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じゅうじゅう、潮風、磯のごちそう。波戸岬「サザエのつぼ焼き売店」で出会った、サザエとお母さんのやさしい味(佐賀・唐津市)【まち歩き】

福岡・九州ジモタイムズWish

波戸岬の入口に差しかかると、屋台のような長屋が連なる一角が現れる。玄界灘からの潮風が心地よく、磯の香ばしいにおいがふわっと鼻をくすぐった。そこに並ぶのが、名物「サザエのつぼ焼き売店」。屋台風の数軒がずらりと並び、それぞれに炭火の焼き台を備えた、地元ならではの名物スポットだ。

そのうちの一軒で、やさしい笑顔の女性が案内してくれた。二代目としてこの屋台を切り盛りする山下正子さん。昔ながらのエプロン姿で、年季の入った炭火台の前に立つその姿は、まさに“波戸岬のお母さん”そのものだった。

席に腰を下ろすと、目の前の焼き台にはすでに赤くおこった炭。注文を伝えると、正子さんが手際よく準備を始めてくれる。焼き網の上で海の幸が静かに動き出す。海風と炭火と湯気のハーモニー。五感がじわじわと満たされていく。

まず運ばれてきたのは、波戸岬名物「サザエのつぼ焼き」(800円)。出汁がぐつぐつと煮立ち、香ばしい湯気がふわりと立ち上る。
実はこのサザエ、注文を受けてから焼き始めるのではない。事前に炭火でじっくり焼いておき、提供前に再度温めるというスタイルなのだ。この工程によって、サザエの身に醤油の風味がしっかり染み込んでいる。口に入れた瞬間、ぷりっとした歯ごたえとともに、旨みと香ばしさがじゅわっと広がる。
ただ炭火で焼くだけじゃない。焼き置きという工夫のなかに、時間と経験が詰まっている。手間も技も、そして優しさも、ちゃんと味になっていた。

続いて出てきたのは「あわび焼き(タレ焼き・塩焼き)」(800円〜※あわびは大きさでお値段が異なります)。表面は香ばしく、中の身は信じられないほどやわらかい。噛んだ瞬間、高級料亭で出てくるような、繊細でしっとりとした食感が舌の上に広がった。
その理由を尋ねると、正子さんが「沸騰したお湯の中にいれて、出汁がおちない程度に軽くゆがくとよ」と笑顔で教えてくれた。炭火で仕上げる前にさっと湯がくことで、アワビの繊維がほぐれ、タレがじんわりと染み込んでいく。素朴な屋台の風景のなかで、こんな上質な食感に出会えるとは思わなかった。
ちなみに、塩焼きも選べる。タレの甘辛さも良いが、塩焼きはアワビ本来の香りや旨みがふわりと立ちのぼるようで、こちらも人気が高いという。
気取らないけれど、確かに丁寧。その一口に、手間と誇りが感じられた。

「イカ焼き」(600円)も、炭火の上で静かに焼かれていく。タレか塩を選べて、お好みでマヨネーズや一味をちょい足しするのも楽しい。しっかり焼き目がついた身は香ばしく、かむたびに甘みがじゅわっと広がる。どこか懐かしい味がした。

焼き台の向こうで手を動かすのは、二代目の正子さん。ふと顔を上げたとき、その肌のツヤに思わず目を奪われた。「サザエ、よう食べるけんね〜。タウリン効果かもよ?」と、照れ笑いまじりに冗談めかして教えてくれた。
サザエにはタウリンが豊富で、疲労回復や美肌にも良いとされているという。香ばしい磯の香りとともに、その笑顔がふんわりと記憶に残った。
この店は、もともと正子さんのご主人のお母さんが始めた屋台。それを受け継ぎ、今も家族で力を合わせながら暖簾を守り続けている。

屋台のすぐ裏手には海水浴場が広がっていて、夏場になると家族連れや観光客でにぎわうそうだ。取材中、「風が気持ちいいよ」と山下さんがそっと窓を開けてくれた。その先に見えたのは、まばゆいほどの青い海。炭火の香りとともに、潮の香りがふわっと流れ込んできた。
この屋台には、日常と非日常の境目がゆるやかに溶け合っている。焼ける音、笑い声、そして絶景。どれもが、この場所を特別にしている。

じゅうじゅうという音のそばに、あたたかい人がいる。

観光地として人気の波戸岬。
でも、ここの魅力は景色だけじゃない。炭火のにおいと笑顔が迎えてくれるこの屋台こそが、何よりの名所なのだと思う。

ふらっと立ち寄っただけなのに、
お腹も心も、こんなにあったかくなるなんて。
波戸岬に来たら、まずはあの焼き台の湯気を目印に、
お母さんたちの笑顔に会いに行ってみてください。

■『サザエのつぼ焼き売店』
住所: 佐賀県唐津市鎮西町波戸1616-1
TEL:0955-82-4774 
営業時間:9:00~17:00
定休日:元日
駐車場:あり

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