23歳に本気の恋。40代男性が味わった“地獄と再生”の日々「妻とは離婚寸前だったのに」
【不倫ドキュメント・ファイル~なぜ禁断の恋をするのか?】
世の中が不倫の話題で持ちきりだ。2024年に実施された調査によると、既婚男性の約2人に1人、既婚女性の約3人に1人が婚外恋愛経験者だという。SNSやマッチングアプリが普及し、不倫のハードルは下がる一方。しかし、その裏にある人間の欲望と自己演出には注意が必要だ。
ワイドショーの定番、それは芸能人の不倫騒動。謝罪会見に活動休止──愛に溺れた代償はあまりにも重い。
世間が「不倫=絶対悪」と決めつけるなかで、それでも、人はなぜその扉を開けてしまうのか。禁じられた恋に身を投じる不倫の背景をCA、モデル、六本木のクラブママの経歴を持ち、数々の人間模様を見てきた筆者が読み解いていきたい。
離婚成立直前になぜ? 愛人と別れた男の悲しみ
人間は、欲しいものが手に入りそうになった時、なぜ逃げたくなるのだろうか――。
たとえそれが、愛人から正妻への「昇格」だったとしても。
今回取材に応じてくれたのは、渋谷区でたい焼き店を営む和彦さん(44歳/既婚・子供あり)。彼はすべてを捨てる覚悟で若い女性との再婚を決意した。しかし、離婚成立の直前、愛人からまさかの別れを告げられ、どん底に突き落とされた。
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四十路の育児と仕事の両立に夫婦とも悲鳴
和彦さんは41歳のときに父親になった。実父の死後、家業のたい焼き店を一人で立て直す中で、40歳で見合い結婚。妻は当時36歳で高齢出産となった。
「息子が生まれた時は、本当に嬉しかったです。抱きあげると、小さくて温かくて…まさに宝だと思いましたね。育児は妻と協力しましたが、朝から晩まで働いて夜はくたくた。でも、幸せでしたよ」
和彦さんにとって「家族」とは、幼い頃に事故で亡くなった母親の不在を埋める存在でもあった。
だが、現実は厳しかった。
四十路の育児は体力的にきつく、寝不足の日が続いた。妻とも完全にレスになり、会話も最低限。横浜に住む妻の実妹が手伝いに来てくれたこともあり、和彦さんは仕事に集中。東横線沿いにある自宅マンションには帰らず、店の2階で寝泊まりする日が増えた。
DV彼氏に悩む23歳アルバイト女性と男女の仲に
そんな時、アルバイト募集で来たのが、当時23歳の優佳さんだ。
「優佳は笑顔が愛らしい素朴な感じの子。疲れ切っていた僕には、まるでオアシスのようでした。実家は山梨のブドウ農家だそうです」
彼女には同棲中の彼氏がいたが、DV気質で口論が絶えないという。
二の腕には、アザが癒えきらずに残っていた。
「僕は『そんな男とは別れたほうがいい』と何度も言いました。でも彼女は、『別れを切りだすと、もっとひどい目に遭う』と怯えていて…。ある夜、『帰りたくない』という彼女を、店の2階に泊めたんです」
そこで、ふたりは男女の関係になった。
「彼女が『こんなに優しくされたのは初めて』と泣いた時、僕は男としての自分を取り戻しました。隣に女として甘えてくれる人がいる…それだけで、満たされた気がしたんです」
妻からの衝撃的一言…ますます愛人に惹かれていって
季節は流れ、息子は3歳になった。
妻は育児の合間に在宅ワークを始め、息子も目黒区の保育園に通うように。表面上は穏やかに見えた家庭生活の裏で、和彦さんの心はますます優佳さんへと傾いていく。
その頃には、優佳さんも暴力的な彼氏ときっぱり決別し、和彦さんの店で正社員として働くようになっていた。店もかつての活気を取り戻し、ふたりは公私ともに深く関わるようになっていく。
「お互いに、心のすき間を埋め合っていたんだと思います。息子は完全にママっ子で、僕にはなかなか懐いてくれなかった。妻も育児やママ友づきあい、そして在宅の仕事に追われていて、僕の存在はどんどん薄れていった。だからこそ、優佳の存在が心の救いになっていたんです」
和彦さんはそう目を細めるが、ある日、園のお迎えから帰ってきた妻が、沈んだ顔で告げてきた。
「園で、息子が『お前のパパ、おじいちゃんみたいだ』って言われたそうで…それで『パパ、もうお迎えには来ないで』って、僕をにらんだんです。さすがに堪えましたね。周りのパパたちは20代~30代で、服装も今どき。僕は腹も出てるし、完全に浮いていたんでしょう」
傷ついた心は、いっそう優佳さんに引きよせられていった。
愛人の告白、そして離婚へ動き出すも…
そしてある日、優佳さんはこう言ってきたのだ。
――社長と結婚したい。
――子どもはいらない。ふたりでこの店を守っていきたい。
和彦さんは震える心を抑え、問い返した。
――もし離婚できたら、本当に結婚してくれる?
――ええ、もちろん。
妻とは数カ月にわたって話し合い、慰謝料や養育費の取り決めも終えた。優佳さんの存在を明かすと、最初こそ激高した妻も、やがて疲れた表情でこうつぶやいた。
――息子との生活がちゃんと守られるなら…もう、あなたのことは追わないわ。
あとは、来週、離婚届を区役所に出すだけだった。
突然の別れ
だが、区役所に行く前夜、優佳さんは突然別れを切りだしたのだ。
――社長、ごめんなさい。やっぱり離婚はやめてください。
和彦さんは、何かの冗談だと思った。
「でも、彼女は真剣でした。問い詰めると、静かにこう言ったんです。
――申し訳ありません。彼がやり直そうと言ってくれて…私、彼の元に戻ります。社長もご家庭に帰ってください。お店も今日で辞めます」
和彦さんは、優佳さんに何度も考え直すよう説得したが、彼女は首を縦に振らなかった。
それどころか、今月分の給料すら受け取らず、荷物をまとめて出て行った。
「自分の人生が、突然切り取られたような感覚でした。信じていた未来が、音を立てて崩れ落ちていったんです」
絶望のまま、山手線のホームへ…
そして、気づけば渋谷駅の山手線ホームに立っていた。
「どうやって歩いてきたのか覚えていません。ただ、自分にふさわしい最期の場所だと思いました。ホームの端で、電車が轟音を立てて通過するたびに、『次こそ飛びこむ』と決意したんです」
いよいよ飛びこもうと足を踏んばった瞬間、ポケットのスマホが震えた。
反射的に「優佳か?」と、取りだしたスマホをタップすると、
――和彦、元気か?今度のクラス会の話なんだけど、今話せる?
大学時代の男友達からだった。無邪気な声にハッと我に返る。
(俺…今、自ら命を絶とうとしていたんだ)
その場でへなへなとホームに崩れ落ちた。
土下座謝罪を受けれた妻に感謝
翌日、和彦さんは妻に土下座して謝った。
「妻は涙ぐみながら『戻ってくるなら、いつでも受け入れるつもりだったわ』と許してくれました。母親って強いですね」
その後、和彦さんは心機一転、自分磨きを始めた。
ジムに通ってダイエットし、イメージコンサルタントのアドバイスを受けて、ファッションや髪型を変えたのだ。成果はみるみる表れた。
「2か月で10キロのダイエットに成功し、今もジョギングと筋トレを欠かしません。
息子も「パパ、カッコいい!」と大喜びし、ようやく笑顔を向けるようになったんです」
今の幸せは神様がくれた2度目のチャンス
いま、和彦さんは家族と平穏な日々を送っている。
だが、一人になると、ふと優佳さんの顔が浮かぶことがあるという。
「なぜ、離婚届を出す直前に、彼女は去ったのか。それだけが今もわからないんです」
人は「もうすぐ手に入る」と実感した時、不思議とその現実から身を引きたくなることがある――心理学でも、そんな傾向が知られている。
不倫中は「結婚したい」と強く願っていても、いざ現実が近づくと、責任の重さに圧倒されて逃げたくなる――それは、恋という名の幻想が壊れるタイミングなのかもしれない。
優佳さんの中で「心のよりどころ」であった和彦さんが、「現実の夫」になろうとした瞬間、彼女の幻想は崩れ、元彼へと走らせたのだろうか。
和彦さんは語る。
「今の幸せは、神様がくれた2度目のチャンスだと思っています。あのとき電話をくれた友人は、命の恩人です」
愛されたいという欲望は、時に人を破滅へと導く。
だが、手を差し伸べてくれる人がいたなら、人は何度でも立ち上がれるのかもしれない。
(蒼井凜花/作家・コラムニスト)