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愛知・名古屋「IGアリーナ」。“名古屋飛ばし”解消の期待がかかる最先端技術を導入する大型アリーナ施設

LIFULL

国際スポーツ大会に対応するアリーナ施設の誕生

愛知県名古屋市に誕生した「IGアリーナ」。名古屋駅から地下鉄と徒歩で20分ほど。名古屋城を中心とした城址公園である名城公園の一角に位置する(写真提供:IGアリーナ)

愛知県民だけでなく、東海地区民にとって待望といえるアリーナ施設「IGアリーナ」が2025年7月にオープンした。こけら落としは、7月13日に初日を迎えた大相撲名古屋場所だ。

前回の東京オリンピックがあった1964(昭和39)年に誕生したドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)に代わる新たな施設。前施設は、老朽化という点もあったが、規模や機能が現代の国際的なスポーツ大会のための基準を満たしていないという課題があった。

そこで、2019年6月に愛知県が、国際スポーツ大会などの誘致を可能にし、かつ、大相撲名古屋場所などこれまでの体育館が培ってきた伝統や歴史も発展させることを目標にした「愛知県新体育館基本計画」を発表。2026年に愛知県と名古屋市が共催するアジア最大のスポーツの祭典の会場として利用できるよう、整備が進められてきた。スポーツのほか、コンサートをはじめとするさまざまなイベントにも対応し、すでに続々と海外スターのコンサートや大型ファッションイベントの開催が決定している。

今回、5月31日・6月1日に行われた開業式典「IGアリーナオープニングDAYs Experience The Arena」を取材した。

公園の緑と調和する外観デザイン

外観にしつらえた“樹形アーチ”は、木材の組み方やせり出し具合などすべて異なり、場所ごとに環境と調和できるように考えられた。2階の「d CAR GATE」と呼ばれるエントランス部分の樹形アーチが最も大きくせり出していて、来場者の高揚感を高めるという思いが込められている。写真は公園の芝生広場に面した部分

当サイトで建設が始まった2022年に、その時点で発表されていた概要をまとめた記事をアップした(愛知県新体育館が2025年夏にオープン予定。国際的施設として愛知・名古屋の新しいシンボルに)。そこで紹介したパースで特徴的だったのが、外壁に木材があしらわれていること。建設途中に通りがかったときにも見たことがあったが、完成してあらためて見ると白い外壁に木材がせり出すように組まれたデザインが映える。

コンセプトは「樹形アーチに包まれたアリーナ」。設計を担当した建築家・隈研吾氏は、公式サイトに2024年8月に公開されたインタビューで「今回のアリーナは、ボリューム的に日本でいちばん大きなアリーナだと感じています。大きなボリュームをどうやってヒューマンな、人間らしい空間にするか、人間にとって親しみがあって優しい空間にするか。そのためにこの樹形アーチを思いつきました」と語っている。

コンコース全体にデザインされた「木陰天井」。無機質な配管や鉄骨と木材の組み合わせが面白い印象

IGアリーナは、都心部から近いが、名城公園という緑豊かな空間に位置する。「名城公園の緑の杜と調和する」という思いは、内部のデザインにもつながっている。

配管などがむき出しになった天井に木材が幾何学的に配置されていた。すべての柱ではなかったが、木材で覆われた柱とつながって、木の幹と枝のように感じられた。このデザインは「木陰天井」と名付けられ、ガラス窓から見える公園の木々と連続性を生む。

「木陰天井」の木の組み方は、2年に及ぶスタディと調整、モックアップによる確認を重ねて出来上がったという

見やすさのほか、演出の可能性も感じたオープニングアクト

IGアリーナ開業式典「IGアリーナオープニングDAYs Experience The Arena」のオープニングアクト直前のアリーナの様子。布や照明の演出が美しい

さて、メインアリーナ内部へ。マスコミ用に用意されていたのは2階スタンドの最後列。1階スタンド、さらにはアリーナ部分と地続きになっていて、視線の流れがスムーズというのが的確な表現かわからないが、思ったよりもアリーナと距離が近いと思った。

一般客も参加した開業式典では使われなかったが、客席は4階まであり、最大収容人数は県内最大級となる1万7,000人。満席になったことを想像すると圧倒的なスケールだ。最上部に行くほど傾斜をつけ、見やすくしている。

メインアリーナの客席は、ハイブリッドオーバル型といわれる造り。1階の席は可動式で、スポーツでは中央で行われる試合を四方八方から見られるようにオーバル型(楕円形)にできる。2階以上は馬蹄型にし、ステージが設置されるコンサートなどでは見切れ席を少なくするなどの座席配置の工夫ができるという。

「IGアリーナオープニングDAYs Experience The Arena」のオープニングアクト、プロフィギュアスケーター村上佳菜子氏のパフォーマンスシーン。センターハングビジョンの効果も大きい

開業式典のオープニングアクトがスタートする。演出を担当したのは、演出家・音楽プロデューサーの滝沢秀明氏(株式会社TOBE代表取締役)だ。始まりはプレスエリアから見て左側に設置されたステージからNHK名古屋青少年交響楽団の演奏。指揮をしたのは、三重県出身のレスリング女子元日本代表・吉田沙保里氏。その姿が天井高30mのアリーナ中央に吊るされた8面型の大型ビジョン「センターハングビジョン」に映し出されると、観客席が沸いた。このビジョンが実に見やすかった。アリーナ全体の動きを見つつ、センターハングビジョンで演者の表情を捉えられる。プレスエリアは設定されたステージ正面が見える席だったが、360度に対応するセンターハングビジョンがあることで、どの席も“置いてきぼり”にならないはずだ。

次に名古屋出身のプロフィギュアスケーター・村上佳菜子氏がインラインスケートパフォーマンスを披露。そしてTOBE所属の島田泰我氏によるIGアリーナの未来をつむぐナレーションと踊りのパフォーマンス、和太鼓の演奏が流れる中での力士・若隆景の四股、このIGアリーナをホームアリーナとするプロバスケットボールチーム・名古屋ダイヤモンドドルフィンズの加藤嵩都選手、今西優斗選手によるドリブルパフォーマンスへ。

三代目J SOUL BROTHERSのメンバーで名古屋出身の岩田剛典氏、同じく名古屋出身の乃木坂46・遠藤さくら氏がオープンカーに乗って登場して会場をさらに沸かすと、その後ろから別のオープンカーでプロフィギュアスケーターの荒川静香氏、高橋大輔氏、村元哉中氏、鈴木明子氏、村上佳菜子氏が続いた。プロフィギュアスケーター5人による氷上ではなく、陸上でのダンスパフォーマンスで観客を魅了し、オープニングアクトを締めくくった。

センターハングビジョンは遅延や映像の乱れもなく、文字もはっきりとわかる。きらびやかな照明、プロジェクションマッピングなどの演出は美しく、音楽の音の響きもよかった。20分ほどのオープニングアクトで、これからここで行われるスポーツやイベントを盛り上げる演出がぎゅっと凝縮されていた。

若隆景関の迫力ある四股。プロジェクションマッピングで日の丸の映像演出もされていた。IGアリーナは大相撲名古屋場所の伝統を引き継ぎ、このアリーナに土俵が設けられる(写真提供:IGアリーナ)

多彩な企業の技術やサービスを生かした“スマートアリーナ”

館内には約20の飲食店がそろう

IGアリーナは、事業者が自らの提案をもとに設計・建設した後、県に所有権を移転する「BT方式」と、県が事業者に公共施設等運営権を設定して維持管理・運営を行う「コンセッション方式」を組み合わせた「BTコンセッション方式」を国内で初めて採用。設計・建設から運営まで30年間の委託となっている。

事業者となったのは、株式会社NTTドコモ、前田建設工業株式会社、AEGなどの企業で構成された事業コンソーシアムとなる株式会社愛知国際アリーナ。各企業の最先端技術やサービスのノウハウを生かし、“スマートアリーナ”を実現していく。

オープニングアクトでも使われた映像などさまざまな技術のほか、館内は約20軒ある飲食店を含め完全キャッシュレス決済を採用し、ライブなどでも身軽に利用できるようになっている。また、携帯電話のつながりやすさを確保し、フリーWi-Fiも用意。電子チケット化が進んでいる今には欠かせないシステムが整備されていることがうれしい。なお、IGアリーナのチケット販売サイトでは、リセールまでカバーされており、使い方ガイドを見る限り、直感的にスマホで購入から入場までできるようになっている。

開業式典を終え、次に予定されていたトークショーなどのイベントのため転換中のアリーナ。IGアリーナの名称は、IG証券株式会社が「愛知から日本を世界に開く」というアリーナの理念に賛同し、ネーミングライツパートナーとなった

開業式典に登壇した大村秀章愛知県知事は、「(事業者となった企業が)愛知と世界をつなぎ、そして愛知と未来を支える新たなアリーナとして運営をしていただくことを、大いに期待している」とあいさつ。そして「この素晴らしいアリーナと名古屋城の天守閣がまさに対となって、名古屋、愛知の新たなシンボルになると思います。ここから世界に向け、愛知、名古屋を発信していきたいと思っております」とも語った。

同じく開業式典に登壇した株式会社愛知国際アリーナ代表取締役の寛司久人氏は「このアリーナは、“Beyond Arena”というコンセプトで進めております。アリーナを超えていく、スポーツやエンターテインメントの楽しみ方をアップデートしていく、ここに集う皆さまが笑顔になり、心が躍るような体験をしていただく、そんな場にしていきたい」と話した。

今後も新たな取り組みが考えられているようで、さらに期待していきたい。

“名古屋飛ばし”に悔しい思いしてきたとプロフィギュアスケーター村上佳菜子氏

左から村上佳菜子氏、高橋大輔氏、荒川静香氏、村元哉中氏、鈴木明子氏

オープニングアクトに登場したプロフィギュアスケーター5名の囲み取材から、コメントも紹介したい。

アリーナに実際に立った感想について、「天井も高くて、バックヤードもできたての状態で使わせていただいて、本当に快適で。これからフィギュアスケートの試合などありますが、使う選手たちものびのびとできるんじゃないかな」と村上氏。

高橋氏が「客席から見させてもらったんですけど、一体感があるなと感じて、演者側も見る側も一つになるような会場」と話すと、荒川氏も「大きなキャパシティのある会場なんですけど、傾斜があるので、上の方から見ても近くに感じるし、よく見えやすいと思いました」と続いた。

村元氏は「本当に大きい空間と実感」し、「お客さんに届けるために表現を大きくしなければ」と思ったという。そして鈴木氏は「スタイリッシュなアリーナで、とてもかっこいいと感じ、ここがスケートリンクになってお客さんでいっぱいになったところを想像するとすごくワクワクした」と語った。

演者としての視点からもIGアリーナの造りは評価できるようだ。

地元出身である村上氏と鈴木氏には、この冬にフィギュアスケートの主要な国際大会の一つであるグランプリファイナルの開催が決定していることに関しても質問があった。

村上氏は「たくさんの有名な選手がこの愛知から出ていますが、大きな大会をする場所がなかったのが悔しい部分でもありました。ほかのエンターテインメントでも“名古屋飛ばし”という言葉ができちゃうような。そんな悔しい思いをしてきた名古屋人(笑)」と自身の思いを打ち明けつつ、「選手たちも快適で、見に来る方たちが引き込まれるような会場になっていると思う。選手たちにとっても、ここでまた滑りたいと思ってもらえるような会場なんじゃないかな」と語った。

鈴木氏も「ここで素晴らしいパフォーマンスが見られることを期待したいと思います。そして、それを見た子どもたちが、また夢を持ってスケートにもチャレンジしてもらえたらうれしい」と、未来へつながる希望ができる場所になることへの期待を明かした。

オープニングアクトでの荒川氏らのパフォーマンスの様子(写真提供:IGアリーナ)

こまやかな配慮もされた世界水準の施設で新たな愛知・名古屋のシンボルへ

IGアリーナ内の「プレミアムラウンジ」入口。高級感が漂う

アリーナ施設としては、「食の世界旅行」をコンセプトに飲食店が約20そろっているのも充実しており、「IG Arena Bar」というバーもあって大人も満足できるはず。2階には、ラウンジ利用券付きチケットを購入すると入れる「d CARD LOUNGE(プレミアムラウンジ)」があり、ウイスキーなどを提供する2つのプレミアムバー、職人が握る寿司もある2つの飲食店で飲食を楽しみながら、観戦ができる。

「プレミアムラウンジ」で出される食事の例
IGアリーナの授乳室

そのほか、バリアフリートイレ、授乳室のほか、光や音などによってストレスを感じたり、気分が高揚しすぎたりしたときに利用する「カームダウン・クールダウン」スペースも設置。デザインも設備もスタイリッシュでこまやかな配慮もされた施設になっていると感じた。

大相撲名古屋場所の開催という伝統を引き継ぎつつ、名古屋で初開催となるフィギュアスケートのグランプリファイナルやバスケットボールの試合、国内&海外アーティストのコンサート・ライブなど続々と決定しているIGアリーナ。世界水準の施設ができたことで、村上氏も言っていた、名古屋で国際大会やコンサートなどが行われない“名古屋飛ばし”の解消へ。その期待は、間違いなくかなえられるはずだ。

取材協力:株式会社愛知国際アリーナ
IGアリーナ https://www.ig-arena.jp/

館内には「ブランドスペース」が何か所か設けられている。来場者に向けた体験ブースとなるほか、55インチ×9面の大型ビジョンで興行と親和性のある動画を上映し、興行への高揚感を生み出す

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