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【野球ごはん③】「かむ(噛む)」ことについて≪令和版≫

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【野球ごはん③】「かむ(噛む)」ことについて≪令和版≫

*焼肉と牛丼 どちらが好き?
数年前に小中学生選手を指導する指導者から聞いた話です。「選手たちが頑張っているから、焼肉を食べに連れて行ったんです。ところが、選手のお箸が進まない。あれ?と思っていたら、選手が「焼肉より牛丼を食べたい」と言いました。なぜ?と聞くと、「焼肉はかたくてかみ切れない。薄い肉の牛丼がいい」と選手は答えました。私は、指導者から話を聞いた時、びっくりしました。まさか、子供たちが、焼肉をかたいと話すなんて、衝撃を受けました。保護者から「うちの子供は、から揚げがかたいと言って、おじいちゃんが食べようとしている小さいから揚げと交換しようとして、止めました」と、話しました。
現代は、昔に比べると、かむ回数が減っているそうです(表1)。

理由としては、加工食品が増えたり、油を含む食品が増えたりしているからです。油多く含んだ食材は、しっとり、やわらかい食感になりますので、かむ回数を減らしやすいです。
一般的に「1回口に入れたら、30回かみなさい」と言われます。しかし、選手にかむ回数を聞くと、「10回もかんでないかもしれない」「30回もかめないよ」と、答える選手が多いです。

*かむ回数を増やすと、食材の栄養素をしっかり吸収できる

図2は、かむ回数と便に残るエネルギー、脂質の量を比較した研究結果です。かむ回数が少ないほど、便にエネルギー、脂質の量が多く残されています。つまり、かむ回数が少ないと、食べた食材に含まれるエネルギー、栄養素をすべて吸収できていない可能性があります。もったいないですね。かむ回数を増やすと、だ液の分泌量が増えます。だ液には、ごはんなどのデンプンを分解するアミラーゼを含んでいます。かめばかむほど、だ液が多く混ざり消化を助けます。また、食べ物を細かくくだくので、胃腸の消化吸収する負担を軽くすることができます。食べた食材のエネルギー、栄養素をすべて吸収するためによくかみましょう。
体を大きくしたいのに、大きくならないと悩んでいる選手は、かむ回数を増やして、栄養素の吸収率を上げてはいかがでしょうか。
 
*かむこと・体力の関係

図3は、かみ合わせた面積の大きさと重心(じゅうしん)動揺(どうよう)(姿勢のふらつき)の関係を調べた研究データです。かみ合わせる面積の大きさは、虫歯、歯並びなど、噛み合わせ方によって変わります。例えば、虫歯になると歯に穴があきます。治療しないままでは、かみ合わせた面積が小さくなります。この研究データ結果から、かみ合わせた面積が小さいほど、姿勢のふらつきが大きくなると示されています。

また、図4は、かむ力(咬合力)と運動能力の関係を調べた研究です。かむ力が高い方が、スポーツテストの結果が良いです。これらから、私たちの姿勢の調整や出す力の強弱の調整にかみ合わせが関わっていることが分かります。野球は、走る、投げる、打つ時など姿勢の調整や重心移動などを行っていますよね。

*かむ回数を増やす工夫
かむ回数を増やすと、かむ力をきたえられ、運動能力によい影響を与える可能性があります。かむ回数を増やせるように意識してください。目標は、ひと口入れたら、30回かみましょう。30回が難しいなら、まずは10~15回かんでください。意外とかんでいないことに気づくかも知れません。かむことを意識するだけでは難しいので、食事を工夫しましょう。

①かみごたえのある食材を組み合わせる。
豆、いも、海そう、切干大根などの乾物類、野菜、果物は、かみごたえのある食材が多いです。毎食、これらの食材を数種類使った料理を食べましょう。特に乾物類は、煮物だけでなく、汁物、炒め物、サラダに加えることができます。お菓子は、クッキー、ポテトチップスではなく、せんべい、ナッツ類、ドライフルーツなどを食べて欲しいです。以前、アメリカの大リーグのキャンプを見学した指導者から「外野のノック中に、選手が待っている間にポケットからナッツやドライフルーツを取り出して食べている姿を見たことがある」と話していました。日本も干し柿、干しいもをベンチで食べていいと思います。

②調理方法を工夫する。
野菜サラダは、薄切りや千切りでなはく、乱切り、拍子切りなど切り方を変える。煮物は、少し大きめに切る、やわらかくなるまで煮込むのではなく、かために仕上げましょう。また、焼肉や鶏の照り焼きを作る時にキャベツやきのこなどを一緒に加えて作ると、食材が増え、かむ回数を増やせます。

ひとくち入れたら、30回かむのは慣れるまで大変です。しかし、かむ回数が増えれば、かむ力を強くすることができ、運動能力を向上することができます。食事では、かむことを意識してくださいね。

上村香久子


(うえむら・かくこ)

管理栄養士、調理師。1974年、京都府生まれ。中学生の頃にプロ野球ファンになり、スポーツ現場で働く栄養士を目指す。現在、中学、高校、大学野球をはじめ、サッカー、バスケットボール、バレーボール、駅伝チームなど全国各地のスポーツ選手たちへ栄養指導、レシピ提供などを行っている。また、公益財団法人全日本柔道連盟科学研究部員として合宿、オリンピックに帯同し、柔道選手をサポートしている。神奈川工科大学客員教授。

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