Yahoo! JAPAN

マッコウクジラの体から排出される神秘の宝石 高級香料<アンバーグリス>とは?

サカナト

マッコウクジラ(提供:PhotoAC)

深い海の中を優雅に泳ぐマッコウクジラ。その体内で生まれる神秘的な香料があります。

その名は「アンバーグリス」。「龍涎香」という名のほうが知られているかもしれません。

マッコウクジラの体の中で長い時間をかけて生成される「アンバーグリス」とは、いったい何なのでしょうか。

アンバーグリスとは?

アンバーグリスは、甘く人を魅了するような香りの中に、海の塩の香りも感じられる独特なアロマを持つ石のようなもの。

……が、その正体は、マッコウクジラの腸内で生成される結石です。独特なアロマを持つアンバーグリスは、昔から希少な香料として重宝されてきました。

中世ヨーロッパでは黄金にも匹敵する価値を持ち、アラビアの香料商人たちが取引を行っていました。また、中国でも古くから流通しており、龍涎香(りゅうぜんこう)と呼ばれています。

そのままでも良い香りであったこと、他にはない独特な形や色から、中国で幸運や成功の象徴とされる龍のよだれが固まったものとして名付けられたと言われています。

戦いと時間の産物「アンバーグリス」が生成されるまで

マッコウクジラ(提供:PhotoAC)

アンバーグリスは、マッコウクジラが食べたものを消化するときに分泌されるワックス状の物質が腸内で固まったものです。

マッコウクジラは、イカが大好物。イカのクチバシは硬く消化がされづらいため腸内に結石が蓄積されてしまうのです。

中でも、マッコウクジラとダイオウイカの関係は海好きの中では有名で、天敵として知られています。

戦いの末に食べたダイオウイカの未消化物質が、マッコウクジラの体内で時間をかけて胆汁や消化液などと混ざりながら発酵や酸化しつつ徐々に塊となっていき、やがて体外へ排出されます。

アンバーグリスは、長いあいだ海を漂いながら変性していき、やがて人々を魅了する香りをなっていくのです。

神秘の香料をめぐるロマン

龍涎香風の御香(提供:PhotoAC)

海をさまよい、長い時を経て人の手に渡る……まるで運命に導かれた宝物のようです。

実際に、浜辺で発見されたアンバーグリスが数千万円で取引された例もあり、「海の黄金」とも呼ばれる所以がうかがえます。

現在では倫理的な観点からアンバーグリスの使用は制限され、アンバーグリスを再現した合成香料が主流となりつつあります。それでも、海が生み出す神秘の物質としての魅力が色あせることはありません。

アンバーグリスを再現した香水を身につけ、海のロマンに浸ってみてはいかがでしょうか。

(サカナトライター:百葉)

【関連記事】

おすすめの記事