO2排出量が高いことが問題となっているため、プラントベースフードを推進。
ハード系のパンを食べるときにはバターを欠かさない私なのでこれを聞いたときは正直「これからどうすればいい?」と思いましたが、そういう取り組みがあるということを知ることがまず大事であって、少しずつ意識を変えていくきっかけとなりました。

◉生後10か月からロブロを食べられるのでデンマークでは歯がために使用。
デンマークではどの幼稚園でもロブロが献立に入っています。くらもとさんがシュタイナー幼稚園で菜食の献立作りに携わっていた頃、週に一度、同じ曜日にロブロ献立を用意していたそうなのですが、その日は特に子供たちが静かに食事をしていたのだそう。それは、子供たちはロブロがよく噛むと甘くなるということを知っていて、自然としっかりと噛むようになるからなのです。

◉ロブロはミネラルを豊富に含み、よく噛むことで脳が休まる効果が期待できるため、発達障害を持つ子供の情緒安定に役立つそうです。
兵庫県たつの市にある認定こども園「まあや学園」では、薄くスライスしてパリパリに焼いたロブロを10時のおやつに提供しています。

◉ロブロは、
・豊富な食物繊維で腸内環境を改善してくれる
・よく噛むことで満足度が高くなり血糖値が上がりにくい
など食べることで嬉しい効果が期待できます。

日常的摂取で期待できる10の効果は以下のものが挙げられます。

【くらもとさんがオススメするロブロ(一本買い)の味わい方】
1週間で1本をスライスしながら食べきってほしい。
発酵→熟成→枯れていく感じを楽しんでほしい。

①1~3日目はトーストをせずにそのままでしっとりとした味を楽しむ
②3日目のロブロをスモーブロにするのが好き
③7日目以降は細かくクランチにしてスイーツに使ったり、カリカリに焼いてクルトンのように使ったり

「チクテベーカリー」北村シェフのロブロへの想い

左から北村千里シェフ、くらもとさちこさん、進行役の北原暁彦さん

毎年訪れている北海道の「アグリシステム株式会社」さんが取り組んでいる『リジェネラティブ農業』『リジェネラティブベーカリー』が発端となり、ライ麦を使った商品をもっと作ってお客様に召し上がっていただきたい、と思うようになられました。

2023年からスタートした『リジェネラティブベーカリー』というプロジェクトは、次世代に健全な土壌を紡いでいくために、主に国産ライ麦を使ってライ麦農家さんを応援するパン作りをするベーカリーさんを増やしていこうというもの。
チクテベーカリーさんもそのプロジェクト当初からのメンバーで、前述のライ麦栽培が土壌改善につながること、そのライ麦を食べていただく環境を自分たちパン屋が作り、消費者の皆さんにまず知って手に取ってもらうきっかけとなるよう、今回のイベントの開催に至りました。

このような流れのなか、いつか作りたいと思っていたロブロを作り始め、昨年10月にくらもとさちこさんにお会いして、デンマークで日常のパンとして長く愛されているロブロを通じて日本の食を考える一助となればと、日々パンを作られています。
お米や食パンにはかなわなくとも、健康や土壌のことを考えて、一過性ではなくロブロが日常に根付いてほしい、と。

左:ロブロを使ったスモーブロ、右:ロブロを使ったスイーツ

イベントで提供されたスモーブロ(オープンサンド)。
「cicoute kiosque」で水曜日に販売されている、ロブロに合わせたお惣菜がベースになっています。

ロブロ自体はしっとりもっちりとして、酸味は味に深みを出す程度にあります。
普段はひよこ豆のフムスを使うところ、デンマークでは一般的な黄色えんどう豆でフムスを作ったらひよこ豆よりクリーミーでコクがあったとおっしゃるとおり、とても滑らかで私が知っているフムスとは一味違いました。
新じゃが、ラディッシュの甘酢漬け、菜の花、たっぷりのしらすを載せたボリュームたっぷりのスモーブロは、ナイフとフォークを使ってすべてを一度に味わうことで満足度も上がり、ゆっくりと食事を楽しむという時間にもなります。

スイーツは、日が経って乾燥してきたロブロをそぼろ状にした甘そぼろをベースに、苺のコンフィチュール、フロマージュフレレジェと生クリームを使用したチーズクリーム、トップにあしらったカカオニブのほろ苦さと食感がいいアクセントになっていて、ロブロってここまで本格的なスイーツになるのか!と家でも試したくなりました。

お酒が飲めない私は、デンマーク特産のチェリージュースをセレクト。ぶどうとはまた違う優しい酸味があります。

会場にはロブロを愛するシェフ達の姿も

当日、会場には私のような食べる側の人間だけでなく、食や農業の未来につながるものとしてロブロを作っているシェフ達も大勢訪れていて、ご自分のお店のロブロをお持ちくださり皆で試食しながら各シェフのお話も聞くことができました。

北九州市「ラ・ブーランジェリー・ド・ハリマヤ」の大原シェフが「ロブロは作っていると心地いいパン、リラックスして向き合えるパン」とおっしゃると、
「ゆっくりした工程で温度帯が低いから焦ることもないのだと思う」と広尾にある「BRØD」のクリスティーナさん。
他のシェフ達も同様に感じていらっしゃいました。

和歌山「ストーンズベーカリー」の山口シェフは「持続可能性について考えるようになり、世の中を良くするためのパン=ロブロ、と思っている」と。

ロブロ会に参加して

デンマークについてお恥ずかしながらほとんど知らなかった私。
日本とは異なる環境に、日本の食の未来へのヒントがあるように感じました。

食べることで環境にも体にも良く、そして普段ライ麦が苦手とおっしゃる方達までが美味しいと思うロブロ。ご自分の住む地域や出かけた先のパン屋さんで見かけたらぜひ一度召し上がってみてください。

ロブロを作るシェフ達が心地よくリラックスして作ることができる、ということは食べる私たちにもその感覚は伝わってくるはずです。

タイパやコスパが重要視される現在ですが、ナイフとフォークを使ってゆっくり時間をかけて味わう、ということをロブロ(スモーブロ)を食べるときには意識してみようと思います。

もちろん、毎回そうあることは難しいので、常温で数日保存できるロブロは忙しい人の味方でもあります。
スライスしてバターとジャムを塗ったり、冷蔵庫にあるおかずを載せたり、意外になんでも受け止めてくれる懐の広いパンです。

もっとロブロについて知りたい方は、くらもとさんの著書『ロブロの教科書』を手に取ってみてください。
デンマークのこと、ロブロのレシピ、スモーブロのレシピも写真と共にたくさん紹介されています。
色鮮やかで眺めているだけでも楽しめますよ。

※リジェネラティブ・ベーカリーについては以下をご参照ください。
https://www.agrisystem.co.jp/regenerativerye2023.

※くらもとさちこさんのHP
https://www.kuramoto.dk/

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