『ONE PIECE』2人のニカがオセロゲームで世界をひっくり返す? ルフィとイムが織りなす「神と悪魔」「白と黒」の対比構造
※本記事には『ONE PIECE』最新話までのネタバレを含みます。コミックス派やアニメ派の方等、ジャンプ未読の方はご注意ください。
海賊王を目指し海へ出た主人公モンキー・D・ルフィとその仲間たちの活躍を描く、週刊少年ジャンプで連載中の漫画『ONE PIECE』(原作:尾田栄一郎氏)。原作はエルバフ編へ突入し、物語の根幹に関わるエピソードやキャラクターが次々と飛び出す衝撃展開が続いています。
最新第1150話・1151話では、エルバフへやってきたイムが軍子の身体を使い直接手を下し始めるまさかの状況に。イムの能力が少しずつ明らかとなるなか、ルフィ(太陽の神ニカ)との対比構造も浮き彫りになってきました。その対比こそが、作品のクライマックスで重要になってくると考えられます。
ルフィ(ニカ)の“白”とイムの“黒”
まず、見た目にも明らかなのが両者の“色”の対比。ルフィは白、イムは黒が印象的です。
ルフィは自身の悪魔の実「ヒトヒトの実 幻獣種モデル“ニカ”」の力を覚醒させ「ギア5」が使えるようになったことで、ワノ国終盤以降は「太陽の神ニカ」に似た姿で自由自在に戦うスタイルが定着しました。「ギア5」を発動した際には、ルフィの姿は髪の毛や衣装、眉毛に至るまで真っ白に変わります。
一方のイムは常に真っ黒なマントに身を包んでおり、周囲を悪魔化させる技の名も“黒”の文字を冠した「黒点支配(ドミ・リバーシ)」。悪魔契約を迫られた者には漆黒の翼やツノが生えるなど、イムは黒のイメージを強く持っています。
ルフィの“神”とイムの“悪魔”
もうひとつ、わかりやすいルフィとイムの対比構造は神と悪魔。
先述のように、現在のルフィは一定数から「太陽の神ニカ」と同一視されている状態です。
そもそも「太陽の神ニカ」とは、「太古の昔に奴隷達がいつか自分達を救ってくれると信じた伝説の戦士」「人を笑わせ苦悩から解放してくれる戦士」として作中で語られた存在。一方で「世界が壊れる時に現れる」「破壊の神」など伝承の内容には地域差があるようですが、ニカへの信仰はバーソロミュー・くまのルーツであるバッカニア族や、エルバフにも伝わっています。
そういった意味でルフィが神格化されつつあるのと同時に、ルフィ自身も仲間に“ゴッド”の異名をもつウソップやワノ国の守り神たる“大口真神”の能力をもつヤマトがいたり、“ゴッド”エネルに勝利した過去があったり、海の神の名をもつ古代兵器“ポセイドン”のしらほしから慕われていたり……と何かと“神”に関わりがあるのもポイントといえるでしょう。
対してイムは、寿命と引き換えに不死の体と大きな力を与える「悪魔契約(アー・クワール)」で、対象を悪魔に変えてしまう恐るべき能力を持っています。また、「「悪魔」こそ生命のあるべき姿!!」と発言したり、「五芒星(アビス)」を使って手下の五老星や神の騎士団を召喚するなど悪魔を是とし崇拝する姿が目立ちます。
「海賊王になる」という目標のためとはいえ、これまで神にも似た力で友人や国を救ってきたルフィと、悪魔の力で敵対する者すらねじ伏せ支配してしまうイムとでは、その思考や行動も対照的ですね。
とはいえ「ムーが見せてやる…!!!神の支配」と発言したり、政府側が自身らを「神」、居住地を「聖地」と称したり“Dの一族”を「神の天敵」と呼ぶところをみると、イムは元々は神側の存在だった可能性も捨てきれないのではないかとも筆者は考えます。
たとえば、現実に伝わる聖書にも「アシュタロト」「ダゴン」「ベルゼブブ」など、元は神であった悪魔が登場するように、何らかの理由でイムも悪魔に堕ちてしまったのかもしれません。まさに「黒点支配(ドミ・リバーシ)」のような方法で、実はイム自身も悪魔にひっくり返されてしまった側なのかも。
光と闇の対比も。イムは「太陽が苦手」説が浮上中
そんなルフィとイムからは、光と闇的な対比も感じとることができます。
白・黒のイメージにも通ずる点ではありますが、ルフィとイムを光と闇にカテゴライズするならば、もちろんルフィは光、イムは闇ですよね。
海賊として世界中の海を駆け巡るルフィ。いまや四皇として世界中に名を知らしめる彼の船は「サウザンドサニー号」。船首のデザインからもわかる通り太陽のモチーフです。「太陽の神ニカ」の能力を持ち、太陽に憧れる魚人と人間とをつなぐ架け橋のような存在でもあり、さらにこの世界を“夜明け”に導く「ジョイボーイ」だともいわれる彼は、まさに光の存在と言って然るべしでしょう。
対するイムは、常に姿を隠すようなマントをかぶり、基本的にマリージョアから出ることはなく、その存在を知る者は世界のにほんのひと握り。歴史を消し、国を消し、自身の存在を知った者を消し……世界を裏から操り暗躍する、いうなれば“闇の王”のような存在です。
そんなイムですが、最新話では自らエルバフへ上陸するという意外な動きをみせました。しかし、いつものマント姿ではなく軍子の姿を借りているという点から、一部読者の間でイムは「太陽の光が苦手なのではないか」という予想が浮上しているようです。
確かに普段は漆黒のマントをかぶり外へ出てこない点を思うと、「太陽の光が苦手」という設定があってもしっくりきますよね。かつてのブルックがモリアに影をとられて陽の光を浴びられなかったように、イムも光を浴びると消滅してしまうなど、特殊な身体をもつためにあえて軍子の身体を借りているのでしょうか。前項で仮定したようにイム自身も悪魔になってしまった側だとしたら、そういう“呪い”にかかっていても不思議ではありません。「太陽の光が苦手」は、つまるところまさに太陽の光である「ルフィ(太陽の神ニカ)が苦手」にも繋がってきそうですよね。
2人のニカが悪魔をひっくり返す? ルフィvsイムの「オセロ」構造
イムの「黒点支配(ドミ・リバーシ)」は、善良な人をも悪魔にしてしまう能力。悪魔化される際にはくるっと身体がひっくり返り、さらに悪魔の間に挟まれた者も悪魔になってしまう「オセロ」のような側面があり、実際に作中にも「オセロ」の盤面が描かれる演出がありました。
白と黒、神と悪魔、光と闇と常に対極にあるルフィとイムの対比も、まさに「オセロ」のよう。そんな「オセロ」は、物語全体の構造にも繋がっていくはず。
現時点では黒が多くを占める、イム優勢の状況ですが、悪魔に挟まれた者が悪魔になってしまう厄介なしくみを逆手にとって、白が多くを占めれば逆転できるのではないでしょうか。
そこで、読者の間では“ニカ化”できるルフィとボニーが揃い、悪魔化した者たちをひっくり返して元に戻す展開が予想されているようです。ボニーがどんなきっかけでエルバフへやってくるかはさておき、彼女の「トシトシの実」を用いれば、ギャバンやドリー・ブロギーらを全盛期の年代に戻して戦いを有利に進めるなんていうことも叶いそう。
「オセロ」は作品のテーマ「世界をひっくり返す」にも繋がる?
そして、「オセロ」といえば思い出されるのは白ひげの「世界はひっくり返る」発言やロジャーの「世界をひっくり返さねェか?」という言葉です。
「世界をひっくり返す」とはどういう意味なのか、読者の間では長らく議論されてきましたが、彼らのいうそれは、まさにこの「オセロ」を意図していたのかもしれません。
空白の100年に起きたのは、現在の世界政府によって白が黒にひっくり返されるような出来事だったのではないでしょうか。“Dの一族”との因縁の秘密もそこに隠れていそうです。
イムや世界政府がある巨大な王国をはじめ敵対する者たちを滅ぼし、ひっくり返したところから地続きなのが天竜人ら特権階級だけが得をし、身分による貧富の差や種族による差別が拡大し続ける今の世界。そんな世界を、ルフィ(ニカ)がひっくり返し解放する……と書くとかなり抽象的ですが、クライマックスに待っているのはそんな展開なのかもしれません。
[文/まりも]