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イギリスでフランス料理ブーム!洗練と温もりが矛盾しない「コーナス」の独自性とは?

料理王国

イギリスでフランス料理ブーム!洗練と温もりが矛盾しない「コーナス」の独自性とは?

ロンドンで再び、何度目かのフレンチ・ブームが到来している。カジュアル店から高級店まで、古典フレンチを現代風にアレンジした個性あふれるレストランの創業が相次ぐ中、ひときわ太い幹を持つ「Cornus」が輝いている。

イギリス人のフランス料理に対する愛は本物だ。どんなに他国キュイジーヌに浮気心を揺さぶられようとも、いつかは必ず、戻ってくる。

実際この20年、ロンドナーたちはスペインやバスクの美食タパスに心酔し、エキゾチックな中東料理に胸をときめかせ、日本食のシンプルな佇まいに言い知れぬ憧れを抱いてきた。しかし今、ロンドナーたちはフランス料理の郷愁あふれる定番品への愛を再燃させ、新たな関係を結ぼうとしているようだ。

「フレンチ」と言っても一括りにはできない。今回の再ブームでは、カジュアルなカフェ・タイプの店、業界を知る人々による中間価格帯のビストロ、そして独自の高級路線で常連を惹きつける古典レストランなど、カテゴリーもさまざまだ。

例えば2000年代にかけて流行ったフレンチ・チェーンのリバイバルのような「Café Francois / カフェ・フランソワ」、シンプルで洒落た「Bistro Freddie / ビストロ・フレディー」や「Camille / カミーユ」、あるいはリヨンのブションをテーマにしたクラシックな「Bouchon Racine /ブション・ラシーヌ」や「Josephine Bouchon / ジョゼフィーヌ・ブション」といった店が立て続けに創業し、いずれも大成功中。そして昨年8月、業界の強者チームによる高級路線の「Cornus / コーナス」がオープンし、ブームを堅固なものとしている。

コーナスは高級地区チェルシーで、約15年に渡って地域で愛されるフランス料理店「Medlar / メドラー」を成功させているチームによる2店舗目。両者に共通しているのはフランス料理への大きな愛、そしてゲストへの温かいもてなしの気持ちである。

採光の良い美しい空間。70席を確保する広々としたフロアだ。

床から天井まである窓からはロンドンのスカイラインを望める。右はデヴォン産のカニ肉を堪能する一皿。

コーナスはロンドンのハブ駅の一つであるヴィクトリア駅すぐ裏手の再開発地区にある。見事にモダナイズされた19世紀の倉庫ビル最上階に位置しており、クラシックかつ優雅なインテリアが窓外に広がる都市のアンニュイとどこか共鳴している。おそらく春になれば光に満ち、まったく違う表情を見せてくれるのだろう。

エグゼクティブ・シェフは数々の星付きレストランで研鑽を積み、ついに前職のフランス料理店「Angler / アングラー」にミシュラン一つ星をもたらした実力派、Gary Foulkes / ギャリー・フォークスさんだ。古典フレンチのどっしりとした礎に、欧州、東南アジア、日本、中南米を何年もかけて旅した経験に基づくユニークな彩りが最大の特長。厨房には信頼のおける元同僚を集め、最強のチームを作り上げている。

今回は全9コースのテイスティング・メニューをいただき、その自信と確信に満ちた料理の数々に感服させられた。特に魚介への愛と造詣の深さ。なにしろメインの鹿肉以外、カナッペを含めて全5コースがほぼすべて魚介なのだ。

まず新鮮なスズキを堪能するタルタル。醤油マヨで和えたスズキはまったりとした濃厚な味。オイスター風味のクリームを添え、青リンゴと紫蘇を添えて爽やかさを。続くデヴォン産のカニは持ち味を最大限に引き出すため半分をロースト、半分をスチームして準備し、ワサビ風味のマヨネーズで和えている。透明なヴェールは青リンゴのジェリー。青リンゴのソルベ、アボカドのピューレが本当によく合う。

この2品が続いて登場したため素材とプレゼンテーションが似ているのが気になったが、むしろ目の前の旬素材にまっすぐ向き合うシェフの奇を衒わない姿勢に好印象を持つ結果となった。食材の重複を避けるというよりも、旬に寄り添い、最適解を見つけるのが、ギャリーさん流なのだ。

コーナス名物の「フィル・ハワードのランゴスティン料理」。

完璧なタラのロースト。美しく美味しくシンプルな一皿。

鹿の鞍下肉を、甘い紫キャベツやビーツと一緒に。

メニューのハイライトの一つが、「フィル・ハワードのランゴスティン料理」と名付けられた一品だ。

フィリップ・ハワードさんはイギリスの食業界における最重鎮シェフである。かつて「The Square / ザ・スクエア」という伝説の二つ星レストランのオーナーシェフだった。この料理はザ・スクエアでヘッド・シェフとして働いたギャリーさんが、師に敬意を表して再現したものだという。

さて、「フィル・ハワードのランゴスティン料理」では、太ったスコットランド産ランゴスティンをローストし、その下にムッチリとした歯応えのパルメザン入りニョッキを敷く。トリュフ風味のフィールド・マッシュルームとイカスミのピューレを添え、やはりトリュフを香らせた濃厚なポテト・ソースをかけていただく。まさにセイボリーを堪能するための一品であり、組み合わせが天才的。ふと周りを見回すと、その1皿1万円強するアラカルトのスターターが、どのテーブルにもジャンジャンと運ばれている。この皿は、早くもコーナスの名物料理となっているようだ。

次なるコースは軽く乾燥熟成させたスコットランド産のタラの一品。イカ、ジロール茸のペルシヤード和え、クリスプ・ポテト、カリフラワー・ピューレ、アルザス・ベーコンのソース。その完璧な仕上がりに、料理人たちが上げるギアの音が聞こえてきた。

デザート前のメインの一皿は、香り高く野趣あふれる鹿肉。ミディアムレアに焼いた柔らかなスコットランド産の鹿鞍下肉に、甘く仕上げた紫キャベツとビーツを付け合わせ、マダガスカル産のグリーン・ペッパーコーンのソースでいただく。このペッパーコーンが全体を引き締め、実にゴージャスな味わいに昇華させている。

ヘッド・パティシエのケリー・カレンさんによるデザート。こちらは口直しのグリーン・マンダリンのソルベ。アールグレイ・クリーム、マルメロ&ベルガモット風味。

デザートは2種から1つを選ぶ。写真はアップル・ミルフィーユ。トーストブリオッシュ・アイスクリーム。トッフィー・アップル・ソースで。もう一品はチョコレート・バルケット、キクイモのアイスクリーム、ヘーゼルナッツ。

プチフールはミンスパイ風ミニタルト、グランマニエ・カップ、ミルクチョコレート・ファッジ、フルーツ&ナッツ入りのヌガー。

ドリンクにはかなり力を入れ、店独自のカクテルも開発。バーに入っているのは共同オーナーのデイビッド・オコナーさん。

素晴らしいデザートを含めてコースを食べ終わり、お茶を飲んでいるところへオーナーの一人であるマネージャーのDavid O’Connor / デイビッド・オコナーさんがやってきて、にこやかに旬のみかんを盛ったボウルを差し出してくれた。その瑞々しいオレンジ色とグリーンの葉っぱが瞬時に私を元気づけ、心に灯りをともした。

コーナスは2つの家族が切り盛りするファミリー・ビジネスでもある。共同オーナーはメドラーを2011年に共に立ち上げたデイビッドさんと、シェフのJoe Mercer Nairne / ジョー・マーシャル・ネアーンさんだ。メドラーは料理の質はもちろんのこと、「ゲストへの最高のおもてなし」を理念として掲げ、地域密着型の高級フレンチとして親しまれてきた。コーナスはその延長にある。

ゲストに栄養価の高い美味しい食事を提供し、温かいおもてなしで心から楽しんでもらうこと。食べて健康でいてもらうこと。どちらかというとそれはブション(大衆食堂)的なあり方だけれど、高級フレンチのコーナスの思いもそこに重なる。ゲストはもとより、チームや家族を思う心がコーナスの根幹にあるからだ。

コーナスの温もりは笑顔から発せられている。イギリス人たちがクオリティあるもてなしのフレンチへとまた帰っていくことを、誰も止められない。

Cornus
https://cornusrestaurant.co.uk

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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