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認知症専門医の長谷川嘉哉氏がYouTubeで発信を続ける理由

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認知症の症状が進行すると、物忘れ・徘徊・暴言などがひどくなり、やがて介護の負担が大きくなる。そのようなイメージが、認知症の介護者たちを不安に陥れてきた。その状況に一矢報いようとしてきたのが、医療法人ブレイングループ理事長の長谷川嘉哉氏だ。2000年の土岐内科クリニック開業以降、認知症専門医・脳神経内科医として、毎月1000名ほどの認知症患者を診てきた。ブログやSNSだけでなく、芸人・矢部太郎氏とのコラボによる『マンガ ぼけ日和 矢部太郎が認知症患者と家族の日常を描いた 初の単行本書下ろし作品!』の制作、YouTubeチャンネルの開設なども行い、積極的に認知症の情報を伝えてきた。当事者目線で診療を続ける長谷川氏に、病院選びの基準や認知症薬の効果に対する考え方を聞いた。

在宅での看取りの8割は個人宅以外という現状

―― 実は、以前、別企画の「くらたまのいま会いたい手帳」で、芸人の矢部太郎さんにもお越しいただいたんです。長谷川先生が真摯に患者さんと向き合っている様子を伺ったので、今日の取材を楽しみにしていました。改めてですが、先生のクリニックでの診療の特徴から伺えますか?

長谷川 私は、外来の認知症患者さんの治療とともに、15ヵ所ほどの施設と連携して訪問診療を行っています。ほかに個人宅への訪問診療、デイサービス・デイケア・グループホーム・訪問看護・訪問リハビリなど、介護に関する事業も行っています。

―― ご活動は医療の分野だけにとどまらないのですね。

長谷川 そうですね。患者さんの悩みを解決するためには、介護に関して幅広くサポートできる環境を整えることが大切だと感じています。

そのような考えから、ファイナンシャルプランナーの資格を取って”介護のオカネ問題”に対するアドバイスもできるようになりました。

さらに、クリニック敷地内に歯科の診療スペースをつくり、歯科医師の先生に、患者さんのお口を診てもらっています。歯周病と高齢者の健康は切っても切れない関係ですからね……。

歯医者さんにかかってからウチを受診する仕組みができている患者さんは、現在300人ほどいます。

―― 訪問診療も数多く対応されており、在宅での看取りは500人以上みてこられたと伺いました。

長谷川 実は、在宅で看取ると言っているケースの8割方は、グループホーム・住宅型有料老人ホーム・サ高住などです。これらも統計上は“在宅”になります。統計上“施設”として分類されるのは、老健・特養・療養型病床群の3つしかありません。個人の家で看取る“在宅”のケースって、かなり減りましたね。

―― 以前に比べて状況がかなり変わってきたのですね。

長谷川 私は2000年4月に開業しました。この年は、介護保険が始まった年でもあります。当時、世の中には、グループホームも住宅型有料もサ高住もありませんでした。

それからの24年間で「在宅の看取り」の様相は大きく変わりましたね。昔は長男のお嫁さんが全人生かけて家でみていることが多かったですが、今は少なくなっていると思います。

当時は、在宅でみている人ってお金持ちが多かったんですよ。 「大事なおじいちゃんを家で診てほしい」と言って、びっくりするような大豪邸に呼ばれて訪問診療をしていました。最近は、金銭面の問題もあって施設に入れないから家で過ごすという人が増えました。

―― 介護の在り方にも“ご時世”が現れていますね。

長谷川 そうですね。「個人の家で、家族に囲まれて素敵な看取りができた」というイメージばかりが強くなり過ぎると、多くの人たちは「私にはできない」と感じてしまいます。

在宅での看取りの8割方が、実際は、グループホーム・住宅型有料・サ高住等で行われていることを広く伝える必要があります。

―― 介護に直面している方々にも、あまり知られていない事実かもしれません。

長谷川 だから私は、初診のときに、受け取っている年金額を聞くようにしています。それによって、受けられる介護サービスが変わります。年金額を知らずして、適切なアドバイスができない時代です。

漫画化した『ボケ日和 』を出版

―― 先生は、ブログやYouTube、ご著書『ボケ日和―わが家に認知症がやって来た!どうする?どうなる?』を元にした漫画化など、さまざまな手段で情報発信をされています。情報発信に力を入れるようになった経緯についてもお聞きできますか?

長谷川 認知症の情報が少ないことが、患者さんやご家族の悩みを大きくしていると思うんだよね。医療の環境をとっても、認知症の患者さんを真摯に診ている医者なんて、全国をみてもそう多くはありません。専門医の数も少ないですからね。

私のクリニックにも、患者さんからの相談とともに、ご家族が相談に来られるケースが多いです。「うちの親が今どういう状況で、今後どうなるのか知りたい」って。

そんな声が多かったことから、私は、認知症の症状を春夏秋冬で表現するようにしました。

春はちょっと変だなと思う行動が出てくる認知症予備軍。
夏は初期・軽度の認知症で物忘れがひどくなったり、今までできたことができなくなったりする時期です。
秋は、中期・中程度の状況で、暴言・妄想・徘徊・幻覚などの認知症の症状がどんどん出てきます。
冬は、末期・重度の状況で、失禁や弄便の症状などが見られ、一日中ぼんやりするようになります。

―― そのような表現をしていただくと、認知症の進行度合いが分かりやすいです。

長谷川 それと認知症で最も家族を困らせるのが、徘徊や暴力行為などの周辺症状です。それについては、「僕が診れば、ちゃんとコントロールするから何とかなるよ」と伝えています。

それだけで、かなり安心されます。それから、最期の迎え方についても……。

”冬”の時代が来ると、最期はご飯が食べられなくなります。胃ろうや中心静脈栄養など、無理やり寿命を延ばす処置をしなかったら、自然と看取れます。「まったく恐れることはない」と伝えているんです。

認知症は、予測がつかない周辺症状が出ることがあります。そのため、ご家族はどのように対処したら良いか分からないまま、不安な思いを抱いていることも少なくない。だから、説明をしてあげるだけで、みなさん、すごく喜ばれるんです。

私は、患者さんの不安に触れるたびに、認知症のことをもっと伝えたいという思いが強くなり『ボケ日和』を書きました。しかし、自分が書くと7万部しか売れない。だから、矢部太郎さんに手紙を書いたんですよ。

―― 矢部太郎さんとのコラボのきっかけは、手紙だったのですね。

長谷川 『ボケ日和』で私の本にイラストを描いてもらったので、矢部さんの連絡先は知っていました。そのうえで、手紙を書きました。

周囲から「出版社が取り計らってくれたんですか?」と聞かれることがありますが、そうではありません。私は、直接思いを伝えることが、一番、相手に届くと思っています。

矢部さんには「申し訳ないけど、僕が本を書いても7万部しか売れない。できるだけ多くの方に認知症のことを知ってほしいので、矢部さん漫画にしてくれないかな」と伝えました。そして、その思いが矢部さんに届き、『マンガ ぼけ日和』の出版へとつながったのです。

しかし、『マンガ ぼけ日和』でも16万部ほどです。今、本の影響力が異常に下がってきてるんだよね……。だからと言って、あきらめるわけにもいかない。そう思ってYouTubeに力を入れています。

YouTubeチャンネルの登録者は、8割が55歳以上

―― YouTubeの『長谷川嘉哉チャンネル「ボケ日和 転ばぬ先の知恵」』は、8万5千人近くの方がチャンネル登録されていますが、特に反響が大きいのはどんな動画ですか?

長谷川 「この症状が出たら自宅介護は「禁」!」という動画ですね。この動画は111万回再生(5月13日時点)になりました。わりと、どうってことない動画だと思っていたので、意外でした。

―― どんな方が先生の動画を見ているのですか?

長谷川 私のYouTubeチャンネルの登録者は、55歳~64歳までの女性が35%で、65歳以上の女性が45%です。合わせて計算すると、55歳以上が8割を占める超レアなYouTubeチャンネルなんです。みなさんが思う以上に、高齢の方たちがYouTubeを見る時代になっています。

―― YouTubeを見て来られた患者さんからは、「YouTubeの情報に助かった」という声も聞かれますか?

長谷川 外来に来る初診の方の半分は、YouTubeを見て来られています。そのなかには、「YouTubeを見て、絶対この先生に診てほしいと思った」と語ってくださる方が結構います。

私が、YouTubeと同じようなことを外来診療で語るものだから「動画の印象のままですね」とも言われます。

―― YouTubeで事前に人柄が分かることは、患者さんにとっての安心感にもつながりそうです。

長谷川 私のYouTubeのネタって、外来診療で聞いた生のネタなんだよね。

「先生、もしよかったら、このネタYouTubeで使ってくれてもいいよ」と言って、患者さんがネタをくださることもあります。

同じ薬でも、医師による調合のバランスが重要

―― 先生が治療で大切にしていることについては、いかがでしょうか。

長谷川 保険の薬を使った治療という点は、ほかの病院と一緒だと思います。違うのは、処方の仕方ですね。

認知症の薬は、アクセル系とブレーキ系の二種類に分けられます。 アクセル系の薬は、脳を活性化させて、気力を回復させる目的を持った薬。 ブレーキ系は、脳の神経バランスを整えて、気持ちを穏やかにするための薬です。 これを、患者さんの症状によって使い分けます。

例を出してみましょう。MMSE(認知機能を測る検査)が20点の患者さんが2人いた場合、一方は攻撃性が出ていて、もう一方はやる気が出ない方だとします。

攻撃性が出ている方には、メマリーや漢方の抑肝散などを使います。それだけでコントロールできない場合は、抗精神病薬のリスパダールやセロクエルを使います。

やる気が出ない人たちには、アリセプト・レミニール・リバスタッチパッチなどのアクセル系のお薬を使う。

そのような組み合わせを考えて薬を使うことによっても、認知症の症状は、ある程度コントロールできるのです。

―― 認知症の薬というとアリセプトの名前を聞くことが多いです。

長谷川 実は、場合によってはアリセプトが諸悪の根源になる可能性もあります。 アリセプトを処方している間に、MMSEが15点を切ってしまうケースもありますが、その場合は投薬が良くなかったことになります。

そこで、アリセプトをやめてあげるだけで、デイサービスに行くようになるケースは結構あります。

―― 症状を改善するために出されている薬が、悪さをしていることもあるのですね。

長谷川 そもそもアクセル系・ブレーキ系を理解して使っている先生も少ないです。先生によっては、「認知症の薬なんて大して効きもしないし、どれも一緒」と思って使っていることもあるのではないでしょうか。

しかし薬は、使い方次第です。特に、メマリーに関しては、どれだけ救われたか分かりません。メマリーを使うことで、”秋”の周辺症状である攻撃性や幻覚・妄想なんかは、すぐにコントロールできます。

ただ20ミリまでMAXで使うと、ふらつくことがある。適切な量は人それぞれですが、10ミリぐらいの半分の分量でコントロールするのがコツになってきます。

―― 患者さんに合わせた調合のバランスは、先生が、多くの認知症患者さんを診て来られたからこそですね。

長谷川 ありがとうございます。実は先日、ブックマン社から出版された『「認知症」9人の名医』という本で、私も紹介していただきました。その本のなかで「認知症の名医とは薬の少量投与をする人だ」と表現されていたんです。

それを見て「まさにその通り」と思ったんです。今、認知症の治療法は決められた保健薬しかありません。そのため「どんな治療をしてきたか」と問われれば「保健薬を使っているだけ」ということになります。

しかし、医者はみんな同じ条件のもとで治療しています。

だからこそ、どんな症状のときに、どの薬を、どれぐらい出せばよいのかを分かっている。それが大事だと思うのです。この本の中の先生たちは、患者さんに合わせた薬の投与に長けた先生が多いですね。

大きな病院での診断だけでなく、評判の良い医者も探すべき

―― そこまでできる先生は、まだ少数派なのですね。

長谷川 「認知症の患者さんには、大してできることがない」と考えている先生も少なくありません。認知症専門医であってもです。

がんや心臓の病気の場合、だいたい大学病院にかかるものじゃないですか。だけど、認知症の患者さんをしっかり診てるところって、開業医であることが多いと感じています。

『「認知症」9人の名医』の本に出てくる先生方も、みなさん開業医です。認知症は、多くの場合、大学病院に行っても解決されません。そこに、ほかの病気と認知症との違いがあらわれていると感じます。

―― 大学病院と開業医では、どのような点が違うのですか?

長谷川 大学病院って診断学なんだよね。たくさんの検査をして、「あなたは、アルツハイマー型認知症ですよ」とか「レビー小体型認知症ですよ」と診断することに重きを置いてしまっています。

開業医は診断して病気を明確にすることがメインなのではなく、基本、「診断したうえで、今、困っていることを改善しましょう」という考え方です。その点は、家族の願いとベクトルが一致するのではないでしょうか。

―― 開業医の方は、今後どうすれば良いかまで含めて、寄り添ってくれるということでしょうか。

長谷川 そこまで考えてくれる先生が多いと思います。あとは開業医の先生の方が、認知症の初診に時間がかけられるかな。

うちも認知症の初診では、1時間ぐらい時間をかけます。何をするかと言えば、ほとんど、家族の質問に答えているだけなんです。でも、ご家族の方は「こんなにたくさん説明してもらったことはないです」と喜ばれます。

―― それだけ、話を聞いてくれるお医者さんが少ないということかもしれないですね。

長谷川 家族が困っている症状を訴えているのに、検査で脳の写真だけ取って「異常がない」と言い切る医者もいます。そんなときには、病院を変えることも検討してください。

―― 一人の医師の意見を100%鵜呑みにしてはいけないということも意識しておく必要がありそうです。

長谷川 認知症患者さんをしっかり診てくれる医者は、それほど多くありません。しかし、ケアマネや認知症の方をみているご家族の意見を聞くなどして、良い医者を探していくしかないという気はします。今の時代は、ネットで検索して探すこともできるでしょう。

同じ症状でも、深刻に受け止める人と笑いに変える人がいる

―― 認知症と診断されたときのご家族の受け止め方は、先生が開業した2000年と今では変わりましたか?

長谷川 昔は「アルツハイマー型認知症です」と病名を伝えた途端に、強いショックを受けていた方が多かったです。しかし、最近は、それほどでもありません。

これはやはり認知症の情報が知られるようになってきたことが大きいと感じます。昔は、認知症のことがよく分からないまま、患者さんの周辺症状に戸惑い、ただ不安を募らせているような方が多かったです。

―― 認知症を正しく把握できるだけでも、家族の気持ちの持ちようは変わると思います。

長谷川 そうですね。それとともに、個人の受け止め方によって認知症との付き合い方が変わる側面もあります。

例えば、患者さんのもの忘れがひどくなったとき、ある家族は「こんなこともできなくなった」と深刻に受け止めます。一方で、「あのカタブツだった父がこんなユニークな行動をするなんて」と笑いに変えてしまう家族もいる。

同じ状況を前にしても、人によってこんなに受け止め方が違うのか、と感じますね。笑いに変えられるタイプの方が、介護が長続きする印象はあります

―― ちなみに、笑いに変えられるご家族には、何か共通点があるのでしょうか。

長谷川 家族構成が影響していると感じます。 前向きに受け止めて立ち向かうには子どもが3人という条件なら抜群です。3人娘ならなおさら良いです。

―― なぜ3人娘が良いのでしょうか。

長谷川 女性3人というのは、現実を柔軟に受け止めて、笑いに変える力が高い気がします。当番制にして上手に親を介護している方も多いです。

患者さんに「おばあちゃん、娘3人で良かったね」と言うと、嬉しそうな笑顔で「そうでしょ」と返ってくることも多くて。 漫画でも3姉妹を描いているものが多いですよね。やはり3姉妹というのは独特の何かがあるんでしょうね。ちなみに私の子どもたちも3人娘ですけどね(笑)。

逆に男3人は難しいことが多いね。3兄弟のなかでも仲の良し悪しがある。そこにそれぞれの嫁さんがくっついてくると、ややこしいんだよね。なかには文句を言うだけで、介護をしていない人もいたりします。

―― あまり聞かない視点で面白いです。兄弟が少ない場合、連携できる体制を上手につくれるかどうかもカギになりそうです。

長続きする自宅介護のコツは、介護者ファーストであること

―― 先生は、自宅介護で苦労して来られた方の悩みも、たくさん聞いてこられたと思います。自宅介護を継続するためのアドバイスがあればお聞きしたいです。

長谷川 要介護者に、適切に介護サービスを使ってもらうことが大切だと思っています。 デイサービスにも行ってほしいし、ショートステイも使ってほしい。

私はご家族に「泣き叫ぼうが嫌がろうが、使ってもらってください」と言っています。 本人が絶対イヤだというなら、介護者さんはもうみれないという話になりますからね……。

介護サービスを使ってもらう目的は、介護者が自宅介護を続けられる仕組みを整えることです。それは結局、要介護者が長く家で生活できることにつながります。

みんなすぐに「患者さん、患者さん」と言うんだけど、その前に介護者ファーストが大事です。

―― ちなみに、施設に親を入居してもらうことをネガティブに考えてしまう人へは、どのようにお話されていますか?

長谷川 施設に親を入所させると、10担っていた介護が0になると勘違いしてる人が多いと思うんです。しかし、そうではありません。なぜなら、施設への入所後も、風邪を引いたり熱が出たりすると、ご家族に連絡が入ります。そんなときは、家族の支えが必要になります。

だから、これまで担っていた介護が0になるのではなく、3ぐらいはご家族の方の手が必要になります。それを話すと、みなさんちょっと嬉しそうな顔をされますね。

親が施設に入居することになると、介護の負担から逃れられる安堵感はあるでしょう。しかし、何もしなくてよくなると、寂しいというか、「本当にいいのかな」という気持ちが生まれるのではないかと思います。

原動力は、認知症の祖父と過ごした経験

―― 最後に、先生が認知症の方の介護問題に悩む方を救うべく、多岐に渡る活動をされている原動力についてお聞きできますか。

長谷川 改めてそんなこと言われちゃうとわからないんだけど、まぁ何だろうなぁ、天命なのかなと思います。

……自分の親をがんで亡くした医者が、一生懸命がんの患者さんを診ているケースって、わりとあります。やっぱり情熱がある医者って、何かそういう体験を持っているものだと思うんです。

私の場合は、認知症になった祖父との思い出が、心から離れませんでした。祖父は、銀行で出世してバリバリ働いてきた人でしたが、くも膜下出血で、突然、妻であった私の祖母を亡くしてからうつ状態になり、やがて認知症になりました。

当時は、デイサービスなどの介護サービスもない時代です。インターネットもなければ、認知症の情報もほとんど明らかになっていません。そんな状況のなか、母が一人で祖父の介護をしていました。

―― かつては「義父母の介護は嫁の仕事」という価値観が、当たり前とされていた時代だったと聞きます……。

長谷川 そうなんです。……その後、私たちの家族は祖父を残して旅行することもできなくなり、介護疲れで家族がギクシャクしていきました。父は仕事で多忙、母は子育てもあったため、祖父にもつきっきりになれない状況になり、祖父は孤独を深めていきました。

その後、6年ほどして、ろうそくの灯が消えるように、祖父は亡くなりました。ある日、祖父が「誰もかまってくれない……」とつぶやいていた言葉が、今も私の心に焼き付いています。

祖父が亡くなったときに感じた「もっとしてあげられることがあったんじゃないか」という強烈な後悔が、私の原動力です。

その後、私は医学部に入って脳神経内科を専門に選び、当時の祖父のような認知症患者さんを診る開業医になりました。私は祖父との思い出を「ボケたじいちゃんが、僕に白衣を着せた」と、みなさんに語っています。

看護師さんにも驚かれるんです。「長谷川先生は、よくそんなに辛抱強く、認知症患者さんの話が聞けますね」って。普段は、あんまり気が長くないタイプなんですけどね(笑)。

―― 過去の介護経験が、その後の人生の道しるべになったのですね。

長谷川 私は中学生のとき、ボケた祖父のことは、あまり好きではありませんでした。 でも、今、生きがいを感じながら仕事ができるのは、祖父のおかげだと思っています。

普段、患者さんのご家族から「こんなボケたおじいちゃんと過ごして孫に悪い影響はないでしょうか?」と聞かれることが、よくあります。しかし、高齢者……それも、認知症患者さんと過ごした経験は、ムダではありません。

なぜなら、今後ますます高齢者が増える時代になる。高齢者と過ごした経験というのは、ともに生きる人たちを理解する力に変わっていきます。それは、これからを生きるうえで、かけがえのない財産になるのではないでしょうか。

―― 今後、認知症の方の数は増える一方だと言われています。介護や認知症についての正しい情報を知ること・伝えることが、どれほど大切であるかを、先生のお話から改めて感じました。今後も先生のご活動に注目しています。本日はありがとうございました!

取材/文:谷口友妃

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