中村獅童と尾上菊之助が語る、公演への思いとは 狼と山羊の友情を演じる『あらしのよるに』取材会レポート
狼のがぶと山羊のめい、仲良くなるはずのない二匹は嵐の夜に偶然出会い、友情を育んでいき……。きむらゆういちの絵本『あらしのよるに』が発刊されて30年。映画や舞台などさまざまなジャンルで取り上げられてきたこの絵本は2015年、歌舞伎作品となり、以来再演を重ねてきた。絵本発刊30周年を記念しての歌舞伎座公演は、初演より狼がぶを演じる中村獅童に、初役で山羊めい役を演じる尾上菊之助という配役での上演となる。二人の取材会がこのほど行われた。
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2023年にIHIステージアラウンド東京で上演された『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』まで10年近く共演がなかった二人だが、獅童が菊之助出演の地方公演を観に行き、さまざまな芝居やこれからの歌舞伎について話すなど親交を深めてきた。『ファイナルファンタジーX』の公演中に獅童からこの作品への出演依頼があり、その後、作品への強い思いにもふれ、「何としてもお力になりたいと思った」と菊之助。
その言葉を受け、作品のそもそもの成り立ちについて獅童が語る。「2003年のNHKEテレの『てれび絵本』という番組で全動物の声を担当したのがこの絵本との出会い。ちょうど『新春浅草歌舞伎』で『義経千本桜』の“四の切”の狐忠信をやっていたころで、この絵本も歌舞伎にできるねという話を母としていた。その後母も亡くなり、2015年に京都の南座で何か公演をという話になったとき、この『あらしのよるに』をやらせていただけたらと思った。その初日の前日に松竹の方に呼ばれて、実は2003年に『いつか獅童が責任興行を打てるような役者になったとき、この作品をやらせてやってほしい』と母が手書きの企画書を提出していたことを聞いた」という。
「作品のテーマとして、『自分は自分らしく、自分を信じて生きていく。そうすればあなたを信じてくれる友達ができる、仲間ができる』というようなセリフもあるんですが、それはまさに、20代、まだまだ歌舞伎でお役がつかなかった時代に母に言われていたこと。それがどれだけ自分の心の支えとなったか」と亡き母への思いを明かすと共に、今回初めて出演を果たす息子の陽喜と夏幹にとっても作品のテーマが生きる上での勇気となってくれたらと話す。二人の子供はこれまで作品のDVDをずっと観てきていたそうで、「陽喜は女方と立役と両方やりたいということで(幼いころの)めい役、なっちゃん(夏幹)は(幼いころの)がぶ役」と配役もすんなり決定。がぶの父が幼いがぶに大切な言葉をかけるシーンもあるが、周囲に勧められて獅童ががぶの父も兼ねることになったという。
作品の魅力について、獅童は「人を思いやる気持ち。それから、自分を信じて生きるということは簡単なようで難しい。僕にとっては役者中村獅童の人生がものすごく当てはまる。誰にも相手にされなかったけれども自分を信じて自分らしくというのは、自分の若いときから今日までとオーバーラップするところがある。演じれば演じるほど作品のテーマが身に沁み、日頃忘れがちな大切なことをいつもこの作品に教えてもらっている」、菊之助は「嵐の中で出会った狼と山羊がどういう風に共通点を見つけていくのか、それが作品の一番大切なところではないか。生命の根源みたいな感じがします。狼と山羊ですから食うか食われるかの二極ですが、もともと生物をたどっていけば一つの命なわけで、今は分かれているけれども、共通点を見つける、そして自分の信念をもって生きていくことができれば、乗り越えられない壁も乗り越えられるかもしれないと感じる。分断等で人と人との交わりが難しくなっている時代にふさわしい作品だと思う」と語る。
菊之助は、演じるめい役については、「原作を読んでも、愛くるしく、おいしそうに見えないといけない。でも、怖いながらも近寄っていく芯の強さがないと成立しない」と語ってくれた。
「絵本のノスタルジックさを表現するために、歌舞伎の技法、古典にこだわった物作りをした。また、親子でも楽しめる作品ということもテーマとしてあり、親子でと一緒に泣いたり笑ったりしているのを観たとき作ってよかったなと思った。歌舞伎の入り口としてもふさわしく、普段歌舞伎をご覧になっている方にも楽しんでいただける、そんな作品にしたい」と抱負を語った獅童。獅童と菊之助、歌舞伎の未来を見据える二人が『あらしのよるに』で見せる魅力に期待したい。
『あらしのよるに』は、2024年12月3日(火)~26日(木)歌舞伎座『十二月大歌舞伎』第一部にて上演される。なお、イープラスでは、12月21日(土)に貸切公演を実施。イープラス貸切公演では、おトクな独自価格の設定や、サイン入り筋書(購入の際、無作為に当たるチャンス)など貸切公演ならではの特典も行っている。
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=山崎ユミ