映画『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』子安武人が語る“ヒーロー像”と家族の絆|「リード・リチャーズは新しいところを探りながら、再認識できた役柄」
映画『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』が、2025年7月25日(金)より日米同時公開中です!
マーベル・スタジオ映画には、チームを描いた作品が数多く存在しますが、マーベルの歴史におけるヒーローチームの原点は、マーベル・コミックス『ファンタスティック・フォー』にあります。それだけに本作の映画化は、スタジオにとっても、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)にとっても、ついに実現したプロジェクト。歴史を作ったコミックス『ファンタスティック・フォー』から映画『ファンタスティック4』へ。本作もまた歴史にその名を刻む作品になります。
そして、今作は2026年12月18日(金)に日米同時公開となる『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』につながる最も重要な作品になります。新作でロバート・ダウニー・Jr.が演じるドクター・ドゥームは、そもそもマーベル・コミックス『ファンタスティック・フォー』に登場するキャラクターです。
<ストーリー>
宇宙ミッション中の事故で特殊能力を得た4人のヒーローチームは、その力と正義感で人々を救い、“ファンタスティック4”と呼ばれている。世界中で愛され、強い絆で結ばれた彼ら“家族”には、間もなく“新たな命”も加わろうとしていた。しかし、惑星を食い尽くす規格外の敵”宇宙神ギャラクタス”の脅威が地球に迫る!ギャラクタスの狙いは、新たに生まれてくる子供だった。地球滅亡へのカウントダウンが進む中、彼らが守るのは全人類か、家族か・・・。一人の人間としての葛藤を抱えながらも、4人はヒーローとして立ち向かう。
映画公開を記念して『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』の日本版声優として、リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック役を演じている子安武人さんにインタビュー。作品の見どころや聞きどころはもちろん、ヒーローや家族のお話もお聞きしました。
※本稿は映画本編のネタバレを含むため視聴前の方はご注意ください。
【写真】「得意を封印」子安武人が挑んだ新しい吹替え表現とは?
役者として新しいものを引き出されたキャラクター
──今作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』で、リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック役の日本版声優に決まった時の率直なお気持ちをお聞かせください。
子安武人さん(リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック役/以下、子安):嬉しかったですけど、「これは大変だぞ~」とその時から同時に思いました。
──嬉しかったですか。
子安:それはヒーローですから、嬉しかったですよ。僕はヴィランばっかりですからね(笑)。ヒーローからヴィランに行く役者さんはいるけど、ヴィランからヒーローに行く役者さんて、実はなかなかいないんですよ。だから、「吹替えだと、あるんだ」と思って嬉しくなりました。
「え? 子安はヴィランだよね?」、「ヒーローやるの? できるの?」というような疑問とか、違和感みたいなものもまたいい宣伝ですよね……(笑)。
「どうやってやるんだろう?」と気になりますからね。興味を持っていただけるというのが一番大きいことじゃないですか。「あぁ、想像できるね」とか「わかる、わかる。この声だよね。ペドロさんから出てくるよね」ということよりも、「え? 子安だよね。どうやるの?」というこの興味が素晴らしく重要なんじゃないかと思っています。
ただ弱点は、実際に映画を見てもらった時に、大したことがなかった時が一番やばいので……(笑)。だから、そこは一生懸命頑張って、やらなければいけないなと思ったし、一生懸命やってきました。大変な吹替えのお仕事でしたけど、すごく楽しい収録でもありました。
──レジェンド声優と呼ばれる子安さんにとってもなかなかない経験でしたか。
子安:なかなかない経験でした。僕もいろいろ役をやるにあたって、その役に初下ろすというお芝居を必ず用意するんですよ。今回この役だったら、ちょっと挑戦してみたいお芝居とか、今までしなかったけど、やってみたい表現とか、必ず1個入れようと思っています。
ですが、今回はそういうことを考える必要もなく、新しいものを引き出されました(笑)。
完全無欠じゃないところが魅力
──ご自身が演じられたリード・リチャーズというキャラクターは、どんなキャラクターだと思いますか。
子安:実際に今作のリード・リチャーズの吹替えをするまでは、リーダーとしてすごくしっかりしているし、先頭に立って歩いて、指揮を取って、熱い心があって、「THE ヒーロー」のような人物だと思っていました。
だから台本を読む前までは、リードはそういうものだと思って、そういう身構えだったんですけど、ビックリしましたね。想像していたものが何ひとつなくて、たったひとつあるのは頭がいいだけ……(笑)。ただ、「何でそうなんだろうな?」と考えた時に4人だから、ちゃんと自分の立場や持ち場があるんですよね。
僕が演じるリードは、作戦を考える、立場で、戦闘や戦いは得意なメンバーがいるんです。だから個々の能力を生かすところがあって、戦って強い人には戦ってもらって、リードはリードの仕事をするというような家族としてのチームワークができている。彼らはマーベルの最初のヒーローチームなんですけど、始めからよくできていてすごいと思います。
僕はゲームが好きなので、ゲームでいえば、ロールプレイングゲームのような立ち位置ですよね。戦士がいて、僧侶がいて、魔法使いがいて、そういう感じに当てはめてもらうとすごくわかりやすい。4人いるんですけど、そのひとりひとりが全部ひとりで何かできるというわけではなくて、やっぱり4人で力を合わせてやっていくというのがこの『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』の家族、ファミリーの絆の強さに繋がっていく。その力で世界を守る。決してひとりで何でもやろうと思っていない。そこがいいですよね。
みんな横並びで、誰がいなくなってもダメだというぐらい信頼し合って、みんなで戦っていく。その設定を作品の中ですごく活かしていて、本当にいい映画だと思いました。今作のリードはすごく不完全です。人間としても、夫としても未熟ですし、そこがどんどん成長していく。「ヒーローって何だろう?」とヒーロー像を改めて考えるところもありました。
世界の命運を託されて、「何十億人の命とひとりの命、どっちをとるんだ」という話を突き付けられた時に、科学者としてのリードは当たり前のように、「ひとりの命で助かるなら、何十億人という人を助けるのは当たり前だよな」と考えるわけじゃないですか。
一般の科学者だったら、それでもいいんだろうけど、「ヒーローとしてあるべきリードは、それではダメ。どちらかを選ばないで、全ての人を助けるのがヒーロー」ということを周りの家族から教わる。それができなかったということはたぶんあるだろうし、僕からしてはちょっと甘いかなとは思うけど、でもそれを考えて、実行するのがヒーロー。
だから、リードにとってはすごく難しいことで、頭ではわかっていても、科学者の自分としての考え方があるから、ヒーローの考え方になかなかならない。でも、子どもが生まれて、家族の在り方とか、過去の後悔とか、いろんなものがリードの中にあって、どんどん成長していく。それが見ていて、気持ちがいいですよね。完全無欠じゃないところが魅力的なんだと思います。
得意とするところを封印
──今回の作品でリード・リチャーズ役を子安さんが演じると聞いた時に、声の想像が全然つきませんでした。
子安:それでいいと思います。僕もそうだと思います。違うようにやっているんです。今までの僕だったら、もうちょっと渋かったり、低めの声だったり、少し圧があったりというところがあったかもしれないんですけど、今回はそういうのをいっさい封印しました。
今作でのリード・リチャーズを演じるペドロ・パスカルさんのお芝居がそういったお芝居なので、それに合わせたお芝居をしました。だから、今作では「決してロートーンになりすぎない、圧を入れすぎない」という指示があった上で、吹替えをやっているので、いつもの僕を想像していくと、「あれ? 何か違うな」とか「どうしたんだろう?」とちょっと感じるかもしれません。
ペドロさんのビジュアルの、「渋い感じでかっこいい、ダンディなイメージの低い声にしない」という演出意図が前提にあるらしいです。
だから、低音で声を響かせるようなお芝居ではなく、「中音ぐらいで、普通の一般人、おじさんがしゃべっているような感じにしゃべっているのが理想」という、そんな感じの指示がありました。
──リード・リチャーズは天才と呼ばれていますが、今作では家族を巻き込んでしまったという後悔を感じました。
子安:今作のリード・リチャーズは、完全無欠のヒーロー像とか、何でもできるという立ち位置ではないんです。彼は人間として当たり前に悩むことに悩んでいたり、改善したいことに一生懸命に取り組んでいたりする人間です。だから、ヒーロー的、超然的なお芝居を求められていない。ともすれば、自信がないようなお芝居をされているんです。
今回のリード・リチャーズは、リーダー然とした「引っ張っていくぜ」みたいな感じの人間像からはちょっと離れています。天才とは言われていますけど、科学者が力を手に入れて、地球の平和というものを託されて、「どうすればいいんだ」と思い悩むようなお芝居をされています。
それが今作の『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』では、リード・リチャーズに求められているお芝居で、ペドロさんはそれをやっていらっしゃって、それに合わせた吹替えのお芝居をやっています。
ペドロさんの声を吹替えるというよりも、ペドロさんがやっているリード・リチャーズの吹替えを僕が担当しているということで、なるべく彼がやりたいであろうお芝居をくみ取って、僕自身の我というか、そういうものは封印しています。
──これまでにない新しい子安武人さんを感じました。
子安:ありがとうございます。僕もあまり経験したことがなかったし、もし何も言われず、好きにやらせてもらえるんだったら、絶対に選ばないんですよ。やっぱり得意なところはもうちょっとあるし、僕のよさはちょっと低めになった時の響きとか、そういうところでしゃべる時のちょっと色っぽい感じとか。たぶんみなさんが思うであろう、かっこいいところとか、もうちょっと渋く低くやってほしいなと思うのを僕だって想像できているんです(笑)。
ですけど、そういうようなお芝居をすると、今回のペドロさんのリード・リチャーズのお芝居とは合わないので、新しいところを探りながらやりました。だから僕の中でも、「まだまだ僕にはこういうものがあったんだな」と再認識できたとても有意義な吹替えの仕事だったような気がしますね。
日本版声優は意外性のあるキャスト
──今作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』の見どころや聞きどころをお聞かせください。
子安:映画としては、家族、愛、絆というものが根底にあって、それがテーマです。そういった戦い以外での心の交流みたいなところは見どころになるし、ペドロさんのお芝居が本当に繊細です。あのダンディな渋いイケオジからは想像できないようなチャーミングなお芝居がところどころにうまい具合に入ってくるんですよ。
「何でこんなかわいい表情やしぐさをするんだろう」というところがあって、ファンが見たら、「ペドロ、かわいい~!」と思うんじゃないのかなというお芝居がいっぱいあって、それはひとつの見どころであるかもしれません。
それから何といっても、これは“ファースト・ステップ”です。この作品はこの後の『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』に繋がる話なんですよ。今作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』として見るだけでも充分面白い作品にも関わらず、ここからどう繋がっていくのか、想像できないですし、全くわからないので、これは見ておいた方がいいですよ(笑)。
いきなり『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』を見ても、たぶん大丈夫だと思うんですよ。でも今作を見ておくと、繋がりがよくわかりますし、何よりも『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』のお話として、非常によくできたヒューマンドラマですね。
あとは、敵もかっこいいんですよ。宇宙神ギャラクタスも恐ろしくて、「こんなやつに勝てるのかよ」というヴィランです(笑)。
日本版声優は、意外性もあるので、ぜひ見られる環境があれば、日本語吹替版も面白いんじゃないかと思っています。
家族は本当に大事で、助けられている存在
──今作では家族やヒーローがテーマとなっています。子安さんにとって、家族やヒーローとはどのようなものですか。
子安:僕は家族に救われている人間なので、家族は本当に大事だなと思うし、家族っていいなと思っている人間なんです。
仕事は楽しい仕事ばかりじゃなくて、辛い仕事もあるし、苦しいこともあるし、プレッシャーに押しつぶされそうなこともある。でも、そういうものから、家に帰って来た時に、「この空間は何て癒される空間なんだろう。」と思えるようなリセットができる。それが僕にとっての家族です。
例えば、妻の顔を見たり、会話をしたり、一緒にゲームをして遊んだり、息子の顔を見たり、息子とくだらない話をしたり、娘にちょっかいを出したり、出されたりとか(笑)。そういうようなことをしていると、小さいこととか、悩んでいたこととか、別にどうでもいいかなと思えるようになりますね。
ヒーローは憧れる架空の存在ですよね。それはTVやスクリーンの中で、僕ができないことを具現化してくれて、やってくれる人たち。それが現実にいるとは、認識していないですね。「もしかしたら、いるのかもしれない」と考えるのは、非常に楽しいことではあるけれど、そこまで現実と交差してはいないです。でも、「ああいうふうになれたらいいな」と思うのがヒーロー。
だから、それを今回は叶えられて、ヒーローを演じさせていただけたのは、非常に嬉しかったです。ただ、思い悩んでいましたけど(笑)。彼は完全無欠じゃなかったので、ちょっとそこは僕のヒーロー像とは違って、すごく人間味があって、よかったことではありましたけど。「リードも頭はいいけど、意外と悩むことは俺と一緒じゃん。それはそうだよな。人間だもの」と思いながらね(笑)。
──お芝居を演じられる上で、子安さんが大切にしていることは、どんなことですか。
子安:既成概念にとらわれないこと、思いこまないことですね。「こうでなくてはいけない」とか「こうあるべきだ」という考えは極力排除して、「こういうキャラクターだから、こうやればいいんだよな」というようなアプローチは考えないようにしていますね。
「常にナチュラルに、フラットに、自分の心と身体を置いておけなければいけないな」と思っています。
──ありがとうございました!
[取材&文・宋 莉淑(ソン・リスク)]