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日本のギャル文化考察【1980年代前期】トップアイドルの有名曲にギャルはなぜ登場しないのか

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1983年02月01日 西城秀樹のシングル「ギャランドゥ」のリリース日

連載 日本のギャル文化考察②【1980年代前期】トップアイドルの有名曲にギャルはなぜ登場しないのか

ギャルにはいろいろなニュアンスがあった


橋本環奈が主演するNHKの連続テレビ小説『おむすび』で描かれた “ギャル文化” は、1990年代後半から2000年代初頭の主に渋谷を発信源とするカルチャーだった。しかし、“ギャル” という言葉のニュアンスは一定ではなく、時代や状況に応じて変容してきた長い歴史がある。そこで、全5回にわたるシリーズとして “ギャルと周辺文化史” を考察する。第2回は、アイドルブームと女子大生ブームが巻き起こった1980年代前半。“ギャル乱発時代” をテーマに取り上げたい。

ギャルと80年代前夜の空気


1970年代後期、日本におけるギャルという言葉のイメージは、『おむすび』で描かれたものとはまったく異なっていた。当時、ギャルはガールとほぼ同義でありながらも、よりポップで新しい言葉として使われた。さらに連載第1回日本のギャル文化考察【1970年代】沢田研二のギャルと橋本環奈のギャルは全然違った!で示したように、特に以下のようなニュアンスを含んでいた。

① 今どきの若いアメリカ女性
② 性的な視点で商品化・消費された若い女性
③ アクティブに生きる新しい時代の若い女性

これらの意味は、あくまで “なんとなく” のイメージに基づいて使い分けられていた。そして80年代に入るとギャルはメディアで乱発されることで、さらに複雑な意味合いを持つようになる。

ギャルがドリンクのCMソングに


1980年3月にリリースされた太田裕美の「南風 -SOUTH WIND-」という曲は、キリンオレンジのCMソングである。この曲のサビには「♪君は光のオレンジギャル」というフレーズが含まれている。爽やかさや清潔感が重視される清涼飲料水のCMにギャルが用いられたのだ。

シリーズ化されたCMはアメリカ西海岸風のロケーションで、サンディという女性モデルがキラキラした日常を演じた。同CMは、80年代前期にギャルが ① “今どきの若いアメリカ女性” として表現された数少ない例だ。このニュアンスで使われることは、以後ほとんどなくなっていく。

ギャルの使用に慎重だった80年代前期のアイドルソングの制作者


1980年代前期、メディアはギャルという言葉を使うことで、若い女性に付加価値を与えようとした。たとえば、1980年に放送されたTBS系ドラマ『噂の刑事トミーとマツ』の第34話は「海だ、水着だ、ギャル一杯」というサブタイトルで、若い女性を商品化して描いていた。

80年代は空前のアイドルブームが起きた時代だが、80年代前期のアイドルソングの制作者はなぜかギャルの使用に慎重だった。トップアイドルの有名曲の歌詞に “ギャル" はなかなか登場しない。数少ない例としては、人気絶頂期である1982年4月にリリースされた柏原よしえ(現:柏原芳恵)のシングル「渚のシンデレラ」がある。この曲は、彼女のボーカルと、男声コーラスの掛け合いがある。そして、男声コーラスパートに「♪ふり向いてよ サマーギャル!」という歌詞があるのだ。

示されているのは、女性主体ではなく、男性視点での消費対象としてのギャルだ。もうひとつ、マニアックな例で恐縮だが、同年6月にデビューした「キャンキャン(後にきゃんきゃん)」という女性3人アイドルグループのデビュー曲は「あなたのサマーギャル」というタイトルだったことにも触れておきたい。これは、女性が誰かの所有物のように感じさせる旧時代的な表現だ。“わたしはサマーギャル” ではない。そこには ② “性的な視点で商品化・消費された若い女性” の匂いしかしない。

薬師丸ひろ子もギャル扱いされた背景


「青空にスポーツ・ギャル変身」

これは『月刊明星』(集英社)1983年5月号で薬師丸ひろ子を取り上げた記事のタイトルである。前述のように当時の “ギャル” は ③ “アクティブに生きる新しい時代の若い女性” といったポジティブなニュアンスも含んでいた。 “スポーツ・ガール” や “スポーツ・ウーマン” ではなく “スポーツ・ギャル" と表現することで、若々しさや新しさを強調していた。薬師丸ひろ子は、およそ今日のギャルのイメージとは遠い人物だ。しかし、当時は ③ の枠でギャルとして遇されたのだ。

2024年にNetflixで配信されたドラマ『極悪女王』にも登場するクラッシュギャルズは、1983年に結成された女子プロレスのタッグチームである。長与千種とライオネス飛鳥の2人は、男子プロレスのテイストを取り入れながら、女子プロレスに革命を起こし、空前のブームを巻き起こした。2人は間違いなく “アクティブに生きる新しい時代の若い女性” だといえる。1984年頃、70年代よりギャルを多用していた『週刊セブンティーン』の見出しに躍る “ギャル” の文字は、ほぼクラッシュギャルズの記事だった。

女子大生ブームとギャルのねじれた関係


1980年代前期、ギャル文化史における極めて重要な出来事として “女子大生ブーム" が挙げられる。1981年にベストセラーとなる田中康夫の小説『なんとなくクリスタル』の影響もあり、主に都会の大学に通う女性たちが、時代を象徴する消費のリーダーとしてもてはやされたのだ。このブームは、文化放送のラジオ番組『ミスDJリクエストパレード』、フジテレビの深夜番組 『オールナイトフジ』、さらには雑誌『JJ』(光文社)や『CanCam』(小学館)などのメディアの扇動もあり熱を帯びていった。

一方で、一般メディア、男性向けメディアもこのブームに便乗し女子大生をとして取り上げる例が目立ち、そこにギャルという言葉を付随させた。『週刊大衆』(双葉社)では1981年から「キャンパスギャルのセクシートーク」なる連載企画が始まっている。ここには、② と ③ の相互乗り入れがある。当時の典型的な女子大生たちは新しい時代のアクティブな女性たちであることが多かったが、同時に性的に商品化される対象になっていたのである。

そして、テニス、スキー、ビーチ、リゾート、ディスコ、ブランド、コンパといったワードで連結したステレオタイプな女子大生像が独り歩きし、結果的にギャルは “奔放に遊ぶ若い女性” という第4のニュアンスを帯びることになる。『なんとなくクリスタル』の主人公の女子大生は、同棲する恋人がいるものの、ディスコで知り合った男とも親密になる。

念のため補足しておくと、ここでいう典型的なギャルは “ニュートラ” や “ニューベーシック” といったトラディショナルなファッションスタイルを好むことが多かった。また、横浜を発祥とする “ハマトラ" も流行しており、テニスウェアやスキーウェア、水着といったアイテムも重視する傾向が見られた。ボディコンが流行るのはもっと後だ。

西城秀樹「ギャランドゥ」の意味


『オールナイトフジ』の放送開始直前、1983年2月にリリースされた西城秀樹のシングル「ギャランドゥ」は、のちに違った意味で使われるようになるが、当初はソングライターであるもんたよしのりが考えた特に意味のない造語だった。しかし、この言葉が注目を集めるにつれ “gal undo" という語源が後付けされ “ギャルではない女性” といった解釈が与えられるようになった。すでにギャルという言葉が否定の対象になっているのである。

興味深いのは、当時の女子大生たち自身がギャルと名乗ることに積極的ではなかった点である。もちろん、② のニュアンスで取り上げたメディアに引っ張られ “横浜出身、ユーミンが大好きなテニスギャルです!” といった自己紹介をする若い女性もいただろう。しかし、ギャルを自称することが主流だったわけではない。

例えば、80年代前期の『オールナイトフジ』に関連したレコードや書籍などのコンテンツを見ても、ギャルというフレーズはほとんど見当たらない。当時の『JJ』や『CanCam』の表紙にも、“ギャル” の文字は見られない。この背景には、ギャルより女子大生の方がブランド価値は高いと考えられたこともあるだろうが、“奔放に遊ぶ若い女性” という第4のニュアンスが生まれたことも無関係ではなく、あえて名乗るものでもなくなっていたのではないだろうか。アイドルソングにギャルが登場しないのも、そことつながっているのかもしれない。

「GALS LIFE」の方向転換とギャルのヒール化


70年代からギャルという言葉を看板に掲げていた雑誌『GALS LIFE』(主婦の友社)は、創刊当初はアメリカ西海岸のギャルカルチャーを紹介していた。しかし、1981年頃から大きく編集方針を転換する。当時、ファッションやライフスタイルの面で “ツッパリ” がひとつのトレンドとして注目されるようになっていた。『GALS LIFE』はこれに着目し、“ツッパリ文化” にアプローチしつつ、さらに恋愛やセックスへの興味を煽る内容へ変貌するのだ。

新たな方向性の中で取り上げられた芸能人は、田原俊彦、近藤真彦、松田聖子ではない。舘ひろし、ブラック・キャッツ、シャネルズ、本田恭章、嶋大輔、紅麗威甦…。デビュー当時のBOØWY(当時は暴威)も出ていた。あくまで『GALS LIFE』内に限定されていたが、ここに5番目のニュアンス “性に積極的な不良性感度の高い女性” が発生するのだった。一方、1984年3月からテレビ朝日系で放送されたメタルヒーローシリーズ『宇宙刑事シャイダー』には、悪の組織 “不思議界フーマ” に属する女戦士5人組、その名も “ギャル軍団" が登場する。ついにギャルはヒール化したのである。

こうして、70年代にあった清新なイメージから遠ざかり、ギャルは次第に商品化・消費の対象として定着していった。80年代後半のバブル期には、この消費性がさらに強調され、新たなニュアンスが加わっていく。次回は、そんな時代のギャル文化を深堀りしていきたい。

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