キャッチー&メタルな宴の夜! ビースト・イン・ブラック@Zepp Shinjuku 2024.5.22〜23
昨年5月に“Two Nights In Tokyo”と題し、渋谷と新宿で2夜連続公演を行なったフィンランドのメロディック・メタル・モンスター:ビースト・イン・ブラック(以下BiB)が、今年も東京に襲来! 今回は“Two Nights For Love”とタイトルされ、さらには“歌舞伎町MADHOUSE”という副題(?)も付いて、まさに歌舞伎町のど真ん中にあるZepp Shinjukuを会場とし、やはり2Days公演を行なった!!
ニュー・アルバムのリリースがない中、1年という短いインターヴァルでの来日は最近ではちょっと珍しい。要はそれだけBiBが、ここ日本において強固かつ盤石なファン・ベースを確立しているということだ。しかも、前回は単独公演だったが今回はオープニング・アクトとして同郷のトゥルミオン・カティロットが帯同し、より“宴”感を増していたのにも注目したい。2日間それぞれ(転換含め)3時間を超える熱狂の模様をここにお伝えし、BiBの来日機材にも迫ってみよう…!!
TURMION KÄTILÖT:白塗りコミカル・ディスコ・メタル!
オープニングを任されたトゥルミオン・カティロットについては、会場に詰め掛けた観客の殆どが“未知なるバンド”との認識だったのでは? それもそのハズ──2003年結成で、今年デビュー20周年を迎えたキャリア組ながら、過去に日本盤の発売はなく、昨年リリースの最新アルバム『OMEN X』が、来日記念盤として先日ようやく本邦初リリースされただけだったり。本国では大ヒットを連発し、チャート常連…というかほぼすべてのアルバムをトップ10に叩き込み、No.1も数度達成している超人気バンドだが、基本母国語で活動しているのもあってか、フィンランド本国での人気と知名度が突出している…というのが実際のところだろう。
よって来日前には、みんな“何を期待してイイのか分からない”との思いだったかも。ヘタをすると「BiBだけ観れば良いや」とスルーするつもりの観客だらけ…といった事態にもなりかねなかった。開演時間18時というのも、事前にちゃんとチェックしていないと見過ごされてしまいそうだし…。ところが──いざフタを開けてみたら、初日も翌日も開演の時点でフロアはほぼ満杯状態だった。きっと全員が全員、事前に音源やMVをチェックし、“予習”していたワケではないだろう。にもかかわらず、それだけ多くの日本人メタル・ファンを惹き付けたのは凄い。
いざショウが始まると、これがもう楽しいの何のって…! よく彼等は“ディスコ・メタル”バンドとして紹介されるが、ダンス・ビートにヘヴィ・ギター、咆哮&絶叫ダブル・ヴォーカルを乗せたサウンドは、まんまその通りというか、文字通りというか。レイヴ、トランスのノリはインダストリアル・メタル的でもあり、ラムシュタインなど“ノイエ・ドイチェ・ヘァテ”勢に通ずるところもあって、メンバー全員がコープス・ペイント風のメイクを施し、いかにもフィンランド産といったダークな傾向が強いのに、コミカルな面も持ち併せているところがまた面白い。ただ、ヴォーカル2人がMCで掛け合い漫才的にボケ倒すも、どうやらいずれもあまり英語が堪能ではないようで、日本人オーディエンス相手だと今ひとつ本意が伝わらず、ちょっと空回り気味だったのは残念ではあった。まぁ、また次の曲が始まれば、みんなビートに合わせてピョンピョン飛び跳ね、すぐにパーティーのノリが復活するのだが。
重低音でザクザクとリフを刻みまくるギタリスト:ボビー・アンダーテイカーことミッカ・ナルヒは、チューニングによって2本のギターを使い分け。もしや旭日デザインのVシェイプは、この日本公演用に用意してくれたのだろうか? ギター・ソロのある曲は殆どなく、「Isä Meidan」のエンディングのギター・フレーズは同期音源だったり。それでも「Kun Kesä Kuoli」では、短いながらも特徴的なリード・フレーズが盛り込まれ、しっかり見せ場が用意されていた点は特筆しておきたい。
そうして──約60分、ヴォーカル2人がひらすらフロアを煽り続けた甲斐もあり、オープニング・バンドとしてはやや長めだったもののどの曲も大いに盛り上がり、日本でのお披露目ライヴは大成功! 沢山の新規ファンを獲得し、確実に“次”へとつながったに違いない…!!
トゥルミオン・カティロット 2024.5.22@Zepp Shinjuku セットリスト
1. Lepositeet
2. Sinä Saatana
3. Totuus
4. Isä Meidän
5. Vihko
6. Grand Ball
7. Hades
8. Teurastaja
9. Kun Kesä Kuoli
10. Dance Panique
11. Naitu
12. Kuolettavia Vammoja
13. Sikiö
トゥルミオン・カティロット 2024.5.23@Zepp Shinjuku セットリスト
1. Lepositeet
2. Sinä Saatana
3. Totuus
4. Isä Meidän
5. Vihko
6. Grand Ball
7. Hades
8. Teurastaja
9. Kun Kesä Kuoli
10. Dance Panique
11. Naitu
12. Kuolettavia Vammoja
13. Sikiö
BEAST IN BLACK:マジックも起きた“黒野獣”ステージ!
約30分の転換を挟み、19時半にいよいよBiBのショウがスタート! ビリー・アイドルの「Shock To The System」が開演を告げ、荘厳なイントロSEから「Blade Runner」で幕開けるのは前回来日時と全く同じ。しかし、セットリスト全体は再構成され、『DARK CONNECTION』(2021年)から「My Dystopia」、『FROM HELL WITH LOVE』(2019年)から「Heart Of Steel」など、去年やらなかった曲を加えていたのは嬉しい限りだ。また、今回も日替わりのセットリストが組まれ、両日とも全19曲と、デビュー作『BERSERKER』(2017年)含め、3枚のアルバムからバランスよくたっぷりプレイ。2日間どっちも観れば、彼等のレパートリーのほぼすべてが網羅出来た…ともいえ、何とも贅沢な2Daysとなっていた。
バックドロップも新調。そこには映画『ブレードランナー』を想起させる近未来の街並みが描かれ、その中には“金山公寓”という漢字の謎看板も。また、バスドラのヘッドに“黒野獣”とあるのを見つけて、思わずニヤニヤしてしまったファンもいただろう。海外ツアーでは、ドラム・ライザーの前に巨大なその“野獣”の顔がド~ン!とあって、ドラムの左右には何故か鳥居…という、謎ステージ・セットを組んでいたので、きっと日本にも持ってくるハズ…と思っていたら、特にセットらしいセットはナシ。ただ、フロントの4人はいつもと変わらずステージ狭しとよく動き回り、ジューダス・プリーストやアクセプト彷彿のメタリックなフォーメーション・プレイが度々飛び出すから、特に大掛かりなセットなど必要ないかと。
実際、BiBのショウは毎回“魅せ”場が満載! YG的には、カスペリ・ヘイッキネンの“顔で”弾きまくる百面相プレイを一番に挙げたい。今回も蛍光カラーのアイバニーズを弾いていた彼は、多くの場面でおどけた表情と共に大きなアクションを決め、時にウインドミル奏法でブチ上げ、タッピングひとつとってもしっかり魅せるプレイを心掛け、常に観客を煽りつつの激奏でありながら、それいてシュレッドの正確さもピカイチなのだから恐れ入る。また、ヤニス・パパドプロス(vo)に目隠しされた状態でソロを弾いたり、ヤニスにコードを押さえてもらって左手を休めたり(?)、マテ・モルナール(b)と向かい合ってお互いの楽器を弾くアクロバティックな絡みもコナしたりして、まさに天性のエンターテイナーと言う他ない。
Kasperi Heikkinen(g)
Mate Molnar(b)
Atte Palokangas(dr)
一方、お馴染み赤いVシェイプを駆るバンドの首魁アントン・カバネンはというと、カスペリほどはっちゃけることはあまりないもののそのギター・ワークには秘めたる熱情、静かなる激情がたっぷり込められ、すぐにグイグイと惹き込まれること必至! リード・プレイから滲み出てくる生真面目さも、ギター・フリークには眩しく映ることだろう。彼が弾くソロは、怒濤のフル・ピッキングでギュッと詰め込まれた速弾きフレーズが最大の肝。それは、指板を広く使いレガートも駆使するカスペリとは対を為し、そのコンビネーションが何とも美味なのだ。加えてセカンド・ヴォーカルとして、多くのブリッジやサビで独特のダミ声シャウトを放つのも最&高!! アントンのあの声、あの叫びこそがBiBをBiBたらしめている…とさえ言いたくなるぐらいだ。
Anton Kabanen(g)
オーディエンスの熱狂は、もう序盤から突き抜けっ放しで、どの曲でもみんな歌いまくり、腕を振り上げ、ヘドバンに興じ、ジャンプもひっきりなし! 往年のディスコ・ビートの採り込みは、勿論トゥルミネンのディスコ・メタルとは全く趣を異にし、飽くまでトラディショナルなHR/HMの王道を行きながら、多くの楽曲でキャッチーさに全振りし、それなのにメタルならではの熱さに満ち満ちてもいる…なんて、まったくもってBiBにしか出来ない芸当だ。ところで、5月21日はヤニスの誕生日ということで、翌22日の初日公演では、観客一体となって「Happy Birthday To You」を大合唱。その際、ヤニスが「5月25日はマテの誕生日だよ」と話していた通り──そういえば、2019年来日時の東京公演ではそれを祝ったなぁ…と。そう、何故か彼等は5月に来日することが多く、2018年の初来日時もそうだったし、去年もまた然り。「それもあって、日本公演はいつも特別なんだ」とヤニス。初日は、そうしみじみMCされたあとの「One Night In Tokyo」が、いっそうスペシャルに感じられた。どうやら、本来はその前の「Blind And Frozen」でショウ本編が終了し「One Night In Tokyo」はアンコール1曲目だったハズが、色々感じ入った彼等は袖に引っ込むのも忘れて、ヤニス曰く「こういうパターンもイイだろ?」と、ショウが予定外に継続されたのも、日本、そして東京での公演だからこそのマジックだったかもしれない。
Yanis Papadopoulos(vo)
翌日はちゃんと(?)一旦引っ込み、「Cry Out For A Hero」からアンコールをやったが、その次にプレイされた「One Night In Tokyo」が、やっぱりスペシャルだとばかりに盛り上がりまくったのは言わずもがな。そしてラス曲は、両日ともお決まりの「End Of The World」! それぞれ約100分のショウは濃密この上なく──終演時、心地好い疲労感と共に、「間違いなく過去最高!」「彼等史上最強!!」と、すべての観客がそう強く感じたのではないだろうか…!!
ビースト・イン・ブラック 2024.5.22@Zepp Shinjuku セットリスト
1. Blade Runner
2. Eternal Fire
3. No Surrender
4. Sweet True Lies
5. Hardcore
6. Moonlight Randevous
7. Unlimited Sin
8. Ghost In The Rain
9. Revengeance MAchine
10. Heart Of Steel
11. Beast In Black
12. Born Again
13. Dark New World
14. My Dystopia
15. Die By The Blade
16. Blind And Frozen
17. One Night In Tokyo
18. End Of The World
ビースト・イン・ブラック 2024.5.23@Zepp Shinjuku セットリスト
1. Blade Runner
2. From Hell With Love
3. Beast In Black
4. Sweet True Lies
5. Broken Survivors
6. Crazy Mad Insane
7. Bella Donna
8. Hardcore
9. The Fifth Angel
10. Oceandeep
11. Highway To Mars
12. To The Last Drop Of Blood
13. Zodd The Immortal
14. Die By The Blade
15. Blood Of A Lion
16. Blind And Frozen
[encore]
17. Cry Out For A Hero
18. One Night In Tokyo
19. End Of The World
20. Song Played From Tape
21. Burning Heart
アントン・カバネン 2024年来日使用機材
ビースト・イン・ブラックのアントン&カスペリの機材が撮影できたので、こちらも紹介しよう。二人のコメントは太字で示している。また、基本的に昨年来日時とあまり変更がないので、当時の記事も参照していただきたい。
まずはアントンから。彼のメインは長年不動のジャクソン“Phil Demmel King V”で、昨年と同様赤いモデルをステージで使用した。ただ、「最近はESPも弾くことがあり、時には持ち替える」とのことだ。同モデルの白い方は楽屋で使用するバックアップで、ストックとの違いはバンドのトレードマーク的な“Beast Head”の絵が描かれていることだけ。
カスペリ・ヘイッキネン 2024年来日使用機材
アイバニーズ・ユーザーのカスペリは、5月上旬にガンマ・レイのサポートで来日した際は蛍光オレンジ色のRGを使用していたが、ビースト・イン・ブラックの今回はやはり昨年同様で、蛍光グリーンのアイバニーズ製カスタム・ショップ・モデルをメインとしていた。「弦が切れやすくなってきたのでブリッジを交換した」という以外、前回と全く同じスペックだ。
こちらはバックアップのアイバニーズ“RG550”。「カラーは“Purple Neon”。アルミ製のピックガードと新しいピックアップが搭載されている」とのことだ。
アンプ&エフェクト
ギター・アンプは前回同様、2人で1台のNeural DSP“Quad Cortex”を共有。カスペリによると「2022年頃からこの形で使い始めている」そうで、本機には、サウンド切り替え用のMIDI信号を送るMacBook等も接続されており、二人のクリーン、バッキング、ソロの音色が自動で切り替わるようになっている。「おかげでとても演奏しやすくなった。音も良いし小型だし、ちゃんと機能している。大事になるような問題は起きていないし、かなり気に入っているよ」とアントン。
(レポート●奥村裕司 Yuzi Okumura 機材解説●ヤング・ギター編集部 写真●中島たくみ)