映画「ヒプノシスマイク –Division Rap Battle–」音楽集『MIC AS ONE』レビュー前編|ついに劇場で聴いた楽曲がフルで聴ける! ファンはどこに興奮したのか解説します!
日本初のインタラクティブ映画としても話題となり、大ヒットを記録している映画「ヒプノシスマイク –Division Rap Battle–」。みなさんはもうご覧になったでしょうか? 私は『ヒプノシスマイク –Division Rap Battle–(以下、ヒプマイ)』は初期から応援させていただいていて、今回の映画も仕事も合わせると計3回見に行かせていただきました。本当に映像のクオリティも高いし、見るたびにルートが変わっていくし、何度見ても見飽きない最高の作品でした。
劇場に見に行くたびに思ったのが、やっぱり映画館という音響設備が整った環境で聴く『ヒプマイ』の楽曲はいいな、ということでした。しかも今回は懐かしい楽曲から新曲までいろいろと詰め込まれており、さながらライブを見ているような感覚もあり、なおのこと音楽に意識を持っていかれる瞬間も多かったように感じます。
そんな映画「ヒプマイ」の音楽集『MIC AS ONE』がついに2025年6月11日(水)にリリースされることになりました! そしてもちろんアニメイトタイムズでは、恒例となった全曲レビューを行わせていただくことに……!
しかし、今回の収録楽曲数は脅威の25曲! 事細かくレビューしていくと大変なことになってしまいますので、短く、簡潔に、楽曲の魅力をお伝えしていこうかと思います。さらに、DISCが2枚組ということで、レビューもDISCごとに前後編に分けてお届け。
すでに楽曲をご存知の方は魅力の再確認の場に、『MIC AS ONE』から『ヒプマイ』の世界に入る方はどんなふうに『ヒプマイ』のファンの方が楽曲を楽しんでいるのかを知れる場になれればいいなと思っています。
本稿ではレビュー前編をお送りします! DISC1は映画から登場した新曲が盛りだくさん! 映画で体験した興奮を再び感じたい方は必聴です!
01.ヒプノシスマイク –Division Rap Battle– FINAL / Division All Stars
『ヒプマイ』の歴史が始まった最初の一歩目がこの曲です。しかも今回は曲名の最後に「FINAL」とついている通り、映画のために作られた特別バージョンになっています。しっかりと再録されているようで、過去に公開されているバージョンと聴き比べしてみるのも面白いでしょう。
その中でも特に気になるのが終盤にチュウオウ・ディビジョンのバースが追加された点です。ついにラスボスが来た……! と思わせる風格にぜひ注目してみてくださいね。特に東方天 乙統女の<麦踏み 韻踏む パンとサーカス 荒れた大地に大輪を咲かす>というリリックがかっこよすぎて好きです。
02.ヒプノシスマイク –Division Battle Anthem– + / Division All Stars
「ヒプノシスマイク –Division Battle Anthem– +」は、『ヒプマイ』の代表的な曲のひとつとして記憶している方も多いことでしょう。特に映画「ヒプマイ」では、キャラクターの立ち絵が3DCGモデルとして動き回る印象的なシーンで流れたことでも記憶に残っています。
「ヒプノシスマイク –Division Rap Battle– FINAL」が各キャラクターの自己紹介曲とすれば、「ヒプノシスマイク –Division Battle Anthem– +」は各キャラクターのラップ(パトル)スタイルを紹介したような内容になっているように感じます。
両方の曲を聴くことで、『ヒプマイ』の主要キャラクターたちがなんとなくわかるのではないでしょうか。
03.Last Man Standing / Buster Bros!!!・Bad Ass Temple
ファイナルディビジョン・ラップバトル初戦で披露されたBuster Bros!!! VS Bad Ass Templeの「Last Man Standing」。開幕の曲でもあるのでどんな雰囲気で来るのかなとドキドキしていましたが、想定以上の超ブチアゲ曲で「あー私が見ているのは『ヒプマイ』でしたわ! そうでしたそうでした!」とテンションは上がりながらも妙に安心したのを覚えています。『ヒプマイ』ならそう来るよね、と。
この戦いはいわば、Buster Bros!!!という「血の繋がりを持つ者たちの絆」と、Bad Ass Templeという「血の繋がりを超えた者たちの絆」の戦いです。序盤に、天国 獄が<絆は血よりも濃い>、山田 三郎が<寄せ集めCrewと一緒にすんな We’re real bros>と歌っているように、別々の形の家族を持つチームという対比が面白いですよね。しかも、元Naughty Bustersの山田 一郎と波羅夷 空却の戦いでもあります。
そしてこの曲を劇場で見たときにびっくりしたのが、リリックが文字通り文字になって相手にぶつかっていくという演出。言葉のパワーを感じられて非常に良かったですよね。
04.Out of Harmony / MAD TRIGGER CREW・どついたれ本舗
MAD TRIGGER CREW VS どついたれ本舗もこれまた対象的なチームどうしの戦い。<Out of Harmony 決して交わらない 「力」と「笑い」 意地と意地のCrashだ!>というリリックの通り、守るための力を求めてきたMAD TRIGGER CREWと、笑うために技術を磨いてきたどついたれ本舗がぶつかります。
元Mad Comic Dialogueの碧棺 左馬刻と白膠木 簓のコンビ対決ということで、この組み合わせも熱い……!「Last Man Standing」もそうですが、過去の因縁は解決したけど、やっぱラップで決着をつけておこうや……! みたいな少年漫画的展開、いいですよね。
「Out of Harmony」でも、容赦なくぶつかり合う彼らに注目してみてください。
05.Stick To My Mic / Fling Posse・麻天狼
こちらもまた因縁の対決であるFling Posse VS 麻天狼。飴村 乱数と神宮寺 寂雷の最終決戦ということで、お互いにこれまでとは違った強い言葉でのラップが興味深いですね。しかし、これまで上辺だけで争っていたような感じではなく、心の底から思っている自分の考えをぶつけ合っているようにも感じます。
その思いに乗っかっていく仲間たち。そういった構図が見て取れるような楽曲になっていると思います。
<言葉以上の言葉で 偽りがどちらか分からせる 表も裏も確かめる>というリリックの通り、やはり相手を言葉でわからせるのが『ヒプマイ』の男たちですよね。かっこいい!
06.Three Kings / Buster Bros!!!
Buster Bros!!!の2回戦の曲となった「Three Kings」。この曲はBuster Bros!!!らしい王道のヒップホップになっています。
ビートは重厚にもかかわらず、リリックが軽快なのも山田家の愉快さが出ていていいんですよね。出だしの<このままだ 生だ よろずやヤマダ>なんて、歌ってみたら口が気持ち良すぎてたまりません。
特に<偉そうに腕組み 両手クロス Bボーイスタンス ふんぞりかえる 三人揃えばいつでも映える>なんて、聴いただけで3人の様子が目に浮かびますよね。
しかし、この曲の1番のメッセージは<でも見てるみんなも兄弟じゃん>ということでしょう。Buster Bros!!!を応援しているファンはみんな、山田家の一員なんだぜ!
07.Choice Is Yours / MAD TRIGGER CREW
「Choice Is Yours」は「MAD TRIGGER CREWらしい曲だな〜」と思いながら聴いていたのですが、端々に出てくる<お前の声が必要になる>といったメッセージに、「おや……?」となりました。そして、サビにあたる部分から後半にかけてはガラッと印象が変わったように思います。
これまでのMAD TRIGGER CREWは、「渋い」「男らしい」「力強い」といったクールなイメージがあったのですが、今回の「Choice Is Yours」はそのイメージもありつつも対極なホットなイメージが強く出たなと感じています。
<信じろ お前に隠れた力 情熱が点けた革命の火花 恐れるな 立ち上がれ 生き様で 勝ち上がれ 守り抜け 叫べ夢>
あのM.T.Cが情熱!? 夢!? そしてラストのセリフ部分が泣けます。オーディエンスの力をも味方につけたMAD TRIGGER CREWは最強なのです。
08.バラの束 / Fling Posse
Fling Posseらしいポップな雰囲気がありながら、作詞作曲を担当しているKICK THE CAN CREWらしさも爆発した一曲で何度も美味しいのが「バラの束」です。「バラの束」というタイトルだけでも韻を踏んでいるのに、リリックも凄まじいクオリティになっているので要注目。
しかも、バラバラな個性が集まったのが強みであるFling Posseをかけて、あえて「薔薇」と書かずに「バラ」と銘打っているのもいいですよね。バラが集まった束であると同時に、3人が揃うと薔薇のような美しさを持つのがFling Posseなんです。
しかも最後に<君もバラの束 皆で今 花を咲かす バラッバラ達が固まる>というリリックが良い……。あんなに美しいFling Posseの中にこんな私が入っていいんですか……?
そんなFling Posseの優しさが詰まっているのが「バラの束」なんです。
09.BLESS YOU / 麻天狼
バトルにもかかわらず、対戦相手すらも癒やしてしまうような優しいメロディを奏でる「BLESS YOU」。自分が麻天狼の対戦相手だったらあっけにとられてしまいそうです。そして、こんな自分でも包み込んでくれるその包容力に涙しますね……。その懐の広さこそ麻天狼の最大の強さです。
この曲の伝えたいことはサビの<誰もひとりじゃないから それでいいよ>という部分に集約されているように感じます。こんな優しい言葉を言えるのは他のチームじゃなかなかいないかもしれません。蹴落として先に進むのではなく、手を取ってみんなで世界を変える。そんなメッセージにも感じますね。
麻天狼はこういったメロウな曲を歌うのが得意で、「シンクロ・シティ 」「TOMOSHIBI」なども「BLESS YOU」のように奥深さを感じながら優しさも感じる曲になっていました。しかも今回はその優しさが天元突破しています。こりゃあ強いわけですよねぇ……。
10.笑門来福 / どついたれ本舗
たとえバトルだったとしても笑いが絶えないお祭りに変えてしまうのがどついたれ本舗の真骨頂!「笑門来福」はその名の通り、「笑う門には福来る」という意味。ちなみに「門」というのは、盧笙先生によると<アレはな門って書いて“かど”って読むんや、家とか一族とか一門みたいな意味やな>とのこと。笑うどつ本には福来る、ということですね!
しかもただ楽しいだけでなく、今回も「あゝオオサカdreamin' night」を作詞作曲したCreepy Nutsが担当ということで、曲のクオリティもバチバチに高いのも見逃せないポイント。どついたれ本舗らしい和風なサウンドに複雑に絡み合っていくリリックがたまりません。
「笑門来福」にはフリースタイルバトル最強のR-指定らしさも感じています。彼は常々「バトルではお客さんを楽しませる」と話しており、このマインドがまさにどついたれ本舗らしさにマッチしているなと思っています。なんなら、どついたれ本舗はお客さんだけでなく対戦相手も笑かそう〜という雰囲気も感じていいんですよね。
11.シンジルチカラ / Bad Ass Temple
最強の絆を持ったBad Ass Templeが歌うのは「シンジルチカラ」。<血は水よりも濃いが絆は尚も濃い>と歌うように、この3人のファミリー感はやっぱり見るものを熱くさせてくれますね。
「シンジルチカラ」は3人の個性を上手く混ぜ込んだ楽曲になっていて、波羅夷 空却の何にも屈しないパワー、天国 獄のアダルトかつ重厚なサウンド、四十物 十四のトリッキーかつ覚悟を決めた気持ちをしっかりと表しているように感じます。それが、家族を「シンジルチカラ」だし、優勝することを「シンジルチカラ」だし、何より聴いている我々を「シンジルチカラ」なのだと思います。
端々に彼らを象徴するようなリリックも入っていて、<アマンダ 行こうぞ 遅れるな><契約書よりも固い握手の 方が時に法的だ><そうぎゃらんBAM Burn拙僧の番>と、長年のファンもビビッと来るワードを散りばめているのもニクい。
12.MIC AS ONE / Division All Stars
まさかこんな未来が待っていようとはーー。映画「ヒプマイ」のラストはまさに大団円。薄々感じていましたが、どのチームが勝っても幸せな未来を築いてくれるのは間違いなさそうです。そりゃそうですよね。みんな誰もひとりにはしない未来を探し求めていたんですから……。
そんなファイナルディビジョン・ラップバトルを終えたそれぞれの思いが垣間見えるのが本音楽集の看板曲「MIC AS ONE」です。
この曲への印象は映画「ヒプマイ」を見た人それぞれによって異なるかもしれませんね。『ヒプマイ』のひとつの終着点に一緒にたどり着いた気持ち、応援しているチームの感情を慮る気持ち、ファンたちが導いた結果を受け入れる気持ち。いろんな感情が押し寄せるはずです。
リリックを細かく見ていくと、キャラクターたちの関係性も見えて、「ああ、よかったな」と安堵する気持ちもあるはず。あんなにバチバチにやりあっていたのに、こんなにも丸く収まることってあるんですね。やっぱり『ヒプマイ』はすごい。
この曲に関しては深く語らないことにしましょう。私のチンケな感想よりも、あなたが「MIC AS ONE」を聴いた気持ちこそが本物だと思うんです。
DISC1だけでお腹いっぱいなのにもう1枚あるだと……!?
『MIC AS ONE』DISC1のレビューでした。今回は曲数が多いので短めになってしまいましたが、まだまだ話したいことは山積みです。ぜひみなさんもCDをお手にとって、お友達やSNS等で感想を話し合ってみてくださいね!
そしてレビューは後半へと続きます。DISC2では懐かしい曲が収録されていたり、チュウオウ・ディビジョンとのバトル曲「Claim Victory」が全バージョン収録されていたりと、こちらも豪華仕様です。
レビュー後半もお楽しみに!
[文/石橋悠]