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第10回『東宝映画スタア☆パレード』 団 令子&浜 美枝 大胆な全裸シーンに挑んだクレージー映画の二大ヒロイン

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第10回『東宝映画スタア☆パレード』 団 令子&浜 美枝 大胆な全裸シーンに挑んだクレージー映画の二大ヒロイン

今でもスタジオ入口に『七人の侍』と『ゴジラ』の壁画を掲げる東宝。〝明るく楽しいみんなの東宝〟を標榜し、都会的で洗練されたカラーを持つこの映画会社は、プロデューサー・システムによる映画作りを行っていた。スター・システムを採る他社は多くの人気俳優を抱えていたが、東宝にもそれに劣らぬ、個性豊かな役者たちが揃っていた。これにより東宝は、サラリーマン喜劇、文芸作品から時代劇、アクション、戦争もの、怪獣・特撮もの、青春映画に至る様々なジャンルに対応できたのだ。本連載では新たな視点から、東宝のスクリーンを彩ったスタアたちの魅力に迫る。

 
 十年の長きに亘り東宝のスクリーンを賑わせた、いわゆる〝クレージー映画〟。植木等が「無責任男」を演じた二部作と、そこから派生した「日本一(の男)」シリーズ、それにクレージーキャッツ全員が活躍する「作戦」シリーズと時代劇シリーズがあり、計三十本も作られた。
 この人気シリーズの多くで植木の相手役を務めたのが、団令子と浜美枝の二人である。現役時代、共に撮影所のある成城に住まった。

 
 団は〝お姐ちゃんシリーズ〟(※1)の流れで出演した『ニッポン無責任時代』(62)をはじめとして、『ニッポン無責任野郎』(62)から『大冒険』(65)までの初期作品で植木と堂々と渡り合う職業婦人などに扮し、大いに存在感を発揮する。
 一方の浜美枝は、『日本一の色男』(63)からクレージー映画の常連となり、その半数の十四作で植木の相手役=マドンナを務めた。ただ、『クレージー黄金作戦』(67)では最後に植木を手玉に取る(裏切る)役回りだったことから、筆者ら植木ファンの少年たちからは大きなヒートを買った。

▲クレージー映画のヒロインと言えば団令子(左)と浜美枝(右) イラスト:Produce any Colour TaIZ/岡本和泉

 団令子の本名は「森令子」。元々モデルをしていたが、筧正典監督『大安吉日』(57)の撮影を見物しているところをスカウトされ、彼女を気に入った東宝プロデューサーの藤本眞澄により、團伊玖磨にちなんで命名された。東宝にはすでに「森岩雄」がいたから、というのが〈改名〉の理由で、〝アンパンのへそ〟なる渾名(『大学の若大将』では劇中、雄一や青大将からそう言われる)をつけたのも藤本だという(※2)。いかに丸顔=タヌキ顔とは言え、それはないでショ!

 デビュー作は鈴木英夫監督の『目白三平物語 うちの女房』(57年3月公開)とされる団。しかし筆者は、その前年の斎藤寅次郎監督によるミュージカル喜劇『恋すれど恋すれど物語』(56年8月公開)に、端役ながら団が二つの役で出演しているのを発見。‶仕出し〟とはいえかなり目立っているので、元からスター性はあったのだろう。

▲(左)「お姐ちゃんに任しとキ」レコード(60/コロムビア)提供:鈴木啓之氏、 (右)『ニッポン無責任野郎』(「東宝映画」63年2月号/寺島映画資料文庫所蔵)の団

 
 浜美枝はよく知られるように、元々は東急のバスガイドをしていた職業婦人。本名を浜田三枝子という。東宝作品のコンテストに応募したところを(落選したものの)スカウトされ、59年に東宝入社。星由里子、田村奈巳と三人で〝東宝スリーペット〟なる、いささか微妙なトリオ名(※3)をつけられるも、いくつかの人気シリーズで能動的な現代女性を溌剌と演じ、遂に『キングコング対ゴジラ』(62)で怪獣少年たちのミューズとなる。ゴジラとコングの両方から襲われる役など、会社の期待の表れ以外の何物でもない。

 団を引き継ぐかのように、植木のC調さと互角に渡り合う活発な女性を演じ続けた浜は、やがて世界のボンド・ガールに抜擢。ショーン・コネリーの相手役を演じることになったのは、その抜群のスタイルがものを言ったからに違いない。

▲「東宝映画」60年3月号と61年10月号の浜(寺島映画資料文庫所蔵)

 そして、このクレージー映画の両ヒロインが共に、「明るく正しい」健全な東宝映画にあっては極めて珍しい、大胆かつ激しいヌード・シーンに挑戦しているのは、いったいどうしたわけか。

 団は問題作扱いされた恩地日出夫監督の『女体』(64)で、浜は〝若大将〟でお馴染みの岩内克己監督による野心作『砂の香り』(68)で、示し合わせたかのように全裸を披露。こうした東宝女優はお二人以外にはおられないので、奇縁を感じてしまう(※4)。

▲艶めかしい肢体が見られる団のレコード『ひとりぼっちが怖いの』(63/朝日ソノプレス)提供:鈴木啓之氏

 恩地監督の前作『素晴らしき悪女』(63)ですでにセミヌードを披露していた団は、この作品で恩地と「男女の仲でありながら、それだけでない特別な関係」(『砧撮影所と僕の青春』文藝春秋)になる。また団は、本作の脚本家・白坂与志夫と行動を共にする姿を成城の住民にしばしば目撃されており、恋多き女性であったことが窺える(※5)。
 自身にとって最後の植木等のマドンナ役(※6)となった『大冒険』でも、団は子供心にもやたら色っぽく映ったが、このドキドキ感は『血と砂』(65/監督:岡本喜八)の慰安婦役で全開となる。少年軍楽隊員の〈筆おろし〉を請け合うお春さんに扮した団の行水シーンは、小学生ながら息を飲んで眺めたものである。

 のちにテレビでモーニング・ショーの仕事をすることになるだけあって、そうしたゴシップとは無縁だった浜。しかしながら、『007は二度死ぬ』(67)出演の際、そのヌード・ショットが英国の雑誌に掲載され、日本でも大騒ぎになったそうだから、その下地はあったのだろう。『砂の香り』における全裸ショットは、今見ても息を飲む美しさだ。

▲『砂の香り』パンフレット(寺島映画資料文庫所蔵)と、主題歌レコード(クラウン)提供:鈴木啓之氏

 実は英語が苦手で、共に出演オファーを受けた若林映子のほうがコネリーの相手役に回されそうになった逸話もよく知られるところ。撮影中に健康を害した際、海に潜るシーンで浜の代役を務めたのが、コネリーの妻ダイアン・シレントだったことはあまり知られていない(※7)。ジャン=リュック・ゴダール監督が『恋人のいる時間』(64)で浜を使いたがったのは、『キングコング対ゴジラ』を見てのことだろうか。

 クレージー映画には他にも、淡路恵子と野川由美子が五作、中尾ミエも四作に出演したが、植木の相手役=マドンナ的な役回りではなかった。司葉子が『日本一のヤクザ男』(70)に登場した頃には、すでに植木と古澤憲吾監督のパワーはダウン気味。内藤洋子と酒井和歌子がヒロインとして登場したときには、嬉しいような、違和感があるような、複雑な気分だったことを思い出す。

 
 最後に、団と浜が植木等への思いを述べたコメントを紹介して、本稿を締めたい。
 団令子は『ジ・オフィシャル・クレージーキャッツ・グラフィティ』(トレヴィル)のインタビューで、次のように語っている。
「植木さんは、映画のようなことをなさる方ではなかったです。でも、『エイ、やっちゃえ』てな調子で演技していましたけどね。現場で素顔とのギャップに悩んでいるようなことはなかったです。音楽の方って、すぐノルでしょ。私たちも一緒にノセられて楽しかったですよ」。

 浜美枝はJR東日本の新幹線車内誌「トランヴェール」の対談で、植木をこう分析する。
「植木さんご自身はすごくまじめな方でいらして、セットでの待ち時間にも、片隅でじっと物静かになさっていましたでしょ。およそ、ご自身と正反対、というより、この世に存在しないような人物を演じていたわけですよね。もし自分の中にちょっとでも共通点のある方だったら、悩んでしまって、中途半端になってしまったんじゃないでしょうか」。

 これらの発言からは、両女優が植木等のことを実に的確に理解しており、植木が無責任男やC調男を嫌々演じていたわけではなかった事実がよく伝わってくる。植木にとって、この両女優がかけがえのない存在であったことは間違いない。

※1中島そのみ、重山規子と三人で出演した当シリーズは8本ほどつくられた。
※2 ‶若大将〟なる呼称も、藤本が若かりし日の黒岩重吾のニックネームからいただいたものだという。
※3 今なら問題視されそうなこのネーミング、命名は夏木陽介による。
※4 星由里子も『千曲川絶唱』や『颱風とざくろ』でセミヌードを披露しているが、これほど激しいものではなかった。
※5 白坂は自著で、シナリオライターとなった大学三年の頃「三つ年上のスター女優」に夢中になり、「目的を達した」と暴露している。
※6 次作『無責任清水港』(66)ではハナ肇=次郎長の女房役を演じた。
※7 浜はロンドンのクラブで踊っているとき三船敏郎と鉢合わせし、「日本人の女だろ!」なる言葉で、外国映画に出る際の心構えを諭されたという。

高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。

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