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ア二メで少年役を演じる主流が、「子ども」から「女性」になったこれだけの理由

アットエス

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はメッセージテーマが「やんちゃなキッズ」の回ということで、男の子の声を当てている女性声優さんについてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

少年役に女性声優が選ばれる理由は?

今日は少年の声を女性声優さんが当てるということについて考えてみたいと思います。新潟大学の石田美紀先生が書かれた『アニメと声優のメディア史 なぜ女性が少年を演じるのか』(青弓社)を参考にしてお話します。

もともとディズニーが『ピノキオ』や『バンビ』をつくった時、子どもの役には実際の少年をキャスティングしています。もちろん日本でも映画界を中心に「子役」と呼ばれる職業があり、活躍をしていました。例えば、東映動画(東映アニメーション)の『少年猿飛佐助』(1959)でも、『わんぱく王子の大蛇退治』(1963)でも、主人公の少年は男の子が演じていました。

一方、戦後のラジオドラマに『鐘の鳴る丘』(1947年)という作品があり、これは戦災孤児を扱った集団劇で、プロの子役ではない小学生の男女が演じていました。このときは子どもの生活が第一のため収録時間などに制限があったそうです。

ところが途中で登場した大阪出身の少女の役には、19歳の木下喜久子さんがキャスティングされました。収録時間に制限がなく、かつかなり難しい演技を要求される役柄ということもあり、大人をキャスティングしたほうが作品的にメリットがあったというわけです。木下さんはその後も、少年役を含めた子供役を演じられています。

アニメが普及する前に声の仕事が求められたのは、先述のラジオドラマ以外だと、人形劇と洋画の吹き替えでした。『ドラゴンボール』などで知られる野沢雅子さんも、洋画は生放送で吹き替えをおこなうことが多かったので子役は使えず、男性だと声変わりしていて難しいので、女性を中心にキャスティングされたと過去におっしゃっています。なのでTVアニメ以前に、ラジオドラマや洋画の吹き替えで女性が少年の声を当てるという土壌ができ上がったわけです。

1963年に本格テレビアニメ第1号として『鉄腕アトム』が放送されました。アトムは男の子のロボットですが、声は清水マリさんという女性が担当しています。清水さんは舞台俳優でしたが、中学時代にピノキオ役をやったことがあり、それを『アトム』関係者が知っていて、ピノキオの系譜に通じるアトムを演じてほしいと依頼があったようです。こうしてアニメの中で、女性声優が少年の役を演じるのがひとつのスタイルになっていきます。

もちろん例外もあります。『海のトリトン』(1972年)ではトリトンという13歳のキャラクターに、当時17~18歳の塩屋翼さんが声を当て、少年っぽいナイーヴな声が生っぽく、かわいいと女性ファンがつきました。ただ基本的にはアフレコをしたり、洋画の吹き替えで、子どもに難しいところは大人がやったりしていたので、だんだん女性がやるようになります。

子役はハマるとすごく魅力的なのですが、アニメの場合は口の動きに合わせなくてはいけないとか、洋画では相手の言語を聞いてセリフを言わなきゃいけないというテクニックが必要なので、子供だとなかなか難しいところがあるのです。もちろん劇場版だと声を先に録ってそれに絵を合わせる方法(プレスコ)もできるので、子役を使うこともあります。『千と千尋の神隠し』の坊を子役時代の神木隆之介さんがやっていたり、『機動戦士ガンダム0080』のアルを子役時代の浪川大輔さんがやっていたりしますね。

ただ長いTVシリーズものでは、男の子だと声変わりの問題もあるし、毎週小中学生に収録に来てもらうことが難しいこともある。それに対して、女性の大人の声優のほうが、安定して同じクオリティが出せるし、稼働もしやすい。こうしていろいろな理由と求められる演技の方向性が組み合わさって、少年の声を女性が当てるということが成立しているのです。

『クレヨンしんちゃん』の野原しんのすけ役は、あの喋り方を発明したのがすごいことで、あれは子役がやったらうまくできるかというとそういうわけではないんです。大人が作意を持ってやったことで面白くなっており、しんちゃんというキャラクターは、初代の矢島晶子さんから二代目の小林由美子さんへとしっかりバトンが渡されていますよね。こうなると、ひとつの文化みたいなものです。

現在『サザエさん』でカツオ役を担当している富永みーなさんも子役出身で声のお仕事をされていた方ですが、9歳頃NHKの海外ドラマで『大草原の小さな家』の3女キャリーの吹き替えをしていました。吹き替えは、耳にイヤモニをつけて原語の台詞を聞きながら、台本を見て、画面の中の役者に合わせて演じていきます。ただそれは9歳には難しかったそうで、所属していた劇団こまどりの先生がついてきて、タイミングに合わせて肩を叩いて教えてくれたそうです。こんなふうに、実際の子供を使って子供を演じてもらうというのは、そこそこ手間がかかることではあるんですよね。

このように、女性声優が少年の声を当てるというのにも歴史があり、いろいろな選択肢の中で女性声優さんが多く当てるというケースが増えてきたというお話でした。

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