「世界一の大富豪」も陰謀論には困惑顔?Netflix『ビル・ゲイツと考える未来の展望』で語る理想と矛盾の現在地
ビル・ゲイツ、大いに語る
ご存知マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツがこの10月に69歳を迎える。2011年に56歳で亡くなったApple創業者、スティーブ・ジョブズと同い年のゲイツだが、古希を目前に控えながらもあらゆるメディアで元気な姿を見せている。
2000年に同社のCEOを退任してからは気候変動問題を中心に教育分野など様々な問題解決に注力し、慈善団体や複数企業を運営しているゲイツ。かねてからワクチン接種を積極的に推進してきたこともあり、新型コロナウイルスの蔓延による“ワクチン陰謀論”のターゲットにもなった。
そんなゲイツの近年における<活動履歴書>とでも言うべきドキュメンタリーシリーズが、Netflixで独占配信中の『What‘s Next? ビル・ゲイツと考える未来の展望』だ。テクノロジー分野における先駆者であり、グローバルヘルスと気候変動の慈善活動家でもあるビル・ゲイツが、今日の世界が直面する緊急課題を詳しく追求して理解を深める試みに視聴者を誘う。
豪華ゲストも登場! 世界の「明日」を検証する
このドキュメンタリーでゲイツは、5つのエピソードを通して「人工知能の将来性とリスク」、「ソーシャルメディア時代における誤情報のまん延がもたらす課題と真実を定義することの複雑さ」、「気候危機の規模とその解決策となる最先端技術の可能性」、「所得格差の不公正さと貧困に対処するための機会」、そして「科学とイノベーションが死に至る病の治療にどのように結びつくか」、という各テーマを深く掘り下げる。
また、世界で最も著名な科学者、政治家、思想家、ジャーナリスト、医療専門家、アーティストなどの洞察やコメントを紹介。コロナ禍における最初のヒーローとなったアンソニー・ファウチ博士、数々の名作SFを手がけてきたジェームズ・キャメロン監督、若者たちの“心のケア”に取り組んでいるレディー・ガガ、米政府のリベラル改革派であり若い世代にも支持されるバーニー・サンダース上院議員などなど、超豪華な面々が出演する。
ゲイツが次世代に託すものと、そこにある矛盾
本シリーズで興味深いのが、ゲイツが掲げるテーマ(問題)の多くにゲイツ自身が大きく関係している点だ。AIが今後もたらすであろう問題については(映像の制作時点では)あまりクリアになっていないようだが、ゲイツは直近のインタビューで犯罪への転用や雇用の損失、将来的な制御の問題などを懸念点として挙げていた。とはいえマイクロソフトは某オープンAIに投資しており、基本的には楽観視しているように感じる。
破格の成功を手にしたゲイツだけにキャリアの初期からイジられまくり、つねに陰謀論に巻き込まれてもきた。いわゆる“レプティリアン説”などは映画『ゼイリブ』のような突拍子もない話だが、やや呆れた表情を見せながらも自身にまつわる陰謀論を微妙な表情で一つ一つ紹介する様子は可笑しくもある。そんなエピソードの導入はライトながら、「真実か結果か?」という副題どおり語られる内容は哲学的ですらあるが、それをアメリカの暗い歴史が引っかき回す。
ゲイツ自身も注力している温暖化問題では、課題だらけの未来を担う若者たちと対峙。ゲイツは革新的な技術に自信を見せるが、Z世代はより現実的だし、悲観的でもある。1日たりとも立ち止まってくれない気候変動を前に、これからの数十年を生きて新たな生命を背負っていく世代が焦るのは当然だ。もはや「一人ひとりが意識を変えれば……」などと悠長なことは言っていられない問題である。そしてゲイツは“次世代の原子炉”に巨額の出資をする一人でもある(&そこにもAIが絡んでいる)。
エピソード4「富裕層は社会に必要なのか」は挑戦的な副題のとおり、世界トップクラスの大富豪であるゲイツ自身の問題にも大きく踏み込む。資本主義が肥大し、カネの力でメディアを掌握しユーザーを操って世間の分断を煽る一部富裕層の存在などが懸念されるいま、我々にとっても身近な問題と言えるだろう。そして「長者番付から外れたい」と願うゲイツは、「億万長者という概念をなくすべき」と唱えるサンダース議員の問いに言葉を詰まらせる。
19歳にして巨大な成功を掴んだゲイツは、社会貢献という形で自己矛盾と向き合ってきた。つねに羨望や嫉妬、中傷の対象となりながらも推し進めてきた、彼の「世界をより良くしたい」という想いに疑いはない。それは長者番付に名を並べる上位ランカーたちの対極的な態度を見ても明らかだ。
Netflixドキュメンタリーシリーズ『What‘s Next? ビル・ゲイツと考える未来の展望』独占配信中