沖縄から「ノーサイン野球」で旋風を…キーマンは遊撃手にコンバートした“平良章伍”、打率5割超で最速143㌔を誇る“福本琉依”【センバツ高校野球目前!エナジックスポーツ編】
第97回選抜高校野球大会(以下、センバツ)の幕開けが迫っている。7日に抽選会を行い、18日に兵庫県西宮市にある聖地・阪神甲子園球場で開幕。全国各地から選抜された32校が13日間(雨天順延、休養日を含む)の日程でトーナメント戦を行い、日本一を決める。 沖縄からは昨秋の九州大会で2年ぶり4回目の優勝を飾った沖縄尚学、準優勝のエナジックスポーツ(以下、エナジック)が九州地区から選出。沖縄から2校同時にセンバツ出場を決めたのは、2014年に沖縄尚学と美里工業が出場して以来、11年ぶり。これまでを振り返ってもわずか3回目という快挙だ。 新鋭校のエナジックは2022年に創部したばかりで、春夏を通じて初出場となる。2008年に浦添商業を夏の甲子園ベスト4に導き、2014年には美里工業でセンバツ出場を果たした名将・神谷嘉宗監督の下、機動力を重視した「ノーサイン野球」を武器に破竹の勢いで沖縄の強豪へとのし上がった。 刻一刻と本番が近づく中、チームや選手個々の仕上がり具合が気になるところ。2月下旬に同校の練習を訪ね、筆者が選んだキーマン2人と神谷監督に話を聞いた。
神谷監督「ハツラツとプレーすれば結果は付いてくる」
「三つ(三塁ベース)狙えるぞ!」 「守備の動きをよく見ろ!」 名護市東部に位置する瀬嵩地域。海岸近くにあるエナジックの校舎グラウンドに近づくに連れ、選手たちの威勢のいい声が徐々に大きくなっていく 。ヒットエンドランやスクイズなど、あうんの呼吸で選手たち自身がプレーを選択するノーサイン野球を磨くため、お互いの認識を擦り合わせる作業だ。普段から実践練習の割合は多い。 左翼側の少し離れた場所から練習に目を向けていた神谷監督に仕上がり状況を聞くと「順調に来ていますね」とのこと。特に層の厚い投手陣に対する評価は高い。「みんな安定して力が付いてきていて、変化球のキレも良くなっています」と続ける。 打撃力については、評価が難しい。 というのも、エナジックは閉校となった旧名護市立久志小学校の校舎跡地を活用しているためグラウンドが狭く、周りは民家に囲まれているため、外野まで飛ばすようなバッティング練習ができないからだ。北部地域にある野球場もプロ野球キャンプなどで使われていてこの時期はほぼ借りられないため、冬場は学校のグラウンドや室内練習場でトレーニングを積んでいる。 とはいえ、「強いゴロは打てるようになっていて、いい当たりはしている」と向上している感触はあるという。取材日はまだ練習試合の解禁前(解禁日は3月1日)だったため、ノーサイン野球の精度については「相手チームと試合をしてみないとまだ分からない」とした。 ただ、次から次へと予想のしづらい攻撃を仕掛けるノーサイン野球を引っ提げ、甲子園に乗り込むことは楽しみにしているようだ。 「甲子園で選手たちがハツラツとプレーしてくれれば、結果は付いてくると思っています。恐れ知らずの野球で、選手たち楽しそうにはしゃいでいたら、観てる人たちは『なんなの、このチーム』って感じるんじゃないかな(笑)。そういう選手の姿を見るのは楽しみですね」 ダイヤモンド内での駆け引きは選手たちが担う部分が大きいが、もちろん戦術面やメンバー起用などで指揮は執る。神谷監督自身は3回目の甲子園。豊かな経験を生かし、どのような采配を振るうかに注目だ。
福本「いつ言われてもマウンドに行けるように」
指揮官が評価した投手陣を引っ張るのは、左腕エースの久髙颯だ。最速142㌔の直球とキレのあるスライダーに加え、昨年夏頃からチェンジアップをバリエーションに加えたことで、的を絞らせないピッチングに磨きがかかった。九州大会は全4試合で先発を務め、防御率は圧巻の1.61だった。 他にも津嘉山清喜郎や瀬良垣壱瑠など最速140㌔超の力のある投手が揃う。中でも注目なのが、外野手を兼任する2番手ピッチャーの右腕・福本琉依だ。 最速143㌔の真っ直ぐに加え、カーブ、スライダー、チェンジアップ、ツーシーム系など多彩なボールを操る。「自分は変化球のピッチャーなので、変化球でカウントを取って決め球で勝負しています」と言う。 先発で右翼を守ることが多いが、いつでも右腕を振る準備はできている。「いつ言われても、ライトからマウンドに行って試合を作れるように意識しています」と自身の役割を見詰める。 打撃でも県大会と九州大会を合わせた打率が5割を超える。「県大会から、追い込まれてもヤマを張らないようにして、来た球を反対方向に強いゴロで打つ意識で臨んだら、かなり対応できるようになりました」と好感触を掴んでいる。 甲子園に向けて「『ただ出る』ということではなく、『しっかり勝っていける』チームを目指して練習をしています。どんなピッチャーが来ても、しっかり打ち返せるようにしたいです」と気合を入れる。
平良「ピンチになった時に流れを止めたい」
県大会と九州大会を合わせた9試合のうち、0〜2失点が7試合とチームの守備は堅い。二塁手のイーマン琉海を筆頭に内野陣はフィールディングが良く、俊足の選手が揃う外野陣は守備範囲が広い。 一方で、課題もある。県大会、九州大会ともに決勝で当たった沖縄尚学戦では、2試合を合わせて14失点、8失策を記録し、いずれも敗れた。試合の終盤にかけてミスが目立った。 そんな中、最近「守備の要」とも称される遊撃手にコンバートした選手がいる。これまでは三塁手だった平良章伍である。神谷監督は「平良はもともと足が速くて守備範囲が広い選手です。最近は肩も強くなってきたので、ショートに移しました」と説明する。 平良自身も「サードよりショートの方が動きが多いので、難しい部分はありますが、自分の持ち味である足は存分に生かせていると思います」と適性を感じているようだ。深い位置からの強い送球も求められるが、「キャッチボールやボール回しの時から低くて強いボールを意識しているので、少しずつ力は付いてきていると思います」と自信を見せる。 中学生の頃は二塁手をやっていた。「内野のプレーがかっこいいから、ずっと憧れていたんです」と笑みを浮かべる。 チームの守りが崩れかけた時こそ、自らの役割を果たしたいと考えている。「ピンチになった時や間が悪い時に、守備や周りへの声掛けで悪い流れを止められるようにしたいです」と決意する。 俊足は打撃でも生かされており、ノーサイン野球との相性も良い。上位打線に座ることもある。「相手からしたら嫌な野球だし、能力の高さで勝負してくるようなチームであればハマると思っています。自分たちの野球がどれくらい通用するのか楽しみです」。聖地を思い切り駆ける瞬間を心待ちにしている。