第68回大原孫三郎・總一郎記念講演会「美術史と異文化交流−『移り棲む美術』から大原特別展へ−」(2024年7月26日開催)~ 予約不要・聴講自由で広く市民に開かれた講演会
毎年梅雨明けの7月下旬に、倉敷公民館では「大原孫三郎・總一郎記念講演会」が開催されています。
今年(2024年)登壇するのは、大原美術館 館長の三浦篤(みうら あつし)氏です。
現在開催中の大原美術館 特別展「異文化は共鳴するのか?大原コレクションでひらく近代への扉」について、少しマニアックで知的好奇心をくすぐられるディープな内容でした。
約1時間半の講演会をレポートします。
「第68回大原孫三郎・總一郎記念講演会」について
「第68回大原孫三郎・總一郎記念講演会」は、2024年7月26日午後6時30分〜8時に、倉敷公民館大ホールで開催されました。
講師は大原美術館 館長の三浦篤氏で、「美術史と異文化交流−『移り棲む美術』から大原特別展へ−」というテーマでの講演でした。
大原孫三郎・總一郎親子の想いが息づく講演会
「大原孫三郎・總一郎記念講演会」のルーツは、大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)氏が明治時代に「倉敷日曜講演」として各界の第一人者を招聘(しょうへい)し、広く市民に向けて開いた講演会です。
その後、長男の大原總一郎(おおはら そういちろう)氏が継承した講演会から、今に近い形での開催となったそうです。
今までの講師陣も豪華な顔ぶれで、たとえば昨年(2023年)は2001年にノーベル化学賞を受賞した野依良治(のより りょうじ)氏が登壇しています。
このように由緒ある講演会ですが、予約不要・聴講自由なので気軽に参加できることに驚きます。開始時間が午後6時半と、仕事や学校終わりに参加しやすい時間帯なので、聴講者も老若男女、幅広く参加していました。
また講師の三浦篤氏は、東京大学名誉教授なので、参加した高校生からは「東大の先生の話が聞ける」との声もありました。
大原美術館 館長 三浦篤氏について
今回の講師 三浦篤氏は、大原美術館に着任する前、東京大学にて長年美術史について研究していました。
専門は西洋近代美術史・日仏美術交流史で、以下のような研究をおこなっていたそうです。
・ゴッホをはじめ西洋の画家が、こぞって浮世絵などの日本趣味を取り入れた「ジャポニズム」
・逆にフランスから見た日本近代絵画の研究(印象派など、西洋絵画の手法がいかにして日本近代絵画に取り入れられていったか)
また、2024年4月から開催されている大原美術館 特別展「異文化は共鳴するのか?大原コレクションでひらく近代への扉」では、自らキュレーターとして展示構成を考えました。
日仏美術交流史研究〜フランスから見た日本
「ジャポニズム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
浮世絵など、日本文化の影響を受けた西洋絵画のことを指します。
《睡蓮》で有名なモネも、日本の太鼓橋をモチーフとした《睡蓮の池と日本の橋》という浮世絵の影響を受けた作品を残しています。
講演内では実例を交えて分かりやすく説明してくれました。
また、同時期に日本から留学し、本場の西洋絵画を学んだ日本人画家(山本芳翠、黒田清輝)がフランス絵画の影響を受けながら、日本近代洋画を確立していくエピソードについての紹介もありました。
大原特別展〜異文化は共鳴するのか?〜
後半は現在開催中の大原美術館 特別展について、作品を交えながらの解説でした。
児島虎次郎(こじま とらじろう) 《和服を着たベルギーの少女》は、大原美術館本館の入口に展示していることでも有名な作品ですが、特別展では他の作品と対比できるように展示されています。
振袖を着たベルギーの少女と、背景に置かれた日本人形など、まさに異文化の共鳴によって生まれた作品ですね。
特別展は2024年9月23日まで開催しています。
興味のあるかたは、いつもと違う大原美術館にぜひ足を運んでみてください。
おわりに
「大原孫三郎・總一郎記念講演会」のことは今回初めて知ったのですが、地方都市である倉敷で何十年にも渡り、広く一般市民に向けて講演会活動を継続していることに深く感銘を受けました。
講演会を主催する公益財団法人有隣会は「語らい座 大原本邸」をはじめ、大原家が倉敷に残したレガシーを広く世間に還元していくために活動しているそうです。
CSR(企業の社会的責任)やメセナ(企業の芸術文化活動支援)といった言葉の存在しない時代に、事業で得た富を広く世の中に還元することで、地域文化のボトムアップを図った大原家の先見性は当時としては特異であったと思います。
もし大原家が存在しなければ、美観地区をはじめとする今の倉敷は存在していなかったのではないかとすら思います。
この度は知的好奇心をくすぐられる内容の講演会を開催していただき、本当にありがとうございました。