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【エミー賞18冠「SHOGUN 将軍」】真田広之さん主演の「静岡ドラマ」。受賞の意義と見どころを語ります

アットエス

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは、9月15日(日本時間16日)に行われた、米テレビ界最高の栄誉とされる第76回エミー賞の発表・授賞式で、歴代最多18冠に輝いた米配信ドラマ「SHOGUN 将軍」。先生役は論説委員の橋爪充が務めます。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年9月25日放送)

伊東市ゆかりの三浦按針が登場

(山田)きょうは話題の「SHOGUN」ですね。

(橋爪)先週のニュースですが、各紙おおむね1面扱いでしたね。静岡新聞もそうでした。

(山田)そうでしたね。

(橋爪)この作品、まぎれもなく「静岡ドラマ」なんです。

(山田)出たー! どの辺がそうなんですか? 僕はまだ第1話しか見ていませんが。

(橋爪)本題に入る前に、この記事見てくださいよ。この作品、江戸時代に徳川家康に仕えた英国人のウィリアム・アダムス、三浦按針が出てくるんですが、1564年9月24日がお誕生日。生きていれば、昨日で460歳です。

(山田)記事を見ると、伊東市ではお祝いしているんですね。

(橋爪)23日に恒例の「生誕祭」を開いたそうです。按針が伊東で建造した「サン・ブエナ・ヴェンツーラ号」のモニュメント前で出席者がカーネーションを献花した、と24日付の静岡新聞が伝えています。

(山田)今もやっているんですね。

(橋爪)さて、本題。まず、エミー賞とは何か。米国テレビ芸術科学アカデミーが主催する、アメリカのテレビ界最高の賞ですね。

(山田)アメリカはこういう賞がたくさんありますよね。

(橋爪)そうそう。映画と言えば。

(山田)アカデミー賞。

(橋爪)音楽では。

(山田)グラミー賞。

(橋爪)そうですね。それでは演劇と言えば。

(山田)演劇はなんだ?

(橋爪)トニー賞ですね。エミー賞はそれらに比肩する権威ある賞です。「SHOGUN 将軍」はディズニー傘下の製作会社による作品で、2月から全10話が放送・配信されました。日本でも、有料動画配信サービス「ディズニープラス」で見られます。

ウィリアム・アダムスをモデルにした英国人航海士を演じたコズモ・ジャーヴィスさん。2月、静岡新聞のインタビューに応じた(教育文化部・森田美咲撮影)

過去最多18冠の意義。日本の文化を正しく伝える

(橋爪)この受賞の意義についてはいくつもあって。まず、過去最多の18冠。

(山田)手元にリストがあります。

(橋爪)作品賞、主演男優賞、主演女優賞だけでなく、音響賞、プロダクションデザイン賞などなど、何から何まで取っています。

(山田)ちょっと他の作品が気の毒なほど。

(橋爪)作品は作家ジェームズ・クラベルの1975年の小説「将軍」が原作です。単行本の帯には、全世界で1500万部以上売れた、とあります。1980年に三船敏郎さん、島田陽子さんが出演する実写ドラマがアメリカで放映されていて、今回はリメイクということになります。実績もある作品なので、最初から期待値は高かった。そんな中で成果を出した制作陣、俳優陣は素晴らしいですね。

(山田)しかもこの作品、時代劇なんですよね。

(橋爪)そうなんですよ。俳優によるせりふの大半は日本語。アメリカの視聴者は字幕付きで見ています。ちょっと前までは考えられない。また、プロデューサーも兼ねた真田さんの強い意向で、日本の文化や所作について、考証を綿密に行っているのもポイントです。日本の研究者らが現場でチェックしています。

(山田)昔、トム・クルーズ主演の「ラストサムライ」を見たときに「ハリウッドが時代劇を作るとこうなるのか」という印象でした。「SHOGUN」はまるで日本で作ったような時代劇でしたね。

(橋爪)例えば正座の仕方、立ち方、ふすまの開け閉め。細かい着物の着付けや小道具の配置も含め、「正確な日本人像」が描かれた作品、という意味でも画期的です。

(山田)アメリカで称賛されるのがうれしいですよね。

全10話の半分が「静岡エピソード」

(橋爪)このドラマは登場人物が全て武士の論理で動いていて、それをその世界の外側から来た「エイリアン」である三浦按針の視点で描いています。

(山田)大河ドラマのファンもハマるんじゃないでしょうか。

(橋爪)そうですね。ただ、大河ドラマよりも表現が「エグい」場面が出てきますね。「ここまでやるか感」は大河よりもかなり強い。

(山田)さて、どの辺が「静岡ドラマ」なのか。

(橋爪)全10話ですが、私が見た限り、そのうち5話は伊豆・熱海の「網代」が舞台なんです。つまり約半分は静岡県内のエピソード。映像は網代漁港周辺の漁村を、カナダのバンクーバーでセットを組んで再現しています。

(山田)熱海はもう、「静岡のバンクーバー」ということで(笑)。

(橋爪)どういう論理ですか、それ(笑)。作品はクラベルが徳川家康らから着想したフィクションです。登場人物の名前も、エピソードも史実とはことなりますが、1600年の「関ケ原の戦い」前夜の日本の有力者が顔をそろえています。

(山田)はい。

(橋爪)軸になるのは、静岡ゆかりの家康と石田三成。ただこのドラマでは名前を変えていて、それぞれ真田さんが演じる吉井寅永(よしい・とらなが)、平岳大さん演じる石堂和成(いしどう・かずなり)に置き換えられています。冒頭言及しましたが、伊東市ゆかりのウィリアム・アダムス(三浦按針)をモデルにした航海士も登場します。物語の概略をまとめてみました。

オランダ船エラスムス号の舵手で英国人のジョン・ブラックソーンは、11人の仲間とともに網代に漂着する。地元の若い侍、樫木近江(かしき・おうみ)に捕らえられ、叔父の領主、樫木藪重(やぶしげ)の取り調べを受けた後、関東の支配者、吉井虎永の配下に入る。時は1600(慶長5)年。太閤亡き後、東の実力者虎永、西の石堂を含めた5大老の思惑が複雑に交錯し、日本は合戦の機運が急激に高まっていた。謀略が両勢力の小競り合いを引き起こす中、虎永は幽閉された大坂城から江戸に向け、決死の脱出作戦を実行。道中を共にすることになった「按針」ことブラックソーンは、虎永や配下の武士たちの振る舞いから「武士道」の真髄を目の当たりにする。

(山田)ここから関ケ原に向かっていくんですか?

(橋爪)向かっていきます。この作品、対比や対立が幾重にも折り重なっているのが素晴らしいところ。軸になるのは東軍虎永、西軍石堂の対立構図ですね。そのほかにも、キリスト教の宗派対立もあります。按針はプロテスタント、先に上陸して日本で権益を広げるポルトガル人たちはカトリック。さらに女性通詞(通訳)の戸田鞠子を巡る、夫の戸田文太郎と按針の感情的対立。鞠子と、太閤の世継ぎを産んだ落葉の方という、境遇が似ていて幼少期はとても仲が良かったが父親同士が敵対するに至った2人の対立。そして、一番大きいのは按針の英国人としての価値観と、武士の世界に身を置くことで接する「死生観」や「忠義」の考え方の対比ですね。

(山田)へえー。

(橋爪)神の意志に基づいて生き、死んでいくというキリスト教の考えは、忠義の名の下に主君の身代わりになったり、大義のために自ら腹を切ったりする武士の論理とは全く違いますよね。

(山田)なるほど。

(橋爪)時間もなくなってきたので、最後に本作の最大の見どころを。第8話ですね。ある事情から絶体絶命の立場に追い込まれた虎永は、そこからの逆転劇を胸に秘めながら、ある古参の家臣に対して非情な決断をくだすんです。「敵を欺くなら味方から」で、家臣たちにも腹案を伝えない。ただ、その古参の家臣だけは主君の意図をくみ取って、非情な決断に従います。他の家臣は虎永の真意を知らないので、「どうしてこんなことを」とあわてふためきます。

(山田)ほおー。

(橋爪)このギリギリの場面での、真田広之さんの表情が本当にすごい。

(山田)いろんな思いがあるわけですね。

(橋爪)憤怒とやるせなさと幾分の後悔が入り交じっていて、見ている側が緊張してくる。「PERFECT DAYS」のラストシーン、覚えていますか? 役所広司さんの顔を正面から捉えたロングショットがありますが、あれを思い出してください。

(山田)ささいな目の開き、しわの演技。

(橋爪)そうそう。あそこまでの長回しではないけれど、何か莫大なエネルギーを伝える、という点で共通しています。あれを見て、「ディズニープラス」に加入して良かった、と思いました。

(山田)なるほど。全部見たくなりました。今日の勉強はこれでおしまい!

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