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少数精鋭のレストラン・バー【テンプラー】が東ロンドンの救世主である理由

料理王国

少数精鋭のレストラン・バー【テンプラー】が東ロンドンの救世主である理由

2012年のロンドン・オリンピック跡地が今、10年以上の時を経て文化地区として生まれ変わり、大きな飛躍を遂げようとしている。その一端を担うレストラン・バー「Templar」は、なぜ地元グルメの救世主なのか。

前回「ロンドンの飲食は今、西が面白い」などと書いたばかりだが、実は保守的な傾向が強く古い住宅地が多い西ロンドンよりも、官民をあげて新しいビルで再開発に取り組む東のほうが「勢い」という意味では上手。西は到底かなわない。今日はそんな話題を。

ロンドンでは東エリアのオリンピック跡地を10年以上に渡って住宅、商業、文化の各分野で再開発し続けているのだが、その中心とも言うべきストラットフォードが今、新たなフェーズに入ってきているのである。直近の大ニュースとしては、この5月31日に長らく待ち望まれていたヴィクトリア&アルバート・ミュージアムの東館オープンがあり、大規模なアトラクションとして地域の活性化に貢献すると期待されている。

ストラットフォードはまた芸術や学術に力を入れる文化振興地区としても知られ、大学キャンバス、現代ダンス・シアター、BBCの音楽スタジオなどが旧オリンピック跡地周辺に点在し、その遺産を謳歌している。もともと運河や河川が多い土地でもあり、自然景観という観点からも申し分なく魅力的なのだ。

しかし再開発地区では、飲食店はどうしてもチェーンや大手グループが手がける店に偏りがちになってしまう。その中で、ひときわ輝いている独立系のレストラン・バーがある。この3月にオープンしたばかりの「Templar テンプラー」だ。

ストラットフォード・クロスと名付けられた再開発地区にあるThe Turing Buildingに3月に登場。隣接する映画館からの客も多い。

イタリアン・モダニズムとミッドセンチュリーがテーマのインテリア。再生素材を使った床、1950年代のイタリアを彷彿とさせるヴィンテージ照明が特徴的。

ロフトにはワインセラー、そして1階を見渡せるセミプライベートのダイニング・スペースがある。

テンプラーは東の申し子のような存在だ。同エリアで随一のクオリティを誇る独立系レストラン・バーとして約10年にわたって支持されている「Darkhorse ダークホース」のチームが手がけるプロジェクトだからだ。彼らはシンプルで飽きがこない上質のバーフードとレストランの味を、地元の人々の嗜好に合わせて提供する達人でもある。

テンプラーのスタイルは非常にエレガントだが、味は力強い。例えば季節のアスパラガスはただグリルしてチーズを添えるようなものではなく、ンドゥイヤの香り高いオレンジ色の油脂をソースとして、ローストしたヘーゼルナッツを散らし、フェンネルの葉を添える鮮やかな一皿になる(冒頭の写真)。見た目ほどしつこくないため、食べ終わった頃に運ばれてくるフォカッチャは大歓迎。ソースをぬぐって完食したい旨みの宝庫だ。

炭火で焼いたアンコウの白ワインソースにアクセントを添えるのは、近年注目を集める海辺のハーブたち。ソルティー・フィンガー、シー・パースレーン、モンクス・ベアードといった海沿いに自生する植物を散らし、塩加減を手伝ってもらう。

柔らかなポレンタのフライは定番。熟成パルメザンをアクセントに。

自家スモークした鴨の胸肉に、そら豆とグリンピースを合わせた美しい一品。レモン・ヴィネグレットで全体をまとめる。

メイン・セクションにあるアンコウの炭火焼きはボリューム満点。

厨房を統括しているのは、ミシュランの星を持つ複数のレストラン、五つ星ホテルの厨房などで長年腕を振るってきたRichard Sinclair リチャード・シンクレアさんだ。テンプラーでは旬の食材をふんだんに使った創作料理を考案。エフォートレスなセンスの良さが、味とプレゼンテーションの両方に行き渡っている。

「地中海料理をコンセプトにしていますが、基本的にはモダン・ブリティッシュですね。僕自身はイギリス人なので」とリチャードさん。イングランド南東部の小さな漁村で生まれ育ち、15歳からキッチン・ポーターとして働いてきた叩き上げのトップシェフは、魚介への理解はもちろんのこと、上質な素材へのリスペクトが強い。

デザートに、ヨークシャー地方の名物で遮光栽培した早出のルバーブを楽しむヨーグルトムースをいただいた。酸味を抑えたまろやかな味わいのムース、程よい甘さのルバーブコンポート、そしてサクサクと香りの良い自家製ジンジャーブレッド・ビスケットは、コンビネーションが秀逸。旬の英国を味わうデザートとしては、これ以上のものはないと思えたほど。

これだけのクオリティでサーブできる独立店は近隣にはほとんどなく、明らかにストラットフォードの食通たちにとっては救世主だ。グルメ・マップを広げるとそこだけキラキラと輝いているイメージだろうか。地元の嗜好を熟知しているチームによる店だけに、今後もますます注目を集めていくだろう。

マネージャーのジョニー・アンダーソンさんをはじめ専門チームによる選りすぐりのワインは、間違いなくTemplarの強み。自然派・古典にこだわらず、シーズンや仕入れによって頻繁に変わっていく。

ラム肉の炭火焼き、赤ワインソース。絶妙の火入れ。香ばしさ、肉の甘み。ワイルド・ガーリックの香り。素材が生きる一品。

ヨーグルトムース、ルバーブコンポート&ジンジャーブレッド・ビスケットの組み合わせを堪能。

ヘッドシェフのリチャード・シンクレアさん。センスの良さが光る熟練の腕前。余裕たっぷり。

人間味あふれる少数精鋭の独立系レストランが、巨大ショッピング・モールの隣でチェーン店に囲まれ、新興ビルの一画で営業するのは本質とかけ離れているかもしれない。

しかし共同創業者のお二人、Lee Glen リー・グレンさんとIan Goodman イアン・グッドマンさんは、そのギャップさえも優れた戦略でもってキレイに埋めてしまっているようだ。店名に「Templar(テンプル騎士団の意)」という意味深な名前を付けることによって。筆者自身、初めて店名を聞いた際に、どんなつながりがあるのか興味を引かれた。テンプル騎士団は聖地エルサレム奪還のために中世のヨーロッパで生まれた騎士団なのだが……。

イアンさんはこう語る。「1080年代、テンプル騎士団がこの地を所有していたんです。隣接するリー川に木製の水車小屋を建設し、地元の人々のために穀類を挽いていた。その歴史にちなんだ名です。こうした忘れられた地方史を知ってもらうこと、文化地区として成長するストラットフォードの再生に関わることができて、嬉しく思っています」。

なるほど、無機質にも見えるこの地区には千年という時空を超えたジューシーな物語が横たわっているのか。そういえばシェフのリチャードさんの姓と同じ「シンクレア」を名乗る一族は確か、テンプル騎士団の一員だったはず。そんな連想からまたしても新たな物語に想いを馳せることになり……この土地の不思議な歴史が今、ようやくスポットライトを浴びるときがきたのかもしれない。

Templar
https://templarlondon.com

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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