【富士川楽座の特別企画展「御宿至ー進化する記憶の造形ー」】富士宮市の彫刻家御宿至さんの近作ずらり。周到な計算と直感のせめぎ合い
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は富士市の富士川楽座で7月19日に開幕した特別企画展「御宿至ー進化する記憶の造形ー」を題材に。18日の開幕記念式典と内覧会を取材。
富士宮市在住の彫刻家御宿至さんの最新作を紹介する個展。イタリアの国立美術アカデミーで彫刻を学んだ御宿さんは、鉄やステンレスなど無機的な素材を使って光や風、空気の動きなど自然の営みを感じさせる作品をつくってきた。
サービスエリアの施設内にあるギャラリーでの展示は、東名高速道を使って東海道を行き来する多数の人々の目に触れることになるはずだ。日伊両国で多くの個展を開き、静岡市民文化会館の敷地や民間企業の本社ビルなどでも作品が見られる御宿さんだが、キャリア屈指の「開かれた場所」での展示だろう。
御宿さんは開幕で次のように述べた。
24歳で羽田空港からイタリアに渡った。機上の人になって「彫刻家になって帰ってくる」という気持ちが固まった。それから約半世紀たった。日本、イタリアで巡り会いに恵まれた。それがあって創作を続けられている。ますます精進して世界に通じる作家になりたい。
御宿さんの案内で、近年の作品群を見た。模型大手タミヤ(静岡市駿河区)のフィリピン・セブ島の新工場に設置された「Gioia della Creazione 創造のよろこび・たのしみ」のブロンズ縮小版(2024年)は上下それぞれに弱くねじった面と、強くねじった面を持っていて、面のなめらかさと縦横のエッジが作り出す直線という相反する要素が一体に同居している。
にび色のアルミニウムと和紙や木のマットな質感が縦長のフレームの中に閉じ込められた「Parole del Vento(風の言葉)」は2021年に静岡市駿河区の駿府博物館で行われた個展のタイトルにもなった作品。「風のカタチ-1」(2025年の)は一見するとヨットの帆のようだが、複雑な曲面とマチエールを持っていて、さまざまに角度を変えて鑑賞しているうちに時を忘れる。
どの作品も周到な計算と作家の直感のせめぎ合いが感じられる。一つの面、一つの線が謎かけのようだ。「10人が見たら10通りの感想があったらいい。人それぞれの記憶との接点を探ってほしい」と御宿さん。目の前のカタチと、自分の頭にある風景を重ね合わせると、ある種の感慨が湧いてくる。この「喚起力」こそ、御宿作品の美点ではないだろうか。
(は)
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■富士川楽座開館25周年記念特別企画展「御宿至ー進化する記憶の造形ー」
会場:道の駅富士川楽座フジヤマギャラリー
住所:富士市岩淵1488-1
開館:午前10時~午後5時
休館日:なし
観覧料:無料
会期:9月7日(日)まで