迷いながら通常学級へ就学、小3で特別支援学級へ転籍した息子。きっかけは小2から増えた気になる行動で…
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
幼稚園での気になる行動。特別支援学級への就学も視野に入れていたけれど
わが家の長男のトールは、小学1年生から2年生の間は通常学級に在籍し、小学3年生で特別支援学級に転籍しました。トールが小学校に上がる前、特別支援学級への就学について全く考えなかったわけではありませんでした。幼稚園では、お友だちとの関わり方が苦手で、手が出てしまうなどのトラブルや、おとなしく椅子に座っているのが難しいこともありました。年長の頃、担任の先生に就学について相談すると「絶対に特別支援学級でないと無理だとは思わない」と言われました。私自身も、実際に小学校に入ってみないことにはトールがどうなっていくか分からないなと感じていました。そのため、発達検査の予約をして、その結果を参考にしようと考えていました。
ところがそんな中、トールが年長の夏に夫の転勤が決まり、小学校入学の時期に合わせて別の県に引っ越しすることになりました。引っ越し先には土地勘がなく、夫の職場から通える距離で、暮らしやすい地域はどのあたりなのか……など調べるところから始めなければなりません。新しく借りる家を契約するのは引っ越しの直前になるため、トールは2月の終わりまでどこの小学校に通うかまだ決まっていないという状態でした。引っ越しのバタバタで、予約していた発達検査もキャンセルせざるを得ませんでした。
いろいろなことが重なって、トールが特別支援学級に進むかどうか、あまり具体的に検討することができないまま、引っ越し先の小学校では通常学級に進学することになりました。
小学校生活がスタート。1年生の間は大きな困りごとはなかったが……
不安を抱えた中で始まった小学校生活でしたが、小学1年生の頃のトールは、毎日を楽しく過ごしているようでした。しかし、小さな問題はいくつかありました。授業中の発表の時にまだ先生に当てられてないのに話をしてしまったり、あたりをきょろきょろ見回したり、声の大きさが調節できなかったりなどです。それでも当時は、まだ小学1年生だったということもあり、「クラスで少し行動が目立つ子」というくらいの認識でした。
担任の先生が発達障害に理解のある先生だったというのも大きな助けになっていたと思います。
先生は、トールを先生に1番近い席に座らせて、何かと気にかけて下さっていました。トールやほかの誰かが大きな声を出した時など、本人に適切な指導はしつつも、周りの子に対しては「あまり気にせず、自分のやるべきことをやりましょう」と伝えてくださっていたようでした。
周りの人たちや環境に恵まれて、小学1年生の1年間は無事に過ぎていきました。問題が出てきたのは小学2年生になってからでした。
感染症の流行で休校から始まった2年生の新学期。環境の変化で息子にも影響が……!?
トールが小学2年生に進級する直前、新型コロナウイルスの流行で学校が休校になりました。トールの小学校は毎年クラス替えがあるので、新しいクラスのメンバーや新しい担任の先生と顔を合わせることもなく、新学期がスタートしました。
休校が明けて少し経った頃、トールが「朝起きるのがつらい」と言い出しました。「あんまり学校に行きたくないなぁ」と言うこともありましたが、長いお休み期間もあったので、学校に行く毎日に体が慣れていないのかもしれないと思いました。
しかし、トールはだんだん怒りっぽくなっていきました。1年生の頃までできていた宿題も何時間もかかるようになっていき、些細なことでイライラして怒ることが増えました。
担任の先生から連絡も来るようになり、学校でも非常にイライラしたり、怒ったり泣いたりすることがあるとのことで、初めて2年生の担任の先生と会い、面談を行うことになったのでした。
発達障害の診断はあっても、学校での支援は手探り状態
トールは小学1年生の終わりに病院を受診し、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の診断を受けていました。そのため、1年生の頃の様子も含めて2年生の担任の先生にも申し送りをしてもらっていました。
しかし新しい担任の先生は、発達障害にあまり詳しくないとおっしゃっていて、どのようにしたらトールが学校で穏やかに過ごせるようになるか、細かく情報共有をしながら取り組んでいこうということになりました。
こうして、学校側も私たち保護者も、お互いに手探りのような状態で始まったトールの小学校生活2年目でしたが、最終的にトールは翌年、小学3年生で通常学級から特別支援学級へ転籍することになりました。その後の特別支援学級へ転籍するまでのことは、また別の機会に書かせていただきます。
執筆/メイ
(監修:鈴木先生より)
教育と医療の連携が重要です。自治体によって神経発達症への取り組み方は違います。各自治体の教育委員会が医師会など医療と連携できているところは、ほとんどの先生が神経発達症についての正しく詳しい知識をもっており、どう取り組んだらいいかを理解しているのです。
ただし、同じ自治体内であっても、学校によって取り組み方に差が見られる場合もあります。職員会議などで神経発達症のお子さんへの接し方などを共有している学校もあれば、残念ながらそのような取り組みが十分になされていない学校もあります。学校によって差が出ないように各自治体の教育委員会が指導していくのが望ましい形ですが、そのためにはまず、教育委員会と医療がしっかりと連携していることが重要なのです。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。