親族によって「弱者男性」に引きずり下ろされたエリート男性。彼を苦しめる「憎しみ」よりも強いもの
「弱者男性」という言葉を知っていますか? いまや日本人の8人に1人が該当するというこの言葉は、インターネットの世界から生まれた「独身・貧困・障害」などの「弱者になる要素」を備えた男性のことを指します。 弱者男性は偏見にさらされることが多いうえに、弱者男性から抜け出すことも困難と言われています。弱者男性を取り巻く環境の「リアル」とはどのようなものなのか? ライター・経営者のトイアンナ氏の著作『弱者男性1500万人時代』から、その実態を見ていきましょう。
※本記事はトイアンナ著の書籍『弱者男性1500万人時代』(扶桑社)から一部抜粋・編集しました。
※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)
一見エリートでも、家族起因で弱者側に追い込まれる男性......関口さん(仮名)・IT企業勤務
弱者男性はなぜ生まれるのか。その起源を調べていくと、常に見え隠れするのは「親の問題」だ。たとえば、取材に応じてくれた関口さん(仮名)は、親族によって弱者へ引きずり下ろされる人生を歩んでいた。
「有名国立大学を出て、外資系企業で働きました。それからさらに転職し、今はIT企業でファイナンスを担当しています」
カチッとしたシャツに、メタルフレームのメガネが光る。その姿にふさわしい、キラキラのエリート街道。しかし、その経歴には陰の一面がある。関口さんの叔母にあたる人物が、祖父母の資産をすべて引っ張り借金までさせて男に貢いだ末に、男の無理心中に巻き込まれて殺害されたのだ。周りに隠して娘に大金を流した祖母と、亭主関白で家のことなど何も知らない祖父。姉である関口さんの母がそれを知ったときには、すべてが終わっていた。
「だいたい15歳ごろですね、自分の家の状況を把握したのは。家の借金を返済することになるんだろうなと、ぼんやり思っていました」
関口さんの初年俸は約500万円。平均を大きく上回る額だが、その大半が借金の返済に消えた。
憎しみよりも「家族愛」が弱者男性を苦しめる
「さらに祖父母に病気が続きました。がんになったり認知症になったり、最終的には葬儀代も僕が負担しました。借金だけなら終わりが見えるんですが、医療費や介護費は何年続いていくらかかるか、先が見えない。給料では払いきれず、金融機関や友人に何件も借金をしました。それがきっかけで友達から絶縁されたこともありますね」
関口さんは累積で800万円以上の借金を肩代わりしている。手取りの半分以上は借金返済に充てられた。そうした状況で一人暮らしをするわけにもいかず、介護士として働く母親との実家暮らしが続いた。
同期は早々に結婚し、ローンを組んでタワマンや高級住宅地で新生活を営む。かたや、借金返済に追われ、結婚や子どもなど考えられない日々。周りを羨んだことはないか、という問いに対しては、「高級住宅街を見ると、これ全部燃やしたら楽しいだろうな、と思ったことがある」と述懐する。
母親を捨てて、自分だけ幸せになる道はなかったのかと問いかけたところ「母は家の問題やお金に弱い面もありますが、ひとり親で苦労して自分を育てたので。今でも恨んではいないです」という。
弱者男性は家族への恨みというよりも「愛」に縛られているケースが多い。「こんな一面さえなければいい人なのに」と言いたくなるような親族がいることは珍しくないだろう。その絶縁するほどでもない関係性が、家族を道連れにしてしまう。
それでも希望はあった。関口さんの内面を見てくれる女性が、いないわけではなかった。いっとき、関口さんは結婚を見据えて女性とお付き合いしていた。ところが、結婚の話と
なると......。
「相手の親御さんがうんと言わなくて。当然だと思います。せっかく頑張って育てた娘に、金銭的苦労をしてほしいと思うわけがない」
それでも、終わりはある。30代後半になり、関口さんの借金は残りわずかとなった。ところが、無理がたたったのか、胃がんが見つかった。ステージ3だった。取材した当時、関口さんは胃の大半を切除する大がかりな手術を終えたばかりだった。