九州の海景を堪能できる水族館<マリンワールド海の中道>に行ってみた 丸1日遊べる充実の展示【福岡県福岡市】
思い出の水族館はありますか?
筆者は九州出身ということもあり、福岡県福岡市にある「マリンワールド海の中道」を思い浮かべます。
数年前にリニューアルされましたが、水槽は以前とほとんど変わらないまま、<九州の海景>をテーマに展示が生まれ変わりました。
今回は「マリンワールド海の中道」のおすすめ展示を中心にレポートします。
なお、本記事は2024年9月の訪問を基に執筆しています。現在とは展示内容が異なる可能性もありますので、ご注意ください。
東京からマリンワールド海の中道へ!
東京から福岡・博多空港までは飛行機で2時間ほどで到着。空港からマリンワールド海の中道までは、博多・天神などの主要駅からバスで向かうか、電車を乗り継いで向かう方法があります。
福岡市の中でも主要エリアからはやや離れた場所にあるため、電車やバスの本数が限られています。交通手段については事前にしっかりと確認しておきましょう。
<マリンワールド海の中道>の入口 昔からあるイルカのモニュメント
まずイルカのモニュメントがお出迎え。このモニュメントは子どもの頃からずっとあります。
これを見ると、「マリンワールドに来たな」と実感します。
そして、モニュメントの後ろに見える建物が水族館。とても特徴的な建物は「白亜の貝殻」がモチーフとなっており、世界有数の芸術の祭典「ヴェネツィア・ビエンナーレ」で金獅子賞を受賞した建築家・磯崎新氏による設計です。
建物も子どもの頃から馴染みがあり、何とも思っていなかったのですが、大人になって様々な水族館に行ってみると、マリンワールド海の中道の“建築物としての面白さ”に気づきました。
玄関を入ると、とても天井が高くて開放的。多くの水族館は入館すると水槽があり、真っ暗な印象があるので、初めて来た人は少し不思議な感覚かもしれません。
ちなみに、水族館を建築の観点から楽しむ『イラストで読む建築日本の水族館五十三次』(編:宮沢洋、青幻舎)という面白い本があります。ありとあらゆる角度で“水族館道”を極めたい人におすすめです!
いざ<マリンワールド海の中道>の展示エリアへ!
順路では、まず最初に<九州の近海エリア>ということで、ゴツゴツとした岩壁と荒々しい波が神秘的な玄界灘をイメージした水槽があります。
訪問時にはお客さんが多かったため、全体の写真を載せることはできないのですが、水槽は天井から縦長に続いており、一定時間が経つと大きな波が天井にどどんと流れ込んできます。
一面が真っ白な波に包まれて、お客さんたちはびっくりしますが、波に飲まれる魚たち自身は逃げることもなく堂々としています。
福岡に面している「玄界灘」は、発達した大陸棚に対馬海流が流れ込む、険しい海域。それが見事に再現されています。
リニューアルされる前はアーチ状の水槽が入り口になっており、潜るとフロアの真ん中に下階まで繋がる大型の円柱水槽がありました。どのように生まれ変わるのか気になっていましたが、九州を代表する「玄界灘」の海が登場したのには感動しました。
「玄界灘」は福岡県民をはじめとした多くの人の魚食を支えているだけでなく、プロ野球チーム「ソフトバンクホークス」の応援歌にも登場するなど、県民にとってアイデンティティのような存在。
マリンワールド海の中道のテーマは、「水の中に潜む、もう1つの九州を見に行こう」。私の大好きな「地元の海」に関する展示をさっそく見られて大興奮です。
充実!<九州の近海エリア>
<九州の近海エリア>が続きます。幅広い水槽で展示されていたのが、アマモ。
奥の方で魚たちが固まって泳いでいますが、ゆらゆらと揺れるアマモの緑の瑞々しさがとても印象的です。
糸島半島と志賀島で区切られた博多湾は、非常に穏やかな海。アマモ場には玄界灘から栄養が流れてきて、希少な生態系を生み出しています。
福岡では港湾部での開発が多く、アマモ場があるイメージはあまりなかったのですが、こうした生態系は守り共存していかなければなりません。
夏になると対馬海流に乗ってくる?熱帯幼魚の展示
また、近くにはゴマフエダイやハナミノカサゴなど熱帯幼魚の展示もありました。
福岡では夏になると、対馬海流に乗って暖かい海の魚(いわゆる死滅回遊魚)がやってきます。私も子どもの頃によく獲っていたな……と思いを馳せます。
他にも、身近な生き物たちの展示を発見。マリンワールド海の中道の近くにもいるという、サラサエビです。
サラサエビは、潮通しの良い地域で岩や転石の隙間で暮らしています。
地元の工芸品として加工されることも多い身近な貝・ヒオウギガイもいました。
水族館に行くと、どうしても大きかったり泳ぎが速かったり、はたまた見た目が派手だったりする魚に目が向きがちですが、こうした小さな魚や生き物たちこそ、地域らしさが出ます。
鹿児島・錦江湾の展示も 溶岩に触れる?
同じ九州の海ということで、近くには「錦江湾」の展示も。
以前、鹿児島水族館に行った際にも錦江湾の展示がありましたが、火山活動が活発な地域の海ということで、溶岩を思わせるような石と共に鮮やかな魚たちの展示がされていました。
また、面白かったのが、溶岩の展示。なんと実際に溶岩に触れることができます。
魚に触ってみよう!という展示はよく見かけますが、溶岩石を実際に見て触れるなんて、すごくないですか?
溶岩石はゴツゴツ・ザラザラのイメージがありますが、意外とツルッとしたものもありました。ちなみにゴツゴツした岩の方が軽いそうです。
実際に触ってみることで、錦江湾の展示への解像度がグッと上がりますね。
そのほか、タイ類が悠々と泳ぐ大迫力の展示もありましたが、泳ぎが早すぎる&魚が大きすぎるので、写真にはうまく収められませんでした。ぜひ生で見てもらいたいです。
九州の海と言えば……独特な魚たち
順路を進むと、九州を代表するようなサカナたちに出会えます。
まずアオリイカ。呼子のいかしゅうまいをはじめ、主に佐賀県を中心に有名ですね。
昔のマリンワールド海の中道には、イカ墨とタコ墨の違いをデモで見れる装置がありました。
イカ墨は敵に吐いた墨を自分の姿と錯覚させるのに対して、タコ墨は敵の目をくらませるために吐く墨といった感じで、用途が違うそうです。
なので、イカ墨は水中でも溶けにくい粘り気のある墨で、タコ墨は水溶性の墨と質にも違いがあるとのこと。水槽のイカ達は泳ぐのが速かったので、一瞬で逃げていくのだろうなと想像がつきました。
有明海のエイリアンも
イカ水槽の反対側には、一時期流行したエイリアンのような魚・ワラスボがいました。泥地に潜って生きているため目が退化しており、口元の歯が目立ちます。
その見た目から“有明海のエイリアン”とも呼ばれるワラスボ。食用にもなっていて、特に干物はお酒のアテに人気です。
日本では有明海でしか見ることのできない珍しい魚。想像以上に長さがあり、初見だとかなりインパクトがあります。
さらに隣には、同じハゼ科の魚で有明海の珍魚とされるムツゴロウも展示されていますが、この2種は他の地域ではあまり展示されているのを見たことがなく、まさに九州ならではと言えそうです。
この珍魚たちはぜひ見てみてほしい!
有明海とその周辺の河川にのみ生息する日本の固有種・ヤマノカミ
そして、もう1種。魚好きなら絶対に1度は出会いたいであろう魚・ヤマノカミがいました。
有明海と周辺の河川にしか生息していない日本の固有種。幼魚の時は海で暮らしますが、成長とともに川を上って淡水域で暮らすカジカの仲間です。
名前の由来については様々ありますが、自分より美しいものが許せない山の神様のためにブサイクな魚としてヤマノカミを献上していたところ、魚の名前が「ヤマノカミ」になったという説があります。
近年の開発の影響もあって数が減少しており、絶滅危惧種になっています。その見た目の美しさと希少さでファンは数知れず。
自然ではなかなか出会うのが難しい生き物に出会えるのが水族館の良さの一つですが、まさになかなかできない出会いを果たせる貴重な経験。ぱっちりとした目が本当に可愛いのですが、特徴的な鰭と柄の鮮やかさが芸術的で、とても美しく、時間も忘れて観察してしまいました。
九州の漁業を学べる展示や飼育が難しい魚の展示も
九州の魚を中心に展示が従実しているマリンワールド海の中道ですが、前述の溶岩展示のように、水槽の近くには様々な資料が展開されています。
特に九州の漁業に関する展示は見応えがあり、学べることが多いです。
ここまで丁寧に文化資料を展示している水族館は珍しく、様々な角度から九州の海を堪能できて面白かったです。
展示がとても難しい刀のような魚<タチウオ>
前半展示エリアも終盤になりますが、ここで筆者が昔から大好きな展示<タチウオ>を紹介します。
福岡の地魚で、博多湾では春先にタチウオ釣りも活発になります。
暗い水槽で撮影がなかなか難しいですが、背鰭の透け感と体表のきらめきが伝わりますか……?
近くで見ると、より体表のきらめきを感じます。
タチウオをこの距離感で見られることはなかなかありません。タチウオは鱗がなく、非常にデリケートなので飼育が難しいとされています。筆者も、マリンワールド海の中道の他では、東京・豊島区にあるサンシャイン水族館で1度見たのみです。
水槽の照明が当たると、体表がキラキラと輝きます。まるでタチウオ自身が光っているようで、その光景からはいつまでも目が離せません。
淡水域の生態系も! ビオトープ展示が美しい
フロアを進むと、淡水魚を中心とした展示があります。
中でも注目したいのが、絶滅危惧種に指定されているハカタスジシマドジョウをはじめとした、九州固有の淡水魚です。
ハカタスジシマドジョウは、背鰭まで模様が入っていておしゃれな見た目です。
他にもサンショウウオやドジョウなどの淡水魚もいるのですが、開放的な池の展示があってこちらも見ていて楽しいですよ。
水族館の目玉<外洋大水槽>
さて、前半展示が終わると、マリンワールド海の中道の目玉である<外洋大水槽>の登場です。
どーんと大迫力のこの大きさ、伝わりますか……?
長いスロープを降りて近づくと、より水槽と生き物たちの大きさに驚かされます。
水槽ではシロワニのほか、イワシの群れやエイが目立ちますが、展示されている魚たちの大きさや数のバランスがちょうど良く、全体での美しさを感じます。
水槽と言うよりも、切り取ってきた“本物の海”を見ているよう。水槽の前には椅子もあるので、ここでゆっくり眺めることができるのも、筆者がこの展示が好きな理由の1つです。
水槽に近づけば、その“距離の近さ”にも驚きます。特にシロワニは他の水族館だと見上げて観察することも多いのですが、ここでは同じ目線でシロワニを見ることができます。
シロワニの正面顔は、なかなかの迫力。サメ好きにはたまらないこの距離感。海に潜っているかと錯覚してしまうほどです。
大きなエイも間近で観察できます。子どもの頃は、この背中に乗って一緒に泳ぎたいなんて思っていました。
大人も子どもも夢中になってしまう、魅力的な水槽です。
魚だけじゃない!<かいじゅうアイランド>
ここまで魚類の展示をメインにご紹介してきましたが、マリンワールド海の中道は海獣類の展示も充実しています。特に筆者が入館して真っ先に向かうほど好きなのが、<かいじゅうアイランド>というエリアです。
イルカやペンギン、アザラシ、アシカといった海獣たちがいますが、その距離感は大水槽に負けず劣らず。水槽の丸窓を覗くと、カマイルカが遊びに来ました。
丸窓を眺めているとよく近づいてきてくれ、そのたびに遊んでもらっていたので、私はカマイルカが大好きになりました。いつまでも元気でいてほしいです。
タイミングが合えばトレーニング風景を見られることもあります。また、有料ですが、餌やり体験もあり、動物たちを身近に感じることができます。
館内にはスナメリも……!
館内に戻ると、珍しいイルカがいます。九州地方でもよく見られる、スナメリです。
スナメリは漢字で「砂滑」と書きます。口から水を吹きかけて砂に隠れる魚を見つける姿が、砂を舐めているように見えることから「砂なめり」→「スナメリ」になったと言われています。
実際に器用な口元を生かしてバブルリングを作ってみたり、おもちゃを駆使して遊んだりするスナメリたち。仲良く一緒に泳いでいますが、水槽の位置が低めの設計になっているので、表情も良く見えます。
とても可愛らしいので、ぜひ会いに行ってみてください!
博物ファンも大興奮!? ありとあらゆる標本展示が充実
マリンワールド海の中道では、実は展示の後半に多くの標本が登場します。
かなり形も綺麗で、標本では見たことのないような魚もいました。
反対側の水槽に生きている魚の展示があることもあってか、あまり注目して見ている人がいないのがもったいない。
同じエリアに透明標本もあり、色付きがとても綺麗。透明標本はさまざまな薬品を使う繊細な作業が必要で、骨の硬いところは赤く、柔らかいところは青色に染めます。
大型の液体標本がずらっと並ぶ様は圧巻。これは水族館の職員さんが全て染めているのでしょうか? とんでもないプロの仕事です。
骨格標本も充実 特にサメの口元の標本が豊富
さらに順路を進むと、骨格標本が集まるエリアがあります。大きいものから小さいものまでたくさんありましたが、特にサメの口元の標本が豊富。
大型の肉食系のサメは鋭い歯を持っているのに対し、貝類などを食べる穏やかなサメは平たい歯を持っていて、同じサメでも歯の形状並び方や歯の大きさが異なることが分かります。
日本の水族館で唯一! メガマウス標本展示
骨格標本の展示の隣には、かなり珍しい液浸標本展示があります。
世界でも捕獲例が少ない大型のサメ・メガマウスです。全身骨格や解剖標本を見ることのできる水族館はありますが、完全な液浸標本をみることをできるのは日本でここだけです。
この個体は世界初の発見事例だったことから、各国から研究者が集結したそう。まだまだ謎が多い分説明も少なめでしたが、その名の通り大きな口が目立ちます。
筆者は幼い頃からこの標本を知っていたので、その希少さがあまりわかっていなかったのですが、ここマリンワールドでしか見れないメガマウスは一見の価値ありです。
ぜひ見に行ってみてください。
マリンワールドと言えば……ラッコ展示
最後にマリンワールドを代表する展示を紹介します。ラッコです。
残念ながら今年1月に飼育されていたリロくんが亡くなり、現在マリンワールドではラッコの展示は終了しています。
今回のレポート記事は2024年9月の訪問ということで、この時は会うことができました。
毛繕いをしたりおもちゃで遊んだりと、自由気ままに過ごすリロくん。くるくると回転しながら泳ぐ姿は癒しそのものです。
出口の目の前にラッコ水槽があるのですが、子ども時代の私はいつもここで立ち止まって、残ったお客さんたちと閉館時間ギリギリまで見ていた思い出があります。
リロくんだけでなく、少し前まではマナちゃんという女の子もいて、2頭で仲良く泳いでいた姿が鮮明に記憶に残っています。亡くなったと聞いた時は、本当に悲しかったです。
しかし、この命の大切さ・重みを知ることができたのは、紛れもなく水族館で暮らすこの子たちに出会えたからこそ。
水族館は、生きている博物館です。
本来違う世界にすむ生き物たちに出会えることは当たり前ではなく、そこから学びや感情を得ることこそ、水族館を訪れる意味なのではないか。そんなことを改めて考えさせてもらいました。
丸1日遊べる魅力抜群の水族館・マリンワールド海の中道
福岡県・福岡市のマリンワールド海の中道を紹介しました。
今回の記事内では触れていませんが、博多湾をバックにしたイルカショーや深海展示、さらには「サメバーガー」といったフードメニューなど丸1日遊べる楽しい魅力抜群の水族館です。
福岡に旅行に行った際には、ぜひ併せて遊びに行ってみてください!
(サカナトライター:moka)