【散歩プレイリスト】樋口毅宏~日の当たる散歩道(あるいは日の当たらない道も含めて)
音楽好きは散歩好き。……ということで、各ジャンルで活躍中の音楽の“達人”たちに、「散歩」のイメージにぴったりの楽曲をセレクトしてもらいました。いつもと違う音楽さんぽを楽しみましょう♪今回は樋口毅宏さんの散歩プレイリスト「日の当たる散歩道(あるいは日の当たらない道も含めて)」をご紹介します。
樋口毅宏
作家
1971年生まれ、東京育ち。2009年『さらば雑司ヶ谷』(新潮社)でデビュー。2013年『タモリ論』(新潮新書)がベストセラーに。以降鳴かず飛ばず。2025年初のノンフィクション『凡夫 寺島知裕。「BUBKA」を作った男』(清談社Publico)がごく一部で話題に。
「うつらうつら」エレファントカシマシ
エレカシから1曲選ぶのは迷いました。宮本が散歩大好きな人だから作る歌はどれも散歩に合う。寝惚(ぼ)け眼(まなこ)であてどない散歩にぴったり。
「花屋の娘」フジファブリック
あらゆる妄想は叶わぬ願望の忸怩(じくじ)から。「内心の自由」こそ世界のすべてだ。
「田園風景」サニーデイ・サービス
ありふれた日常が不穏にざわめき、ある日突然覚醒する。
「Saturday in the Park」Chicago
この軽快なポップソングをきっと聴いたことがあるでしょう。興味があったら歌詞を調べてみて。目の前の風景がちょっと変わります。
「クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581 第1楽章」モーツァルト
美しく優雅なメロディーに足取りが軽くなる。よかったらこの音楽を使ったフランス映画『幸福(しあわせ)』(1965)も。幸福な家族の散策がガタガタと足下から崩れていきます。
「SCARBOROUGH FAIR / CANTICLE」Simon & Garfunkel
歩きながら魂が昇華する。まだ見ぬ誰かとすれ違いそう。
「未来の人へ」Cornelius
メランコリックな黄昏に、あたまから指先まで、心ごと飲み込まれていく。
「そして今でも」小西康陽
ピチカートファイブの名曲を小西康陽がピアノ一本でセルフカバー。行き交う人に泣いているのがバレませんように。
「Perfect Day」Lou Reed
ヴィム・ヴェンダース監督作品のタイトルになったこの曲を聴きながら公園でサングリアを飲む。完璧に美しい曲のように思えるが最後に意味深な箴言(しんげん)を置く、骨の髄までシニカルなルー・リード。
「情けない週末」佐野元春
最後にド王道入れときました。できれば夜に、できれば雨の日に、できれば愛する人とイヤホンを共有しながら。
樋口毅宏の「散歩と音楽」とは?
Q.1 散歩をするのはどんなときですか?
雨の日ほど歩いて5分の散歩に出たくなる。いざ空が晴れると「きょうはもういいや」と嘯(うそぶ)くが、わが家の保育園児の手に曳(ひ)かれて家のまわりをそぞろ歩く。
Q.2 好きな街や道はありますか?
えっ、こんな通りあったっけ。あんな店知らなかったと小さな発見を繰り返すも道を失い、再び訪れることのないミステリー。
Q.3 プレイリストのコンセプトを教えてください!
基本路上を歩きながらトリップできるものを。「ここにいながらここにいない」みたいな。前半アゲアゲ。後半はブルー。歩いている自分も風景の一つに溶け込みながら揺るぎない個を確信する。理屈を一回放り投げて無心になれる時間があったら目の前のこと全部OK。
構成=さんたつ編集部
『散歩の達人』2025年10月号より
樋口毅宏
作家
1971年東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社に勤務したのち、取材で出会った白石一文氏の紹介により、2009年『さらば雑司ヶ谷』(新潮社)でデビュー。2020年3月には、雑誌「散歩の達人」の連載をまとめた『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』を上梓。