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欧州食材のパイオニア・アルカンからの提案vol.21 シストロン産アニョーのおいしい調理法 25年2月号

料理王国

欧州食材のパイオニア・アルカンからの提案vol.21 シストロン産アニョーのおいしい調理法 25年2月号

フランスでは高級食材として、レストランでも家庭でも愛されるアニョー(仔羊)。成羊ほどクセがなく、肉質のきめ細かさや風味の豊かさが特徴だ。フランス料理をこよなく愛する「渡辺料理店」オーナーシェフの渡邉幸司さんが考える、アニョーの魅力とは?

圧倒的なクオリティでかつて衝撃を受けた食材

「日本では“高級な肉と言えば牛肉”のようなところがありますが、フランスは肉の種類が多様にあり、それぞれが文化に根付いて大切にされています。中でも一番のハレの日に登場する、高貴な食材がアニョーなんですよ」と渡邉幸司さんは言う。

アニョーは生後12ケ月未満の仔羊のこと。それ以上成長するとムトンと呼ばれ、大人の羊とみなされる。また生後4〜5週間の乳飲み仔羊はアニョー・ド・レとして区別される。アニョーはムトンのような独特の香りやクセがなく、繊細な肉質と豊かな風味が特徴だ。フランスでは牛肉よりも格付けは上で、高級レストランで使われることも多い。と同時に、スーパーマーケットにも並ぶポピュラーな食材だ。アニョーの代表的な部位には、骨付きの背肉であるカレ・ダニョー、鞍下肉にあたるセル・ダニョーがある。

「アニョーはフランスの家庭でもよく食べられます。地方ごとに有名な料理があり、煮込みからロティまでさまざまな料理法もあります。フランス人の大好きな肉の一つで、カレ・ダニョーやセル・ダニョーを使った料理は伝統的に特別な日の食卓に出されます」

カレ・ダニョー、つまり骨付きの背肉は仔羊の背中の肩甲骨の下あたりから腰にかけて、背骨の両側に肋骨を8本付けて取り出される。セル・ダニョーは鞍下肉で、仔羊の頃にはあまり動かさない筋肉のため、身質がきめ細かくとても柔らかい。

5 盛り付ける時に背骨を外す。

3 バジル、ローズ付マリー、エストラゴンやディルなど季節のハーブを10種類以上入れて、アニョーのジュを加える。

1 セル・ダニョー(仔羊の鞍下肉)は余分な脂肪などを取り除き、骨から伝わる熱でじんわり火を入れるため背骨は付けたままにする。丸く成形して紐で縛り、塩を振って、エクストラヴァージンオリーブオイルを敷いたココット鍋で焼く。

6 肉はしっとりとした仕上がりで驚くほど柔らかい。

4 蓋をした鍋ごとオーブンへ。150℃の低温で30分ほど火を入れて取り出す。

2 転がしながら外側にしっかりと焼き色を付ける。

フランスのアニョーの産地はいくつかあるが、中でも有名なのが南仏プロヴァンスにあるシストロンだ。この標高の高い村は清らかな水と空気に恵まれ、仔羊は南仏の温暖な気候でストレスなくのびのびと過ごす。牧草に混ざってハーブが多く茂り、それを食べて育つので特徴的な風味が出るという。

「初めてシストロン産のアニョーを使った時のインパクトは忘れられません。20年程前ですから、まだ日本ではそれほど質のいいものが手に入らない時代でもありました。それまで使っていた他国のアニョーに感じていた独特の匂いがなく、とにかく香りがよくて、身質がシルキーなことに驚きました。食べた時はもちろんですが、包丁を入れた瞬間にその違いが分かる。これが本物のアニョーなのか! と衝撃を受けました」

その時からシストロン産のアニョーに惚れ込んだという渡邊さんは、「値段が張るけれど代わるものがない」と、今も定番メニューの食材として重宝している。

最高のおいしさに到達する火入れが重要

今回渡邊さんが作ったのは、それぞれの部位のおいしさが際立つ料理だ。どちらもいつか店で出してみたいともくろんでいる。ヒレ肉の柔らかさと程よい脂の両方を併せ持つセル・ダニョーの魅力を最大限に引き出すのはハーブたっぷりの蒸し焼きだ。
「セル・ダニョーはアニョーの部位では特に肉質がシルキーです。蒸すことで滑らかさがより感じられ、本来の香りを引き立てるハーブの香りをまとわせました」

セル・ダニョー(仔羊の鞍下肉)は余分な脂肪などを取り除き、骨から伝わる熱でじんわり火を入れるため背骨は付けたままにする。丸く成形して紐で縛り、塩を振って、エクストラヴァージンオリーブオイルを敷いたココット鍋で焼く。

転がしながら外側にしっかりと焼き色を付ける。

バジル、ローズ付マリー、エストラゴンやディルなど季節のハーブを10種類以上入れて、アニョーのジュを加える。

蓋をした鍋ごとオーブンへ。150℃の低温で30分ほど火を入れて取り出す。

盛り付ける時に背骨を外す。

肉はしっとりとした仕上がりで驚くほど柔らかい。

塊のまま周囲を焼いたセル・ダニョーは、山盛りのハーブとアニョーのジュと共にココットに入れ、低温のオーブンでゆっくりと火を入れた。蓋を開けた時から立ちのぼる凝縮したハーブの香りを鼻孔で味わいつつ肉を噛みしめる。シンプルなようでも素材の持ち味を出しきり、その旨みを重ね合わせている。
「凝縮感とはおいしさの重ね方だと思います。それをどうやって重ねていくかを考えるのがフランス料理の醍醐味です」

「仔羊のプランデルブ」
アニョーが育った南仏を思わせる、ハーブをたっぷりと使った一皿で、渡辺さん若き日の思い出の料理。レカン時代に師匠の十時亨シェフが作るのを見て、鮮烈な印象と共に渡邉さんの記憶に刻まれていた。肉が埋もれるほどのハーブと共にオーブンでハーブ蒸しにすることで、セル・ダニョーの繊細な柔らかさを際立たせる。またアニョーのジュを加えることで、旨みや風味を多層に積み重ねて味わいに深みを出している。仕上げには、アニョーのジュのソースに、バジルの風味を加えた。

カレ・ダニョーはイル・ド・フランス地方の郷土料理「シャンバロン風」を選んだ。

「カレ・ダニョーには骨から出る旨みがあり、脂がのっているので、シャンバロンを作るとアニョーの旨みや溶けた脂が他の具材に回って一体感が生まれます」

渡邉さんから若手料理人の皆さんへ、フランス産アニョーを調理する上でのアドバイスをうかがうと、「一歩踏み込んだ火入れが必要」と断言する。

カレ・ダニョー(仔羊の背肉)は余分な脂などを取り除き、肋骨の間に包丁を入れて切り分けた“コートレット”の状態で焼く。

フライパンにニンニクのコンフィを敷いて、肉の脂身側がまんべんなくこんがりするまで焼く。

器に生のジャガイモ、下処理で出たアニョーの端肉と一緒に飴色になるまで炒めたタマネギ、カレ・ダニョーの順に重ねて、アニョーのブイヨンをたっぷりかける。

生のジャガイモのスライスで蓋をしてブイヨンをまわしかける。

アルミ箔で器を覆い、220℃のオーブンに入れて20~30分焼く。

「仔羊のシャンヴァロン風」
カレ・ダニョーを、ジャガイモや炒めたタマネギと共にアニョーのブイヨンで蒸し煮にする、イル・ド・フランス地方の郷土料理。フランスでは家族が集まるお祝いの席などで食べられることが多い。渡邉さんは上質なアニョーのブイヨンをたっぷりと用い、家庭ではできないレストランの料理に引き上げた。しっかりと脂を焼き切り、肉の中心までしっかりと火を入れて香りや味わいを引き出したアニョーは、嚙みしめるごとに旨みがあふれる。

「今回の料理を見てもらうとアニョーに火が入り過ぎではと思うかもしれませんが、中心をロゼ色に仕上げるのではなく、ここまで火を入れる勇気を持ちたい。脂もしっかり焼ききることで、アニョー本来の香りが一段と格上げされます。鴨肉などは焼き加減のストライクゾーンがある程度広いですが、アニョーのストライクゾーンは狭い。だから神経を尖らせて集中しましょう。焼ききれなくて少し手前で終わっても、焼き過ぎてしまっても良さが死んでしまう。料理人の技術や経験が問われる食材こそ、腕の見せどころです」。

奥深き高貴な食材“アニョー”を手がける精肉企業「ブッシュリー・ニヴェルネーズ」

ブッシュリー・ニヴェルネーズは1954年にパリ郊外スレンヌで創業した家族経営の老舗精肉店。1959年にエリゼ宮にほど近いフォーブル=サントノレ通りに移転し、半世紀以上に渡ってフランス大統領府の御用達を務めてきた。現在も、多くのミシュラン星付きレストランやパリの名だたるホテルに卸している。同社が手がける仔羊は生後130日前後というアニョー・オリジン・シストロン。アルプ・ド・オート・プロヴァンスの丘陵地帯で放牧されるこの仔羊は、ハーブが豊富な牧草地を歩いて育つ。自然豊かな環境が仔羊にもたらすのは香りの良さとまろやかで洗練された肉の風味だ。フランスでも指折りの品質を誇る仔羊は、フランス国内外の高級レストランでも愛用されている。

お問合せはアルカン業務食材営業部
TEL 03-3664-5114
お問い合わせフォームはこちら
https://www.arcane.co.jp/contact/

渡邉幸司 わたなべ こうじ
1970年、大阪生まれ。リーガロイヤルホテル大阪で修業後渡仏。プロヴァンス「ル・クロ・ド・ラ・ヴィオレット」、アルザス「ランスブール」などで腕を磨く。帰国して「銀座レカン本店」料理長を経て2022年に「渡辺料理店」開店。25年3月には、薪窯を備えた姉妹店をオープン予定だ。

渡辺料理店
東京都江東区富岡1-2-9
エンゼルⅡ1階
TEL 03-6381-8899
17:00〜21:00LO
休みは公式HPをチェック
(臨時休業あり)

text: Jun Okamoto photo: Hiroyuki Takeda

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