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幕末の知られざるヒーロー!天然痘と闘った福井藩医・笠原良策とは

草の実堂

画像 : 笠原良策(白翁)肖像写真(福井市立郷土歴史博物館蔵) public domain
画像 : 天然痘 public domain

江戸時代の末期、天然痘が広まり、日本は大きな被害を受けていました。

天然痘は古くから存在し、すでに奈良時代には流行が記録されており、江戸時代を通じても周期的に大きな被害をもたらしていたのです。

そんな中、福井藩でこの病に立ち向かった医師がいました。

その名は笠原良策(かさはら りょうさく)。

彼は西洋医学を取り入れ、天然痘の予防法である種痘を広めることに成功した人物です。

2025年、笠原良策を主人公とした映画『雪の花 ―ともに在りて―』が公開されました。松坂桃李さんが主演を務め、江戸時代末期に天然痘と闘った医師の姿が描かれています。

今回は、笠原良策がどのように天然痘と戦い、その予防法を確立していったのかを詳しくご紹介します。

天然痘の症状

画像 : 天然痘によってあばた面となった塩田三郎 public domain

当時、天然痘により特に幼い子どもが多く命を落としていました。

人々は疱瘡神(ほうそうがみ)という神様を信仰して、祈祷をする風習もあったほどです。

天然痘に感染すると、初期症状として発熱や倦怠感が現れ、その後、全身に膿を伴う発疹が広がります。

運よく回復しても、顔や体に深い痕が残るため、痘痕(あばた)と呼ばれ、美観を損ねるとして特に女性には深刻だったのです。

笠原良策とはどんな人物?

画像 : 笠原良策(白翁)肖像写真(福井市立郷土歴史博物館蔵) public domain

笠原良策(かさはら りょうさく)は、幕末の医師であり、福井藩に仕えていました。

当時の日本では、西洋医学が徐々に広まり始めていましたが、まだまだ漢方が主流でした。そんな中で笠原良策は、オランダ医学である蘭学を積極的に学び、新しい医療技術を取り入れていました。

良策が特に注目したのが、種痘(しゅとう)という天然痘を予防する方法でした。

種痘とは

種痘には、いくつかの方法が存在しますが、当時は天然痘患者の膿を接種する人痘法や、牛痘の膿を利用する牛痘法などが主に用いられていました。

これらは、天然痘の膿や関連する病原体を健康な人に接種し、免疫を獲得させる方法であり、現在のワクチンの原型の一つといえます。

しかし、人痘法は免疫を得られるものの重症化のリスクがありました。

一方で、牛痘法は安全性が高いとされ、18世紀末にイギリスのエドワード・ジェンナーによってヨーロッパで普及していました。

画像 : エドワード・ジェンナー public domain

日本では、18世紀後半から人痘法が一部で実践され、19世紀初頭にロシア経由で牛痘法の知識が伝えられたものの、広く普及するには至りませんでした。

人々の間には依然として天然痘への恐怖が根強く残っていたのです。

そのような状況の中、良策は牛痘法を福井藩に導入しようと奔走しました。
しかし、ここで大きな問題がありました。それは、「人々が恐れて受けたがらない」ということです。

現代でも、新しいワクチンが登場すると「本当に安全なの?」「副作用が怖い」と不安に思う人がいますが、それは幕末も同じでした。むしろ、「牛の病気を人に打つなんて!」と、当時の人々には理解しがたいものだったのです。

それでも良策は諦めず、実際の接種を通じて牛痘法の効果を示し、藩内での普及に努めました。種痘(牛痘法)の成功例が増えるにつれて、人々の間でその効果が認められ、信頼を得るようになったのです。

笠原良策の功績

画像 : 笠原白翁の碑(上部、福井市足羽山) wiki © Fumi Yana

福井藩では、笠原良策の尽力により種痘の普及活動が本格的に進められました。

良策は藩内の医師たちに種痘の技術を指導し、接種を広めるために奔走します。また、接種後の経過を詳細に観察し、記録を残していました。これは、当時としては画期的な試みであり、種痘の効果を検証する上で重要なものでした。

さらに、嘉永4年(1851年)10月には、福井藩内で種痘の普及を推進するための「除痘館」が設立されました。これは藩医や町医を組織的に動員し、種痘を広める拠点として機能しました。
その後、福井城下だけでなく、府中(現・越前市)、鯖江、大野、敦賀などの主要地域に痘苗が分配され、さらには隣国の加賀藩(金沢・富山)へも伝えられました。これにより、福井藩内では天然痘による死者が大幅に減少したのです。

良策は、京都・大阪での「除痘館」の設立にも関与し、こうした活動はやがて全国へと波及していきました。

幕末から明治時代にかけて日本の医療制度が変革を遂げ、西洋医学が主流となる中で、良策のような医師たちの努力が、その基盤を築いたことは間違いありません。

彼の功績は福井藩にとどまらず、日本の近代医学の発展に大きく寄与したといえるでしょう。

参考 :
竹内真一「京都牛痘伝苗の日時及び同痘苗の由来について―笠原文書を中心にして―」
柳沢芙美子「福井藩における藩営除痘館の開設とその運営」
柳沢芙美子「福井からの痘苗の伝播と鯖江藩の種痘」他
文 / 草の実堂編集部

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