東京まで「ひかり」で2時間、東海道新幹線「岐阜羽島駅」を訪れてみた【コラム】
東海道新幹線の「岐阜羽島駅」をご存知でしょうか。岐阜県羽島市の西部に位置しており、JRの東海道本線から離れ、名鉄羽島線の新羽島駅と隣接しています。
利用者数は1日5,641人(令和5年度)。三河安城駅の3,432人よりは多いものの、東海道新幹線の全17駅全体では下から2番目で、つい最近までは利用者数最下位の駅として知られていました。駅前にはビジネスホテルやレンタカー店舗が立ち並ぶものの、一見の感想としては「宿泊・移動の拠点に使用される駅」というイメージを抱きます。
「のぞみ」停車駅ではなく、観光地でもないため、県外者としては特別な用事がない限りはなかなか訪れる機会のない駅と言えるでしょう。筆者は9月に関ケ原を取材、帰路で初めて岐阜羽島を利用してみました。
弾丸列車計画でも検討され、諦められた「幻のルート」の存在
在来線であれば名古屋―米原間には一宮や岐阜、大垣といった都市が点在していますが、それらをスルーして岐阜羽島に駅が設けられたのは何故なのでしょうか? その理由を探ってみましょう。
東海道新幹線のルーツは、戦前の「弾丸列車計画」です。満州事変や日華事変により朝鮮半島や中国大陸への輸送需要が急増、東海道本線・山陽本線の輸送力増強が求められるなか、その根本的な解決策として唱えられた計画でした。
1930年代後半に立案されたこの計画は、東京~下関間を9時間、東京~大阪間を4時間半で結ぶというもので、軌間も国内標準の狭軌ではなく1435mmの標準軌を採用することを前提としていました。1940(昭和15)年に認可を受け、1941(昭和16)年に着工したものの、2年後の1943(昭和18)年に戦況の悪化を受け中止となります。
そうして一度は立ち消えた弾丸列車計画ですが、日本経済が復興し再び東海道本線の輸送力がひっ迫し始めたことで、改めて新幹線計画が浮上。東海道新幹線として1959(昭和34)年に着工します。
弾丸列車計画によってある程度は用地買収や工事、車両の研究やルート選定などが進んでいたこともあり、東海道新幹線はその遺産を活用しながらわずか5年半という短期間でスピード開業を成し遂げます。
岐阜羽島を語るうえで注目すべきは、名古屋から京都へ至るルートです。
弾丸列車計画では最短距離となる鈴鹿山脈越えのルートが検討されていたものの、確定はしていませんでした。
東海道新幹線でも当初は鈴鹿越えが検討されていましたが、およそ12キロもの長大トンネルを掘るのが困難であることから断念。伊吹山地と鈴鹿山脈の合間、かつて「不破関」が置かれた関ケ原経由のルートが選ばれました。もし名古屋から京都まで西進すれば、岐阜県ではなく三重県を経由して、桑名や亀山に駅が設置されていたかもしれません。
話を戻します。東海道新幹線は名古屋から関ケ原を経由して京都へ向かう「凸」のようなルートを取ることになりました。トラブル発生時の対策として岐阜県内に駅を設置する方針はあったものの、岐阜市だとルートが北へ膨らみ過ぎ、「水の都」の異名を持つ大垣市は地盤に不安があります。かといって直線的に進めば名神高速道路との交差や用地買収など別の問題が出て来ます。
そこで選ばれたのが羽島市です。駅設置場所の調整は、1957年に初代自民党副総裁となった政治家・大野伴睦氏が買って出たという経緯があり、駅前には今も氏と夫人の銅像が佇んでいます。
東京まで「ひかり」で約2時間、意外と近い岐阜羽島
そんな経緯で設置された「岐阜羽島駅」ですから、かつては「政治駅」――政治家が強引に設置させた駅であるとも囁かれていましたが、昨今ではルート選定の事情や大野伴睦氏の調整に関する情報が発信されるにつれて、そのように言われることもなくなりました。
一方、利用者の少ない駅であるという評は耳にします。冒頭で述べた通り岐阜羽島は「のぞみ」の停車駅ではなく、観光名所というわけでもなく、JRの在来線ともつながっていません。名鉄線で岐阜に出ようとすると笠松で乗り換えを挟むありさまで、どちらかといえば自家用車やバスによるアクセスの方が便利な場所です。
実際の使い心地としてはどうなのでしょうか。1時間に1本「ひかり」が停まるため、東京までは約2時間。名古屋は10分、京都は35~40分、新大阪まで50分強と、実は東海道新幹線主要駅へのアクセスは悪くない駅といえます。実際に岐阜県庁でお仕事をされている方にお尋ねしたところ、「県庁から車で20分ですので、東京への出張によく使わせていただいています」と好評。岐阜市などは名古屋へ通勤する方のベッドタウンとして人気が高いらしいと聞きますが、岐阜羽島も新幹線通勤者や大都市へ行く機会が多い出張族にとっては魅力的な拠点と言えるのかも。
余談ですが、老朽化しつつある駅舎外装(北側・南側)の改良のため、東海道新幹線の駅舎で初めて「東海道新幹線再生アルミ」を外装材として活用すると発表済み。繊維の一大産業地らしいデザインとし、木曽川・長良川もモチーフとして取り入れるそうです。工事は12月中旬頃に完了する予定です。