産学連携で生まれる学生デザイナーたちの新たな挑戦|トヨタヴェルブリッツ『雷神祭』法被デザインの裏側に迫る
スポーツチームと教育機関が協力し、新たな価値を生み出す産学連携。本プロジェクトでは、名古屋デザイナー・アカデミーの学生たちがラグビー リーグワン所属のトヨタヴェルブリッツと連携し、2025年3月15日(土)に開催される試合で来場者に配られる“法被(はっぴ)”のデザインに挑戦しました。昨年に続き2度目となったこの産学連携企画は、学生たちにとってどのような価値を持つのでしょうか?
デザインの専門知識を持ちながらも、ラグビーやチームについて深く知らなかった学生が、プロジェクトを通じてその魅力を発見し、表現の可能性を広げていく。その試行錯誤と成長の過程を追いました。
(サムネイル:トヨタヴェルブリッツ 淺岡 俊亮選手)
名古屋デザイナー・アカデミー(左から)米田朱里さん、佐々木杏玲さん、鈴木香子さん
最終選考に残った5人のそれぞれの法被デザインへのこだわり
「これまでポスターなど、平面的なデザインが多かった中で、法被という立体的なデザインは新鮮でおもしろそうだった」というコメントもあったように、“雷神祭”・“法被のデザイン”など、学生にとっても新たなチャレンジにもなりました。
ラグビーのことも「五郎丸選手をきっかけに知った」「ラグビーワールドカップでテレビで観たハカが印象に残っている」など、知っていはいるものの深く興味があったわけではなかった学生たち。しかし、デザインを制作していく過程で、ラグビーというスポーツの“熱さ”や会場の雰囲気などを知り、それぞれの想いがデザインに反映されていきました。
最終選考に残ったデザインそれぞれについて、デザイン考案のコンセプトやこだわり、苦労したことを伺います。
子どもたちが多い会場だからこそ、「雷神になれるデザイン」を考案|佐々木杏玲さん
過去のイベント写真から“親子で来る人が多い”と想像した佐々木さん。「ヒーローになりきる服って子どもたちは好きだな」と考え、今回の“雷神になれる法被”をデザインしました。
雷神の羽衣のデザインや、背中には“雷鼓”を背負うことで、「雷神になってる!」ということがひと目でわかるように工夫しました。
ヴェルブリッツと豊田市のつながりをポップに表現|米田朱里さん、鈴木香子さん
昨年採用されたデザインが“和”の要素が強いと感じた米田さんと鈴木さんのペア。昨年とは違い、“ポップ”に雷神祭を表現しようと考えました。
加えて、豊田スタジアムという会場でこのデザインを見たときに、「あれ、これ豊田市の建物?」と気づいてくれたらと思い、街の風景をデザインに取り込み、地域のことも大事にしているトヨタヴェルブリッツと豊田市との繋がりも表現しています。
雷神祭を活かして“和”を活かしたデザインに|本間太一さん
『雷神祭』というイベントを活かし、羽衣や雷鼓などから特徴的な部分を入れて表現した本間さん。色づかいも、ベースとなるチームカラーの緑以外にも、補色となる紫を入れて波をイメージしたり、背中の“祭”に見える文字は、カタカナでラグビーという文字を使って表現しているところなど、さまざまなこだわりが詰まったデザインです。
昨年の経験を活かし、今年の雷神祭が思い出に残るものになるように|石川紗英さん
最終選考に残った中で唯一の2年生であり、昨年も最終選考まで残っていた石川さん。「採用には至らなかったのですが、ヴェルブリッツの方やいろいろな方からデザインを褒めていただいた」という昨年の自身のデザインを踏襲しつつ、より一層法被らしくしようとデザインしました。
疾走感を表現するラグビーボールと稲妻、白地があることで選手のサインももらいやすくする工夫、今シーズンの全選手の名前が入った特別感など、石川さんの想いの詰まったデザインになっています。
「雷神になれる法被」に決定!当日は“雷神”になって力強い応援を!
SNSによるファン投票の結果、佐々木さんデザインの「雷神になれる法被」が今回の来場者プレゼントに決定しました。
ーー選ばれたときの気持ちはいかがでしたか?
佐々木)選ばれたときは純粋に嬉しかったです。自分のデザインが実現するという嬉しさもありますが、法被の実物を見てすごくきれいに出ていてひと安心したというのも正直なところです。自分がデザイン段階で想像していた以上に雷神になれそうですね(笑)
ーー当日はたくさんのファンが、“雷神になって”試合を観戦します。どのように雷神祭を楽しんでほしいですか?
佐々木)雷神って、とても強いイメージがありますよね。そんな強い雷神になりきって、選手たちにも力強い声援を送ってもらえたら嬉しいです!
米田さん、鈴木さんのデザインは『オリジナル御朱印帳』としてグッズ販売が決定!
これからに活きる産学連携プロジェクトに
最終選考まで残ったみなさんに、今回のプロジェクトでの学びとこれからの展望について伺いました。
ーー今回で得た経験と、今後の目標を教えてください。
本間)今回、採用には至りませんでしたが最終選考まで進めたのはすごく自信になりました。僕自身、手描きでデザインをすることが好きで、今回は手描きをデータに取り込んでデザインに起こすという作業を初めてやってみたのですが、自分でも思っていた以上にコンセプトとマッチして表現ができたのではないかと思います。今後も自分にしか見せられない表現や強みをどんどん使っていきたいと思えるきっかけになりました。
石川)今回のデザインでは、ヴェルブリッツさんの意見やまわりのクラスの子の意見、先生からのアドバイスなど、さまざまな人の力を借りていいデザインができました。4月からはデザイナーとして働くことになるので、またいつか仕事としてラグビーに携わったときに、ファンの皆さんを喜ばせることができるようなデザインを作りたいですし、1つの目標になりました。
米田)企業さんとの案件ということで、自分が好きなデザインをするだけでなく、ヴェルブリッツの方や選手、ファンの方などの要望や気持ちを考えてデザインに落とし込むことが大切だと感じました。鈴木さんと2人でデザインしましたが、話し合いながらできたことでよりよいデザインになったと思います。これからも、“相手のことを考えた”デザインを作っていけたらいいなと思います。
鈴木)私はラグビーというスポーツのことを知れたことが大きな経験になったと思います。このプロジェクトがなければもしかしたら興味を向けなかったかもしれないですが、自分にとって新しいことに触れてとても楽しかったですし、企業ロゴのガイドラインなど、デザイナーとして実践的な学びになることが多くありました。今回の経験を活かしてもっといろいろなことにチャレンジしていきたいですし、この経験でチャレンジすることへのハードルも下がったなと思っています。
佐々木)以前に一度、産学連携で企業さんにデザインを採用していただいたことがありましたが、今回のプロジェクトでは、クライアントさんに加えてユーザーからの投票があり、そこで選んでいただけたことはまた違った自信になります。
ポスターなどの“見せる”ものではなく、ユーザーが“使う”ものをデザインすることをより強く意識してデザインできたことは自分にとっても大きな学びです。スポーツは私にとっては少し遠いものだと感じていましたが、そういう分野でもどんどんいろいろなデザインにチャレンジしていきたいです!
ーーありがとうございました!