神聖かまってちゃん・大森靖子、約8年振りの邂逅は幸福感で満ち溢れた空間に
「ロックもできないくせにっ。」 Supported by 鬱屈ロックスディスカバリー
2025.06.09(mon) 恵比寿 LIQUIDROOM
6月9日(月)・東京・恵比寿 LIQUIDROOMで開催され、神聖かまってちゃんと大森靖子の共演が繰り広げられた『「ロックもできないくせにっ。」 Supported by 鬱屈ロックスディスカバリー』。両者による2マンは、大森のアルバム『kitixxxgaia』のリリースを記念して2017年4月22日に同会場で行われた『アナログシンコペーション キチ編』以来、約8年ぶり。もともと親交が深い間柄であるこの組み合わせに寄せるファンの期待は非常に高く、チケットは即日完売となった。観客を大いに沸かせたこのライブの模様をレポートする。
ふわりと軽やかに舞うかのように大森靖子がステージに登場。「今晩は! 超歌手 大森靖子です。よろしくお願いします!」と挨拶をしてアコースティックギターを手にした彼女は、力強く6本の弦をストローク。オープニングを飾ったのは「PINK」だった。奏でる音色を多彩に変化させながら歌い、時には言葉を溢れ返らせ、突き刺すように叫んだりもしながら物語を浮き彫りにする姿が鮮烈。「あなたが今日ここまで生き延びてくださったことに本当に感謝しています。いつだって代わりに叫ぶので、今日だって代わりに叫ぶので、代わりにこの夕方を延長して夜の奥底まで遊びに行こう!」という言葉を添えて「マジックミラー」に突入して以降、MCを時折挟みつつも、「怪獣GIGA」「ミッドナイト清純異性交遊」「VOID」……様々な曲が連なりながら“ライブ”という1つの作品を描き上げていった。
神聖かまってちゃんの曲は夕方の思い出と重なる旨を語った後に1コーラスだけ歌った「うんめー」は、2017年にゆるめるモ!に提供した曲。歌詞の一節《夕方を延長するのが好きだった》が日没直前の空気を醸し出したのを皮切りに、「給食当番制反対」「SickS ckS」「ひらいて」「パーティードレス」が空のグラデーションを描くかのように展開した。弾き語りのライブの際、彼女はセットリストを用意しない。目の前に広がる空間、観客の表情、ステージ上で感じるものをそのまま歌う曲へとシンクロさせていく。だからこそフロアにいる我々が抱く“自分のために歌ってくれている”という感覚が加速するのかもしれない。歌われている内容と重なる具体的な共通項はなかったとしても、“こういう想い、自分の中にもある”と感じるのは、彼女の音楽に向き合う人の多くにとって心当たりがあるはずの体験だ。例えば「パーティードレス」の中にはバスルームのタイルに“死ね”と描いて水で流す描写がある。同様の行為をしたことがある人はほぼ皆無だろうが、やるせない夜を越えながら懸命に生きる姿は決して他人事ではない。胸の内でひっそりと息づいている感情を抱きしめてくれるかのような感覚を、この日の彼女の歌もたくさん届けてくれた。
女子高生の恋心を小悪魔的なセリフも交えながらキュートに歌った「子供じゃないもん17」を経てスタートした「夕方ミラージュ」は、印象的だった曲として触れておきたい。終盤に差し掛かったところで神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」のフレーズを引用した一種のマッシュアップと化す様に息を呑まされた。2つの曲の世界が地続きとなり、色合いを深めた夕暮れ時の描写が狂おしい。そしてラストの「死神」は、圧倒的な表現力の塊だった。アコースティックギターを背負いながら掲げて歌う姿が、まるで燃え上がるかのよう。“弾く”だけでなく“叩く”“引っ掻く”“掻きむしる”“ねじ伏せる”“撫でる” “ぶん殴る”などしながら無数のニュアンスを放つギターの奏法にも言えることだが、発するあらゆる音を表現へと昇華するのが彼女の弾き語りだ。単なる伴奏+歌にとどまることなく、心、身体、身を置いている空間も躍動させて響かせる音は、体感すると震えずにはいられない。「死神」は、そういう衝撃をまさしく突きつけてくれた。歌が幕切れた直後、「超歌手 大森靖子!」と叫んだ彼女を包んだ爆発的な拍手。マイクをフロア側に向けて拾い集めた歓声を愛おしそうに噛み締める表情が優しかった。
の子(Vo・G)、mono(Key)、みさこ(Dr)、ユウノスケ(B)が登場すると、観客が大喜びしながらSEに合せて手拍子。「隊長(の子は、大森靖子を“隊長”と呼ぶ)、せいこちゃんと久々なんだよ。対バンは8年ぶりとか。俺個人はしょっちゅうLINEとかもして会ってたけど。何があるか最後までわかんねえぞ!」――の子が久しぶりの共演に対する喜びを滲ませた後、1曲目「ぺんてる」がスタート。掲げられたたくさんの掌が満杯のフロアで激しく揺らぐ風景が壮観だった。「精神解放してこうぜ!」という煽りの言葉に完璧に応える空間を作り上げた「死にたいひまわり」「るるちゃんの自殺配信」「Girl2」「イマドキの子」によって、会場内の温度はグングン上昇。飛び跳ねる人々の表情が照明を反射しながらミラーボールのように輝いている。徹底的に解き放たれた踊る喜びが、フロアを揺らし続けていた。
「隊長、大森靖子ちゃんが神聖かまってちゃんのことをリスペクトしてくれてるのは本当に嬉しくて。俺はそれ以上に隊長のことをリスペクトしてます。だってすげえじゃん? 歌1本、ギター1本でさあ。だからありがとう。いきなりのこっちからのオファーして受けてくださったので」――改めて共演の喜びを語ったの子。そして彼が奏でるギターと歌で幕開けてから他のメンバーも合流。瑞々しいサウンドを響かせた「夕暮れメモライザ」に続いて、「映画」と「夕方のピアノ」も届けられた。ファンにとっては先刻承知のはずだが、神聖かまってちゃんは、美メロの宝庫だ。激しい感情をたっぷり含むサウンドが高鳴るほどに胸がキュンとなるのが堪らない。瑞々しい熱量にじっくり浸れた3曲だった。
「ここから撮影OKですので」とユウノスケが告げると、観客が一斉に掲げたスマートフォン。液晶画面の光がフロアを幻想的に彩っていた。そして、メンバーたちと観客が一緒に叫んだ「隊長!」という声を浴びながら大森が登場。ウキウキとしたムードが至福の音と融け合っていった。両者のコラボ曲として2016年にリリースされた「非国民的ヒーロー」は、全力の大合唱、コール、手拍子を無邪気に誘って止まない。歌声を交わし合う大森、の子が心底嬉しそう。そして幸福感で満ち溢れた共演はさらに続いた。観客と何度も交わし合った「イエーイ!」という声が血の通った刺激を添えた「ロックンロールは鳴り止まないっ」の直後、出演を快諾してくれたことへの感謝を伝えたの子。「俺、たまに敬語混じるじゃん? それはやっぱり大森靖子のファンとしてリスペクトしてる気持ちが強いからこそ。隊長からLINEが来ると背筋がピンっ!となる。天才と出会えてよかった」と、少し照れくさそうにしつつも、敬意をまっすぐに語っていた。
ラストの「フロントメモリー」も大森と神聖かまってちゃんの共演だった。サビに差し掛かると、無我夢中で飛び跳ねながら楽しい時間を目一杯に謳歌していた観客。肩を組み、時には顔を寄せ合いながら声を響かせる大森、の子が眩しい。2人の心の共鳴が生む波動は、たくさんの幸せを人々に届けていた。「超楽しかった。ありがとう、まじで! 次はもっとでかいキャパで。今回即完だったから、大きな箱でやれたらいいね。武道館行くぞ! 武道館で決定だ!」(の子)「そうしよう!」(大森)――エンディングを迎えた直後、興奮冷めやらぬ様子で言葉を交わし合っていた2人。再びこの組み合わせのライブが企画されるのは、そんなに遠いことではないかもしれない。それくらい「また一緒にやりたい!」「最高だった!」「来てよかった!」「また観たい!」という想いが終演直後の爽やかな余韻を作り上げていた。
取材・文=田中大 撮影=真島洸(Cuon)