サポーターの投稿がチームの今後を決める!?日本初のスポーツDAO「アビスパDAO」とは
ルヴァンカップを初制覇し、今勢いに乗っている「アビスパ福岡」。そんなアビスパ福岡が、チームを応援する人が集うコミュニティ「アビスパDAO(ダオ)」を始めたことはご存知でしょうか。今回は、アビスパ福岡株式会社 執行役員の平田剛久さんと、DAOのモデレーターを務めるryuさん、DAOのシステムを運営する株式会社フィナンシェの塚越さんをお迎えして、DAOの概要や活動内容、開始背景などについて、フクリパの運営会社である株式会社えんメディアネットの坪倉伸一代表取締役と語り合ってもらいました。
サポーターと一緒にチームを運営できるコミュニティ「アビスパDAO」とは?
坪倉:アビスパ福岡、最近すごく勢いがありますよね。その背景には、ファンやサポーターが集う熱いコミュニティの「アビスパDAO」があると耳にしたのですが、一体どのような集まりなのでしょうか?
平田:「アビスパDAO(ダオ)」は、簡単に言うと、アビスパ福岡を応援してくださる皆さんと一緒にチームを運営するための、オンライン上のコミュニティです。2023年2月に運営をスタートしました。「コミュニティ」と聞くと、ファンやサポーター同士の交流の場を想像される方も多いと思います。もちろんDAOでは交流も行われているのですが、それだけでなく、課題解決のための意見を出し合ったり、イベントを企画したりする場でもあるんです。フラットな関係性のもとでコミュニケーションを取れることが特徴で、メンバーは誰でも、チームの運用方針や取り組みに対して意見を出すことができます。つまり、「アビスパ福岡のオーナーの1人になっていただく」ようなイメージですね。
<DAO(自立分散型組織)とは>
社長のような組織の代表者が存在せず、メンバー同士で意思決定がなされる組織のこと。「トークン」と呼ばれる共通通貨を保有すれば、誰でも参加できる。また、組織に貢献したメンバーには、その貢献度に応じてトークンが付与される。全ての活動履歴が公開されていて、組織運営についての透明度が高いことが特徴。
アビスパ福岡株式会社 執行役員の平田剛久さん
坪倉:「自分もチームの運営に参加できる」と考えると、ワクワクした気持ちになりますね!今日一緒に参加してくださったryuさんは、このアビスパDAOのモデレーターを務められていると伺っています。モデレーターとは、どのような役割を果たすメンバーなのでしょうか。
平田:モデレーターとは、コミュニティの活動を盛り上げるリーダーのような存在です。これはどのコミュニティにも言えることですが、コミュニティ内で動きがないと、なんだか発言しづらいと感じてしまいますよね。そのため、モデレーターさんには、「〇〇の取り組みについて、皆さんはどう思いますか?」「今日の試合はこんな点が盛り上がりましたね」などと積極的に投稿して、コミュニティを盛り上げる役割をお願いしています。なお、ryuさんは、歴10年以上のアビスパ福岡のサポーターなんですよ。
アビスパDAOモデレーター ryuさん
坪倉:たしかに、積極的に発言している方がいると、コミュニティ内に活気が出そうです。ryuさんはサポーターの1人として、アビスパDAOのことをどのように感じていますか。
ryu:本当に魅力的なコミュニティだと感じています。アビスパDAOの良いところを語ったらキリがなくなってしまうので、個人的に、特に嬉しかったポイントを2つご紹介しますね。1つは、DAOでのプロジェクトに参加すると、その対価としてチームからトークン(共通通貨)をもらえることです。当たり前ですが、これまでチケットやグッズの購入等でお金を払う機会はたくさんあっても、チームからお礼を受け取る機会はありませんでした。自分が持っているスキルやアビスパ福岡への想いを、トークンという価値あるものに変えられることには、とても感動しましたね。
2つ目は、DAOメンバーの限定特典を受けられることです。一定以上のトークンを所持していると、選手への花束贈呈などの「プレミアム体験」や、バックヤードツアーの抽選に申し込めるんです。また、小学生以下の子ども向けの「キッズ向けプレミアム体験」も用意されています。このような体験はめったにできないことなので、DAOに参加して本当に良かったなと感じました。アビスパ福岡のサポーターは、DAOというコミュニティがあって本当に幸せだなと思っています!
アビスパDAO主催試合にて提供された特典の一部
坪倉:どれも魅力的な特典ばかりで、サポーターにとってはたまらないですね!先ほど、コミュニティ内では、イベントの企画も行われていると伺いました。ぜひ、アビスパDAOのこれまでの活動についても教えてください。
平田:代表的な活動のひとつが、スタメンボード(その日のスタメンの選手の顔写真が入ったボード)の設置です。これまでアビスパ福岡にはスタメンボードがなかったのですが、他のチームの試合でボードを目にしたサポーターからの「アビスパ福岡の試合でもスタメンボードを設置して欲しい」という投稿をきっかけに、実際にボードを作ることが決まりました。従来であればここで予算の問題が出るところですが……スポンサー集めや製作会社探しなどの作業も、DAOメンバーが自律的に動いて、全てスタッフの代わりに決めてくださったんです。最終的なデザイン選びも、DAO内での投票で一番人気だったものを採用しました。
このスタメンボードは、DAOのメンバーはもちろん、DAOに参加していないファンやサポーターの方々からも好評で、今では大人気のフォトスポットになっています。
スタメンボード設置時の様子
ryu:デジタルチラシ企画「☆(ほし)をとりに行こうプロジェクト」も、DAO内の投稿がきっかけで始まった取り組みです。「ルヴァンカップの優勝を目指して、何かDAOで取り組めることはないだろうか」との意見が出たことをきっかけに、スタジアムへの来場を呼びかけるデジタルチラシをDAOメンバーで作成することが決定。最終的なデザインも、DAO内の投票で選びました。完成したチラシはXをはじめとしたSNSで拡散され、最終的に50万以上のインプレッションを得ることになったんです!
このチラシは準々決勝を盛り上げるために作成されたものでしたが、その後の試合にも勝ってルヴァンカップを制覇でき、とても印象深い企画となりました。
DAOメンバーが作成し、実際にSNSにて拡散されたデジタルチラシ
ファンクラブとの違いは “トークン” にあり!
坪倉:アビスパDAOは、チームとサポーターの距離をグッと縮められるコミュニティなのだなと感じました。ただ、ファンやサポーター向けの取り組みには「ファンクラブ」も挙げられると思います。DAOとファンクラブの違いはどのような点にあるのでしょうか。
平田:ファンクラブとの違いは、大きく2つあります。1つ目は、DAOはファンやサポーターの意見を取り入れる「参加型」であることです。ファンクラブの場合は、規定の年会費を支払うことで、限定グッズの受け取りや優先入場などの事前に決められた特典を受けられますよね。しかし、それらの特典はクラブ側が用意したものであり、ファンやサポーターの意見が取り入れられることは、ほとんどありません。
一方で、DAOはメンバーの意見を聞いたうえで物事を決めるため、一方通行にならず、「自分も運営に参加している」との実感を得ることができます。従来型の組織とは異なり、メンバーによる意見交換や投票などで意思決定されるのが、DAOの最大の特徴なんです。
株式会社をはじめトップが意思決定をする組織とは異なり、コミュニティ全体の意見を取り入れて運営していくのがDAOの特徴
坪倉:たしかに、スポーツチームのファンクラブに入っていても、チームから意見を求められる機会はあまりないですよね。これだけでも大きな違いだと思いますが、2つ目はどのような点なのでしょうか。
平田:2つ目は、「トークン」と呼ばれるデジタル通貨(共通通貨)を購入・保有していただくことです。デジタル通貨と聞くと難しいイメージがあるかもしれませんが、「トークン=ゲーム内のアイテム」と考えてみてください。新しいアイテムをゲットすると次のステージに進めるゲームのように、この「トークン」を1つ(1トークン)以上所持すると、自動的にアビスパDAOへ加入できる仕組みとなっています。ちなみに、このトークンの価格は株価のように変動するので、将来的には、自分の持っているトークンが購入時以上の価値を得る可能性もあるんですよ。もちろん、自分のトークンを売却することも可能です。
トークンの保有数が増えると、抽選に当たりやすくなったり、「〇〇トークン保有者限定イベント」などに参加できたりする
坪倉:なるほど、トークンという共通アイテムを所持することで、DAOに加入できる仕組みなんですね。次に気になるのはトークンの購入方法だと思うのですが、トークンはどこで手に入れられるのですか。
平田:トークンは、専用アプリ上で購入できます。アビスパDAOは、株式会社フィナンシェが提供する、FiNANCiE(フィナンシェ)というサービスを利用して運営しているんです。そのため、FiNANCiEのアプリをダウンロードして会員登録をしていただくだけで、トークンを購入できます。
なお、トークンは最低100円から購入可能。トークンを購入した後は、すぐにアビスパDAOのチャンネルを閲覧できるようになります。
FiNANCiEのアプリ:https://financie.jp/
招待コード:VNY6ZC
招待コードを入力すると、アビスパDAOの参加に必要なアビスパトークンが1トークンプレゼントされます
<トークンの購入方法>
1.アプリストアからFiNANCiEのアプリをダウンロードする
2.メールアドレスの入力などの簡単な会員登録を済ませる
3.アプリ内で、「FiNANCiEポイント」を購入する
4.アプリ内にあるアビスパ福岡のページを開く
5.所持しているFiNANCiEポイントと、アビスパ福岡のトークンを交換する
6.1トークン以上所持すると、自動的にアビスパDAOの各チャンネルが閲覧可能になる
坪倉:先ほど、1トークンの価格は変動するとのお話がありました。そうすると、購入する時期によって、トークンの購入価格が変わることになりますよね?
平田:そうなんです。2024年7月現在のトークンの価格を見てみると、1トークンは約4円と表示されています。ここで気になるのが、「どうしたらトークンの価値が上がるのか」ですよね。このトークンの価格は、トークンの購入者が増加することで上がっていきます。つまり、アビスパDAOをより魅力的なコミュニティにして、多くの方に「自分もDAOに参加したい!=トークンを購入したい」と思っていただくことが、とても重要なんです。
DAO開始の背景には、ファンやサポーターの熱い想いが
坪倉:だんだんと、DAOの全体像が見えてきました。DAOはとても魅力的なコミュニティだとは思うのですが、あまり他では見たことがありません。そもそも、なぜアビスパ福岡でDAOを始めることになったのでしょうか。
平田:大きなきっかけは、新型コロナウイルスの流行です。コロナ禍では試合が中止になることも多く、サポーターやスポンサーの方々との関係維持の方法や、試合以外で収益を生み出す方法について頭を悩ませていました。そして、このような課題解決の取り組みの一つとして、2021年8月に「アビスパトークン」を発行することになったんです。当時のトークンは、投票企画への参加や、特典の抽選応募などが可能になる「チームの応援の証」のような役割を果たしていました。
坪倉:DAOの開始よりも前からトークンの販売を行っていたんですね。なぜそこから、DAOを始めることになったのですか。
平田:「トークンだけでは、ファンやサポーター、スポンサーとの関係性が一方通行のままだ」と感じたことが大きかったです。DAOを始める前も投票企画などを行ってはいましたが、それは運営側が用意した選択肢から選んでいただいているだけで、皆さんからの意見は取り入れられていない状態でした。また、「何か他のチームとは違う取り組みを始めたい」と思ったことも、DAOを始めたきっかけの一つです。アビスパ福岡はそこまでお金に余裕があるチームではないため、大企業が支援をしているJ1所属の強豪クラブと戦っていくには、もっと別の取り組みでチームを盛り上げていく必要があるのではと考えたんです。実を言うと、日本のスポーツチームがDAOを開設したのは、アビスパ福岡がはじめてなんですよ。
DAOの参加メリット
坪倉:えっ、日本初の取り組みだったんですか!?それなのに、どうして「アビスパ福岡でDAOをやってみよう」と思えたのでしょうか。
平田:アビスパファンやサポーターには、チームに対して熱い想いを持ってくださっている方がとても多いので、DAOのようなコミュニティがあれば、意見交換が活発に行われるのではないかと思ったんです。アビスパ福岡は過去に数回の経営危機を経験していて、地域の方々に支えられてここまで来ることができました。そのため、アビスパサポーターの中には、「自分たちがチームを改善していかなければ」という意識が強い方が多い傾向にあります。ただ、DAOを始めて本当に意見が集まるかどうかは分からなかったので、開始後数ヶ月で1000件以上のアイディアが集まった時には驚きが大きかったですね。
坪倉:アビスパDAOは、ファンやサポーターの方々の熱い想いによって成り立っているんですね。アプリを運営している株式会社フィナンシェの塚越さんは、この日本初のDAOについて、どのように感じていますか?
塚越:スポーツチームにおけるDAOの運営は初めての試みだったため、DAOというあまり馴染みがない取り組みをファンやサポーターの皆さんに受け入れていただけるか、最初は不安がありましたね。ただ、アビスパ福岡の川森会長や、平田さんが何度も説明会を開催されたことにより、DAOが浸透していったのではと感じています。最近では、ほかのスポーツチームからも、「うちもDAOをやってみたい」とのお声をいただくようになったんです。これからもアビスパDAOを活用して、いろいろな事例を作っていただけたら嬉しいです。
メンバーには他のチームのサポーターも
坪倉:お話を伺い、ますますアビスパDAOに興味が湧いてきました。メンバーは、やはりアビスパ福岡の熱心なファンの方が多いのでしょうか。
平田:実は、他のサッカーチームのサポーターの方もいらっしゃるんです。「アビスパ福岡のことはそこまで詳しくないけれど、DAOが面白そうだったから」といった理由で参加してくださる方も多いようです。また、DAO開始時のアンケートによれば、メンバーのうち1/3は、関東圏をはじめとした福岡県外の地域に住んでいる方でした。「遠いのでなかなか試合に行けないが、何らかの手段でチームに貢献したい」との考えをお持ちのファンやサポーターの方も、多数参加してくださっています。
なお、2024年現在は、アプリ上のフォロワー(活動報告など、DAOメンバー以外も閲覧できる項目のみ見ている方を含む)が約3000人、トークンの購入者は約1700人いらっしゃいます。
坪倉:福岡から離れて住んでいるファンの方も応援できる場があるのは嬉しいですね。2023年2月に運営をスタートさせてから1年以上が経ちますが、現在のコミュニティの様子はいかがですか。
ryu:皆さん積極的にコメントを投稿するなどして、DAOを盛り上げていると感じています。この一年で、DAO内の文化として「投げトークン」が定着しました。投げトークンとは、SNSの投げ銭のように、メンバーに少額のトークンをプレゼントすることです。良いアイディアが出た際や、サポーター仲間が代わりにグッズを購入しておいてくれた時などに、ビールを一杯ご馳走するような感覚で、トークンを送りあうんですよ。皆さんハンドルネームで活動しているので、本名や職業を知らない方ばかりですが、アビスパ福岡への熱い想いで繋がっていると感じています。
スタジアムの5FVIPラウンジを活用したDAOメンバー交流会の様子
アビスパ福岡が目指す、これからの “アビスパDAO”
坪倉:アビスパDAOは、これからもどんどん成長していきそうだと感じています。最後に、今後の展望ついてお聞かせください。
平田:現在のDAOはファンコミュニティに近い存在ですが、今後はスポンサーや行政、地域のメディアなどを巻き込んで、もっと大きなステークホルダーコミュニティにしていきたいと考えています。また、「日本一チャレンジするクラブ」とのモットーの通り、今後もDAOを中心に、多種多様な取り組みを続けていく予定です。たとえプロジェクトの規模が大きくなっても、皆さんでアイディアを出し合って、実行に移すというプロセスは変わりません。例えば、スタメンボードの製作の延長で、スタジアムが作れたら最高ですよね!アビスパDAOは、今後も全員が主役になれるコミュニティを目指して運営を続けていく予定です。これからも、ぜひアビスパ福岡の活躍に期待してください!
【参照サイト】
株式会社フィナンシェ
AVISPA DAO
日本初のスポーツDAO! アビスパ福岡スポーツイノベーションDAO発足のお知らせ
アビスパDAO Web3パートナー 契約締結のお知らせ
アビスパDAO公式note