2歳から始めた自閉症息子の早期療育。メリットはあった?当時を振り返って
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
わが子の発達が気になる……保健センターなどの施設で早めに相談する理由は?
わが家の次男Pは知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)と診断されています。Pが1歳半を過ぎたあたりから、長男の時との違いをはっきりと感じるようになった私は、地域の保健センターへ行き、Pの発達について相談をすることにしました。
保健センターでは、健診などを受けた後、市が開催している発達支援の親子教室や、児童発達支援センターなどの発達支援施設を紹介してもらい、必要な手続きを手伝っていただきました。しかし、私たちの住む地域では希望したからといってすぐに早期療育を開始できるわけではなく、手続きをしてから半年から1年ほど待たなければいけない場合も多いとのことでした。Pのように2歳と年齢が低く、まだ発達障害と診断されたわけでもない子どもは優先順位も低くなると聞いていたので、専門的な場所で児童発達支援を受けるためには、とにかく早めに動いて手続きをする必要がありました。
早期療育を開始することはできたけれど、すぐには効果が出ないことを痛感……
幸いにも3ヶ月ほど待ったところで、週2回の親子登園の枠に偶然空きが出たため、Pは2歳半から療育園と繋がることができました。
しかし、早いタイミングで児童発達支援施設へ通所できたものの、すぐにその効果を感じられたわけではありませんでした。療育園に通い始めたばかりの頃、Pは療育園の門に入る前から泣き、玄関に入っても靴を脱ごうともしませんでした。何とか教室に入ることができても、外へ出たいとずっと泣き続けていました。発達支援を受けるようになってからもすぐには椅子に座ることはできませんでしたし、トイレへ行くことも、お茶を飲むことも、とにかく全てのことを拒否していました。
支援を拒否している子どもはPだけではなく、ほかにもいました。中には数回通っただけで「受けても何も意味がない」「この施設はうちの子には合わないから良い効果が見られない」とすぐに辞めてしまう親子もいましたが、私自身は、焦らずゆっくりと場所や人に慣れて、まずは土台をつくることが大切だと考えていました。嫌がるPを連れて行くのは大変でしたが、あきらめず何度も通い、何度も同じことを繰り返し、やっと落ち着いて支援を受けられる形ができてきました。そうやって積み重ねるうちに、徐々にPの成長も感じられるようになってきました。
早期療育は子どもにとっても親にとっても必要なことだった
また、早期療育は、親子の「居場所を見つける」という意味でも大切でした。児童発達支援センターなどの発達支援施設は、Pと同じように課題を抱えたお子さんと、私のように悩みを抱えた保護者たちが集まる場所です。だからPがどれだけ荒れていても、どれだけ何もできなくても周りの目はあたたかく、Pひとりだけが悪目立ちをしているというわけではありませんでした。「できなくても当たり前」という優しい空気が流れていて、わが子がわが子のまま自然体でいても受け入れてもらえる場所でした。通い続けていくうちにずっと孤独だった私たち親子の居場所が見つかり、救われたような気がしました。
一般的には、できるだけ早期に発達支援を受けることで、より高い効果が期待できると言われています。保護者にとっても、日々の不安や悩みをほかの誰かと共有できる場所ができること、発達支援の先生たちの豊富な経験や知識に裏付けされたアドバイスを得られること、そしてスモールステップで子どもの発達を促し、成長の土台をゆっくりとはぐくんでいけることは、大きなメリットだと思います。
時間は待ってくれない!一人で悩まずに前を向いてみて
もしかしたら、発達支援について「まだ早い?」あるいは「今さら受けても遅い?」と悩んでいる方がいるかもしれません。ですが、親御さんとお子さんにとって、悩んでいる今こそが、発達支援をスタートするタイミングなのだと思うのです。
私がPの通所を通じて得たものは、子どもの成長だけではなく、それを一緒に見守ってくれる人たちとの出会い、自分自身の知識や経験であったと思います。その結果、より良い支援を受けることができ、子どもの発達にもつながっていると実感しています。
お子さんの発達に悩んでいる方は一人きりで悩まずに、まずは一歩、勇気をもって踏み出してみていただけたらと思います。
執筆/みん
(監修:新美先生より)
幼児期早期に発達支援につながったことで感じた思いなどを詳しく聞かせて下さりありがとうございます。
発達支援というと、お子さんの苦手なところ、発達がゆっくりなところが、苦手じゃなくなる、追いついて「普通になる」というイメージを持たれるかもしれません。実は、発達支援はお子さんに適切な環境や関わり方を保護者の方が学んだり、子育ての不安を相談して、安心して子育てできるようにするという、保護者へのアプローチも大きいです。もちろんお子さん自身もご本人に適切な環境を提供されて、よいやり方をスモールステップで教えてもらえることで、ご本人もできることが増えていくことがたくさんあります。
「早期療育」というワードが独り歩きして、こんなに大きくなってからでは遅いのでは?と焦ってしまうことがあるかもしれませんが、発達支援において、遅いということはそれほどはありません。みんさんもおっしゃっていたように、保護者の方が、必要性を感じた時につながっていけたらよいのではないでしょうか。
何歳ぐらいでどのような施設で発達支援を受けることできるかは、地域差がとても大きく悩ましいところです。自らかなり調べて動いて訴えていかないとつながれないという地域も少なくないのが実情かもしれません。今回の記事でみんさんがご紹介いただいたことが、読者の方の動き出すモチベーションになるかもしれないですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。