家事の達人・藤原千秋さんに聞く「家事がしんどいのは自分への呪い」
面倒だったり時間がかかったり…毎日の事だからこそ家事の悩みは尽きません。
読者の皆さんにご協力いただいたアンケートを基に、家事の達人・藤原千秋さんにお悩みをぶつけたところ「自分がやらねばという思い込みも大きいのでは」ときっぱり。
家事へのこだわりを捨ててみたら意外とラクになるのかも…?
家事がしんどいと思っている方はぜひご一読を!
教えてくれたのは…
藤原千秋さん「家のなか」の事をテーマにweb、雑誌、書籍、新聞等で執筆。大手住宅メーカー営業職を経て2001年よりAllAboutガイド。『きほんから新発想まで 家事ずかん750』(朝日新聞出版)等、著監修書多数。2020年より東京中日新聞にてコラム『住箱のスミ』連載中。2018年よりTBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』月1レギュラー出演中。
AllAbout 家事・掃除・子育て https://allabout.co.jp/gm/gp/31/
Yahoo!ニュース個人 https://news.yahoo.co.jp/byline/fujiwarachiaki
文春オンライン https://bunshun.jp/list/author/61444eb47765619d04010000
集英社LEEweb https://lee.hpplus.jp/column/series/souji/
家事のシェアはまずこだわりを捨てて
―今回のアンケートでは、9割近くの読者の方から「家事がストレスに感じる」とのお答えがありました。
こちらの結果、とても興味深いですね。
私が家事について(コラムなど)書き始めてだいたい24年。その間、夫婦2人の時期があったり、今は夫が主に家事をしていたりと状況は変わっていますが、当人が大変と感じるかどうかって数値で表せることではないんです。「私にとってラクだったからあなたもそうでしょう」とはならない。
とはいえ、この9割の中には既にキャパオーバー状態の方もきっといて、それが長く続くと体調を崩して倒れてしまう恐れもある。暗黙の了解のように女性が家の事を全て背負うのではなく、誰が何をやってどう共同生活を送るか…各家庭の事情を踏まえてルールや条件を決めるべきなんですよね。
実際、私と夫とで大黒柱をチェンジしてみたら私自身が「できない旦那さん」みたいになってしまったんですよ。なので家事をやるかどうかって、「性差」ではなく単純に役割と覚悟なのだと学びました。
―家事を家族とシェアしたいけど、結局フラストレーションがたまって自分がやるという話も聞きます。
私は「夫育て」という言葉が大嫌いですが(笑)、世の中の夫の多くが家事をやりたがらない一番の理由って、やったことに対していちいち文句を言われるからなんです。
強い言葉でいうと、無意識に主婦が家庭を支配・コントロールしている。
靴下の干し方一つでも「私のやり方に従え」ってなれば、そりゃやる気なくなるよねっていう。押し付けてくるそのやり方だって別に正解ではなくて、いわば「謎のしきたり」ですよ。おそらく自分が育った家庭でのやり方。そして夫も自分のお母さんのやり方を踏襲し始めたら、また争いの火種になります。
そういう変な指導やダメ出しをしないだけでも、家事への参入障壁は下がります。
やり方については家事に関する本など、第三者的な視点を取り入れるのもアリ。家庭内で家事に関する上下関係を作らないことがまず大事ですね。
―寛容であれ、と。
そうそう、寛容ね。だから冒頭のアンケートのストレスに関しても、実は作り出しているのは自分ってことが案外あるのではないでしょうか。謎のこだわりが多くて勝手に家族とバトルしている。
―確かに、「あれも私がやらなきゃ、これも私がやらなきゃ」って自分を追い込んでいることがあるかもしれません。
いわゆる「被害者ムーブ」ですね。真面目な人ほど「ちゃんとしなきゃ」という呪いで自分をがんじがらめにしているのでは。SNSの流行によって他人の家庭内が可視化されたのも、それに拍車をかけてしまいました。切り取られた一部の画像はきれいでも、きっと見えないところはそうではないのにね。
私は常日頃から家事の目的は、日本国憲法第25条「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」にあると明言しています。「SNS映え」とか「ていねいな暮らし」とかを気にしていたらキリがないけど、「生きていればいい」まで目標を落とせたら気楽になるんじゃないでしょうか。
イライラするなら頑張るのをやめよう
―ありがとうございます。アンケートでは家族の好き嫌いを考慮した上で毎日の献立を考えるのが大変というご意見もいただきました。
これも「主菜・副菜・汁物」の呪いにかかっています。「絶対に3品作らないといけない」とか…、ちょっと理想が高すぎですよ。
例えば副菜の1品を納豆やめかぶ、生卵、トマトやきゅうりなどの生野菜にすれば解決。時には市販のお総菜を頼ってもいいし、冷凍食品やレトルト食品も今はいろいろあります。
ちなみに、わが家は「夕飯は納豆ごはんのみ」という時代もありました。納豆・味噌・醤油は日本人の英知。卵と醤油があれば卵かけごはんができるし、味噌をお湯でとけば味噌汁です。1週間のうち1日くらいはそういう日があっても大丈夫。逆に毎日真面目に作って嫌になってしまって、結果外食して散財となるよりは経済的にも精神的にもいいことです。
話は逸れますが、ビールと炭酸水の関係性について個人的に長年考えていて、ビールが飲みたい時に炭酸水を飲んだら満足しちゃうこともあるんですよね。結構、思い込みで自分が自分にだまされていることってあるなあって。
「頑張って作らないと」「好き嫌いを直さないと」ってキーキーしている人と一緒に食べるごはんが果たしておいしいのか。一度立ち止まって、物事の本質を考えてほしいなとも思います。
―家族に喜んでもらいたいからやっていることなのに本末転倒になっていたかもしれません。
掃除もそう。家が散らかるのは家族が元気にそこで暮らしている証拠です。だから家が散らかることを不幸の種と思わないでほしいんです。
生活しているから汚れる・散らかるのは当たり前で、正直モデルハウスのような家に暮らすのは不可能。インテリア雑誌に出ている多くのおうちだって、たいてい直前に整えて撮影に臨んでいるモンです。
小さなお子さんがいて、口に入れたら危ないものが床に散乱しているのは良くありませんが、そうでないならいちいち気にしない。見て見ぬふりして週末にみんなで一気に掃除機かければいいんですよ。 「うちはこのレベル」ってところを決めて生き延びていきましょう。
家族の笑顔を最優先に考えよう
―片づけてもすぐ元通りになるっていうお悩みもありました。
ということは、元通りになった状態がその家の本来の姿ということです。片づいている状態が特別だと思った方がいい。
(アンケート結果を見ながら)片づけてもきれいに見えないというお悩みもありますね。その場合はスマホなどで写真に撮っておいて、家とは違う場所で客観的に見てみると気付きがあるかもしれません。
お子さんがいらっしゃる場合は、散らかった部屋の写真を十数年後に見て懐かしんで泣く日が絶対に来るので、そういう意味でも記録として撮影するのはおすすめです。子どもが巣立ってしまったら、落ちている髪の毛1本でもいとおしく思えます。
お子さんの工作もたまる一方だと思うので、写真に撮って本人が忘れたころに処分。どんどん新陳代謝させていくのがいいのですが、5歳を超えたら本人の意思も大事にしてあげてほしいです。
先ほども言いましたが、あまり家族を支配・コントロールするのはよくありません。家を整えたいがために、一緒に暮らす家族の尊厳を冒すのは違いますから。
これは私の反省点なのですが、仕事で自宅にカメラを入れていた時期があって、その頃は必死で掃除をしていました。
ところが当時を振り返って子どもたちが「あの頃のお母さんは怖かった」と言うんですよ。その後家での撮影をやめてからはかなりいい加減になったんですが、そっちのお母さんの方が好きって。家をきれいにしたいと鼻息荒くしていたけども、それで満足していたのは自分だけだったんですね。
―子どもにもつい「片づけなさい」って言っちゃいます。
お子さんが片づいている状態が好きかどうかで考えたらそうではない。それより、お母さんやお父さんが笑っている方がいいのではないでしょうか。
―あとは洗濯物問題。次から次に洗濯物が出てくるし、とにかく畳むのが面倒というご意見多数です。
畳みたいなら畳めばいいし、面倒ならやめましょう。うちは、乾いたらかごなどに放り込んでおのおのが必要なものをそこから探して取っています。干した状態から果物狩りのように必要な下着や洋服をもぎ取る方法もいいですよ。
ただしニオイが出るので、洗濯はした方がいいし、洗ったら必ず干した方がいい。そこまで頑張れたら畳むのは優先順位低めでOKでしょう。
―お子さんがいる方からは、上履き洗いや習字の筆洗いについても質問が多いようです。
上履きはつけ置き洗いが一番効率的だと私は結論を出しているのですが、それでも汚れますし、小学生ってどんどんサイズアウトしてすぐに買い替えるので神経質にきれいにすることもないのではと思います。
習字の筆もお子さんに洗ってもらいましょう。汚れが飛び散るなら後から拭けばいいんです。
繰り返しになりますが、理想の高さゆえに苦しくなっている方が多いのでしょうね。
―あとは、冒頭でも少し触れた家事のシェアについてですが、お願いすると家族でなすりつけ合いが始まるというお話も。
私のおすすめは、家事を担っているお母さんが2週間くらいふっと急に家を空けることです。出張の多いお母さんの家って意外ときちんと家事が回るそうなんですよ。限界が来て倒れてしまう前に手を打ちましょう。
―ここまでお話を聞いてきて、家事のストレスの多くは「自分で自分に呪いをかけているから」という事に気付きました。逆に、これだけはやった方がいい事ってありますか?
パンツは洗った方がいい、あとはおなかを壊さないように食品の鮮度は気を付ける。そのくらいですかね…。
お子さんがいる家庭に限った話になってしまいますが、そもそも母親や父親じゃないとできないことって、ごはんを作ることでも掃除をすることでもないはずなんですよ。本来なら他の人にできないことを自分たちが優先的にやるべき。なのにそれを飛び越えて家事を完璧に、というのは少しおかしいと思うんですよね。
私たちの親世代は「お母さんが家事に全振り」が当たり前の環境で育ってきました。ですが、共働きも増えた現代で同じことをやるのはまず無理です。
思い込みにとらわれず、「家族の幸せは何か」を考えれば、おのずと家事に対する気持ちも楽になるのではないでしょうか。