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訪問介護はなくなる!? 人材不足と倒産の実態から考える訪問介護の未来と対策

「みんなの介護」ニュース

長谷川 昌之

訪問介護サービスの現状と「なくなる」という懸念

訪問介護事業所数の推移と休止・廃止の実態

訪問介護サービスを取り巻く状況が年々厳しさを増しています。厚生労働省の最新データによると、2024年6月から8月の3か月間で、全国の訪問介護事業所のうち166件が休止、397件が廃止となりました。これは前年同期と比較して約1割の増加となっています。

特に懸念されるのは、新規開設数よりも休止・廃止数が上回る傾向が続いていることです。2024年4月時点での全国の訪問介護事業所数は35,468事業所となっていますが、その数は減少傾向にあります。

中でも深刻なのが、中山間地域や離島などの地方部での事業所の閉鎖です。これらの地域では、人口減少と高齢化が同時に進行しており、事業の継続がより一層困難になっています。厚生労働省の調査によれば、中山間地域を抱える自治体では、訪問介護事業所の休止・廃止数が都市部と比較して多い状況にあります。

この状況を受けて、「訪問介護がなくなるのではないか」という懸念を抱く方もいるかもしれません。特に、地域包括ケアシステムの要となる訪問介護サービスの継続性に対する不安が高まっているのが現状です。

訪問介護事業所が「なくなる」主な理由

訪問介護事業所の休止・廃止の背景には、複数の要因が重なっています。厚生労働省の調査結果を確認すると、事業所が休止・廃止に至る主な理由が明らかになっています。

最も大きな要因が「人員の不足」。訪問介護事業所の休止・廃止理由の多くがこの人材不足によるものなのです。

次に深刻なのが「利用者の減少」です。これは特に地方部において顕著で、人口減少に伴う利用者数の減少が、事業の継続を困難にしています。また、新規利用者の確保も難しい状況が続いています。

さらに、「人件費の上昇」と「物価高による経費の増加」も大きな課題となっています。2024年の最低賃金の引き上げや、燃料費を含む物価高騰により、事業所の経営を圧迫する状況が続いています。

加えて「経営戦略上の事業所の統廃合」も増加傾向にあります。これは、経営の効率化を図るために、複数の事業所を統合するケースが増えていることを示しています。

特に懸念されるのは、これらの要因が相互に関連し合い、負のスパイラルを形成していることです。人材不足により既存スタッフの負担が増加し、それが離職につながり、さらなる人材不足を引き起こすという循環が生まれています。

また、介護報酬改定に伴う収入減も事業所の経営を圧迫する要因となっています。2024年度の介護報酬改定では、経営難の解消につながる大幅な改善は見込めず、多くの事業所が厳しい経営判断を迫られる状況が続いています。

地域による訪問介護サービスの格差

地域による訪問介護サービスの格差も深刻な問題となっています。

特に中山間地域や離島等がある自治体では、サービス提供に関して深刻な課題が報告されています。調査データによると、訪問介護事業所数が十分でないと回答した自治体が39.3%にのぼり、さらに特別地域加算や中山間地域等における小規模事業所加算等では事業所の赤字を補えていないとする自治体が25.0%を占めています。

移動時間の問題も地域格差を生む大きな要因となっています。中山間地域では、利用者宅までの移動に長時間を要するケースが多く、実際のサービス提供時間よりも移動時間の方が長くなることもあります。この移動時間の負担は、事業所のコスト増加につながり、収益性を大きく低下させています。

また、離島地域特有の課題も存在します。悪天候により渡船が欠航となった場合、訪問介護職員が島に渡ることができず、予定していたサービスが提供できないという事態が発生しています。このような地理的条件による制約は、安定的なサービス提供の大きな妨げとなっています。

さらに深刻なのは、地域による介護人材の偏在です。都市部と比較して地方部では介護人材の確保が困難であり、この状況は年々深刻化しています。厚生労働省の調査では、中山間地域全域を抱える自治体において、介護人材が「あまり確保できなかった」「確保できなかった」と回答した割合が特に高くなっています。

このような地域格差は、結果として住民が受けられる介護サービスの質や量に直接的な影響を及ぼしています。高齢化率が高い地域ほどサービスの提供体制が脆弱になりやすいという矛盾した状況が生まれているのです。

訪問介護サービスの存続を脅かす要因

深刻化する介護人材不足の実態

介護人材の不足は、訪問介護サービスの存続を脅かす最も深刻な問題となっています。第8期介護保険事業計画における介護人材の確保状況について、都道府県でも「あまり確保できなかった」「確保できなかった」の合計が5~6割に達しています。

特に訪問介護分野では、サービス提供責任者や訪問介護員(ホームヘルパー)の確保が困難な状況が続いています。有効求人倍率を見ると、介護関連職種全体で高い水準で推移しており、人材不足が常態化しています。

この人材不足の背景には、介護職の処遇や労働条件の問題があります。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、介護職員の平均月収は他産業と比較して依然として低い水準にとどまっています。また、夜間や早朝の対応、緊急時の呼び出しなど、不規則な勤務形態も人材確保を難しくしている要因です。

さらに、介護職員の高齢化も進んでおり、若い世代の新規参入が少ないことも大きな課題となっています。介護現場の人手不足は、既存スタッフの過重労働を引き起こし、それがさらなる離職につながるという悪循環を生み出しています。

このような状況に対して、多くの自治体が介護人材確保のための支援策を実施していますが、即効性のある解決策を見出せていないのが現状です。人材不足は、単なる量的な問題だけでなく、サービスの質の維持という観点からも大きな課題となっています。

経営難による訪問介護事業所の倒産増加

訪問介護業界における経営難の実態は、単なる事業所数の減少だけでなく、より構造的な問題として顕在化しています。厚生労働省の調査によれば、経営状況の悪化は特に、利用者数が少ない地域密着型の小規模事業所において深刻です。

休止・廃止に至る経営難の背景には、複合的な要因が存在します。最低賃金の上昇に伴う人件費の増加、燃料費や光熱費などの固定費の高騰に加え、感染症対策に関連する新たな経費負担が事業所の収益を圧迫しています。このような状況下で、特に小規模事業所では、これらのコスト増加を吸収できないケースが増加しています。

また、介護報酬の地域加算制度においても課題が浮き彫りになっています。特別地域加算や中山間地域等における小規模事業所加算等では、実際の事業運営コストを十分にカバーできていない実態が明らかになっています。

さらに、事業規模による経営格差も拡大傾向にあります。大手法人は人材の効率的な配置や業務の標準化、スケールメリットを活かした経費削減が可能である一方、小規模事業所ではそうした対応が難しく、結果として「経営戦略上の事業所の統廃合」が進んでいます。

こうした経営環境の悪化は、新規参入の障壁ともなり、特に条件不利地域におけるサービス提供体制の維持を一層困難にしています。また、経営の効率化を優先するあまり、個々の利用者のニーズに応じたきめ細かなサービス提供が難しくなるという新たな課題も生まれています。

制度改正による影響と課題

介護保険制度の度重なる改正も、訪問介護サービスの存続に影響を与えています。2024年度の介護報酬改定では、地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組や介護人材の確保・介護現場の生産性向上につながる取組等の推進が掲げられました。しかし、現場では新たな課題も生まれています。

特に大きな課題となっているのが、介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)への移行に伴う影響です。要支援者向けの訪問介護サービスが市町村事業に移行したことで、事業所の収入構造が変化し、特に小規模事業所では収益の確保が困難になるケースが報告されています。

また、2040年に向けて高齢者人口がピークを迎えることを見据えた制度改革も進められています。認知症の高齢者や単身高齢者の増加など介護サービスの需要が増大・多様化する一方で、その状況は都市部と地方では異なる形で進むことが見込まれています。

さらに、地域包括ケアシステムの深化・推進に向けた取り組みの中で、訪問介護事業所には多職種連携やICT活用による業務効率化など、新たな対応が求められています。しかし、これらの変化に対応するための体制整備や人材育成にかかるコストが、事業所の新たな負担となっています。

制度改正への対応において特に困難を抱えているのが中小規模の事業所です。複雑化する制度への対応や書類作成業務の増加が、直接的なケアに充てる時間を圧迫し、結果としてサービスの質の低下や職員の負担増加につながっているという指摘もあります。

訪問介護サービスの持続可能性を高める取り組みと展望

自治体による介護人材確保・定着支援策

訪問介護サービスの継続に向けて、全国の自治体で積極的な支援策が展開されています。厚生労働省の調査によると、都道府県レベルでは特に効果的な取り組みが進められており、「外国人介護人材の受入れ支援」「ICT・介護ロボット購入補助金」「介護の仕事の魅力発信」などさまざまな施策が行われています。

具体的な支援策として、人材採用に対する補助金、資格取得に対する補助金、研修参加に対する補助金などの直接的な経済支援が行われているほか、介護職員の処遇改善に向けて、奨学金返済補助金制度や介護職員宿舎借り上げ支援なども実施されています。

特に注目されるのが、介護職の魅力向上に向けた取り組みです。各種研修の開催、介護の仕事の魅力発信など、介護職のキャリアパス構築や社会的認知度の向上を目指した施策が積極的に展開されています。これらの取り組みにより、若い世代の介護業界への関心が徐々に高まりつつあります。

また、都道府県と市区町村が連携した支援体制も構築されています。広域的な採用活動の支援や、事業所間の協力体制の構築など、地域全体で介護人材の確保・定着を支える仕組みづくりが進められています。

これらの取り組みは、特に中山間地域や離島における人材確保の課題解決に向けた重要な施策となっています。

ICT・介護ロボットの活用による業務効率化

訪問介護サービスの持続可能性を高める重要な取り組みとして、ICTと介護ロボットの活用が本格化しています。厚生労働省のデータによると、全都道府県で「ICT・介護ロボット購入補助金」制度を設けており、積極的な技術導入の支援を行っています。

ICT導入の具体例として、記録作成の電子化や情報共有システムの活用が進んでいます。これにより、従来は手書きで行っていた訪問介護記録の作成や報告業務が大幅に効率化され、直接的なケアに充てる時間が増加しています。

また、スマートフォンやタブレットを活用した移動中の記録入力により、事務所での作業時間も削減されています。さらに、ICTを活用した利用者情報の共有システムにより、多職種連携がスムーズになっています。医療機関や他の介護サービス事業所との情報共有が迅速化され、より質の高い継続的なケアの提供が可能になっています。

自治体による支援も充実しており、ICT等のテクノロジーの活用促進支援が幅広く展開されています。具体的には、ICT機器の導入費用補助に加え、活用方法の研修や導入後のフォローアップなど、包括的な支援体制が整備されています。

特筆すべきは、これらのテクノロジー活用が単なる業務効率化だけでなく、職員の負担軽減や働きやすい職場環境の整備にもつながっている点です。記録業務や情報共有の効率化により、職員が本来の介護業務に集中できる環境が整いつつあります。

地域包括ケアシステムにおける訪問介護の役割と展望

訪問介護サービスは、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるための要となるサービスとして、その重要性が改めて認識されています。

2040年に向けて認知症の高齢者や単身高齢者の増加など介護ニーズが多様化する中、地域包括ケアシステムの深化・推進において訪問介護の果たす役割はますます大きくなっています。

このような状況を踏まえ、各地域では新たな取り組みが始まっています。例えば、訪問介護と他のサービスとの連携強化が進められており、医療・介護の連携支援など、多職種による包括的なケア体制の構築が進んでいます。これにより、利用者一人ひとりのニーズに応じたきめ細かなサービス提供が可能になっています。

また、地域の実情に応じた柔軟な支援体制も整備されつつあります。特に中山間地域や離島では、離島等相当サービスの活用や、事業所に対する運営費の補助など、地域特性に応じた支援策が展開されています。これらの取り組みにより、地理的条件が不利な地域でもサービスの継続性が確保されつつあります。

将来に向けて特に期待されているのが、地域全体で支え合う新しい介護の形です。介護人材の育成・確保において、地域の教育機関との連携や住民ボランティアの活用など、地域ぐるみでの支援体制が構築されつつあります。

これは、単なる人手不足の解消だけでなく、地域コミュニティの活性化にもつながっています。

訪問介護を取り巻く環境は確かに厳しさを増していますが、その社会的価値は今後さらに高まることが予想されます。ICTの活用や地域との連携強化、さらには介護人材の育成・確保に向けたさまざまな支援策により、持続可能な訪問介護サービスの実現に向けた道筋が見えつつあります。

介護の専門職一人ひとりの献身的な取り組みと、地域社会全体での支援の輪の広がりによって、持続可能な訪問介護サービスの未来を切り開いていくことが期待されます。

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