下司尚実(作・演出・振付)、たむらぱん(出演)、河野丈洋(音楽)に聞く、泥棒対策ライト◎おとぎ話ダンス 音楽劇『おはなしルルラン』の魅力とは
2024年7月18日(木)よりシアタートラム(東京・三軒茶屋)にて開幕する、泥棒対策ライト◎おとぎ話ダンス 音楽劇『おはなしルルラン』。“観劇体験の入り口となれる作品を”をスローガンに掲げ、おとぎ話をベースにした作品を上演する。観劇のハードルを下げるため、上演時間を30分に短くしたバージョンも実施する。
作・演出・振付を担う下司尚実のもと、俳優・ダンサーとして活躍する6名のキャストが、魔女や動物など、おとぎ話に登場するさまざまなキャラクターを演じる。
主人公の女の子・ルルランを務めるのは、楽曲制作からアートワークまで手掛ける多才なアーティスト、たむらぱん。今作が演劇初挑戦となる。劇中音楽を書き下ろすのは河野丈洋。多くの鴻上尚史作品でも活躍している。稽古中盤となる6月末、下司尚実・たむらぱん・河野丈洋の3名に話を聞いた。
ーー今回の公演は、せたがやアートファーム2024参加作品のひとつとしてラインナップされていますね
下司:はい、世田谷パブリックシアターの方と話をしていたのは1〜2年ほど前です。連絡のやり取りをする機会があって。感染症の影響により前作の上演が中止となったばかりでしたので、新たに公演を実施することに、腰の重さを感じていました。リスクだけがおおきいなと。
それでもシアタートラムは、泥棒対策ライトがネクストジェネレーションに選出されお世話になったこともある劇場で、とても想い入れのある場所です。ここなら頑張れるかもと思い、話を進めていたところ、今年のせたがやアートファーム参加作品として公演を実施できることになりました。
ーーおとぎ話ダンス 音楽劇『おはなしルルラン』。おとぎ話に、ダンスに、音楽…楽しそうな言葉がならんでいます
下司:劇場の方と話を重ねるなかで、子ども向けの作品を上演してくれないかと相談を受けました。泥棒対策ライトの公演では、500円チケットを設けるなど、未就学児が観劇しやすくなる取り組みを行っています。
私は小さい頃、勉強だけをして過ごすことがしんどくて…漫画を読んだり、ライブパフォーマンスを観たりすることで気持ちが救われていたので、文化芸術にふれることのおもしろさを、今の子どもたちにも知ってほしいと思ったんです。
そのためには、子どもが来場しやすい工夫をしなければと、さまざまなことを考えました。原作があると分かりやすいかなとか、音楽劇だとストレートプレイより気軽さがあるかなとか、事前に内容をちゃんとお知らせするようにしたいなぁとか。
ーーたむらぱんさん(以下、たむら)と、河野丈洋さん(以下、河野)には、下司さんからお声がけをされたそうですね
下司:はい、音楽劇をするなら当然だけれど音楽を作る人が必要だ! となったのが始まりです。河野さんとは、以前から飲みに行く機会がありました。
河野:うん、共通の友達がいて。
実はそのときに、ミュージカルの話をしていたんです。日本のオリジナルミュージカルを実施できたらいいですね、って。それを覚えていて、今回の公演に声をかけてくれたのかなと思っていました。
下司:はい、迷うよりまずは、お声がけをしてみるほうが人生が楽しくなる!と思い、えいっと声をかけてみました(笑)。過去にミュージカル作品を演出したときの映像をお送りしたところ、すぐに観て感想を伝えてもらって。
河野:ユニークで見応えのある舞台映像でした。常々音楽劇をやりたいと思っていたので、今作への参加も決意しました。
ーーたむらぱんさんとは、どのようなきっかけで
下司:初めて会ったのはだいぶ前。私が参加した舞台公演を観てくれて、そのあとFacebookを交換して。それからも公演案内をお送りすると、観にきてくれましたね。興味の範囲がひろいかたなんだなぁと感じていました。
知人の作品に出演されていた安心感もあり「1回聞いてみよう。断られたって死んだりしないんだから(笑)!」という想いでメッセンジャーを送ったら「興味がある」と言ってくれて、泣きそうになるほど喜びました。
一同:(笑)。
たむら:セリフのあるお芝居には初めて挑戦します。おもしろそうだけど、できるのか不安でした。でも概要を見たら、よく知っている丈(じょう)さん(河野)がいたので、すぐ電話しました。丈さんに電話することはあまりないよね。
河野:うん、ない。
たむら:すぐ折り返してくれて。「いいんじゃない」と声をかけてくれました。作品テーマにも惹かれていたので、私で良ければという気持ちで、お受けしました。
下司さんの作品はすごく明るい内容でありながら、人生の紆余曲折も表現し、負の部分も包んでうけとめて、軽やかにされている印象を感じます。そういう雰囲気が、とても好き。ただただ愉快に生きているだけではないという感じ。大切なところから目をそむけないで、丁寧に向き合っている人だなと思いました。
下司:ありがとうございます。
ーー台本も下司さんが執筆されていますね、お話に込めた想いについて伺いたいです
下司:この世界に生きる人は誰しもが、一人ひとり物語を生きていると感じています。日々を過ごしていて、その自分の物語(考えていることや、これまでのこと)を話す機会は多くはない。でも少しつついたら「こういうことがあってね…」と話してくれる。そこから会話をすることは、とてもおもしろいんです。
例えば(たむらに)この間、着物を着た人に声かけたことがあったよね。
たむら:そうそう、道を歩いているおばあちゃんが素敵なお召し物を着ていて、どうしてもそれを伝えたくて声をかけました。
ちょっと驚いていたけれど、ご自身のことについてお話ししてくれました。「もらった着物の生地の裏でつくったの」と。写真も撮らせてもらって。
下司:この作品では、おとぎ話を通じて「私たちの物語」を伝えるから、「あなたの物語もよかったら話してね」という想いを伝えたくて、台本を書き始めました。
ーー稽古をつづけていて、いかがですか
下司:実は、たむらぱんさんは、稽古に合流してからまだ1週間くらいしか経っていないんです。信じられないくらいに素敵!
たむら:台詞を発さずに表現をするシーンもあるのですが、それが難しい。言葉があれば「ここはこうです」と宣言できるけれど。動きだけで表すと、タイミングひとつで全然雰囲気が変わってしまうんです。
下司:「うなずく」という行動ひとつとっても、その場でうなずくか、一歩進みながらうなずくかで、意味の捉えられ方がだいぶ変わる。削ぎ落して、見せたいところを見せられるように。そのチョイスは難しくて苦しいけれど、楽しくもあります。
ーー河野さん書下ろしの音楽は、いかがですか
下司:1曲目を送ってもらったとき、ツーっと涙が出てきました。ああ素敵、と思った。
たむら:私も!丈さんは、自分が音楽を始めた頃からお世話になっていて…その頃から一生ついていくぞ!と思うほど信頼しているのですが、今回の音楽を聴いて、宇宙までついていく!と思いました(笑)。
河野:ありがとうございます。
たむら:どうやって音楽が生まれているのか不思議です。
河野:まずは打ち合わせで、どういう曲にしたいのかを話し合います。そのあとは矛盾しているかもしれませんが作品に合わせて曲をつくるというより、自分がぐっとくるものをつくっています。今回も、子ども向けだからなどとあまり考えず、ひたすらいい曲をつくろうと考えていました。それがふたりに響いてくれたのかなと思います。
下司:かっこいい。
たむら:稽古のとき、いい曲だと思っていたら素の年齢感で歌っちゃって。下司さんから「たむらさんはルルランなので、もう少し人生の経験値をおさえた雰囲気で」と言われました(笑)。無邪気って難しい!
下司:歌いだしたらかっこいいお姉さんでしたね。
ーーご観劇されるかたへのメッセージをお願いします
たむら:人の数だけ物語があるとは言うもののそれを知る機会はどれくらいあるのか…稽古を重ねながらいっそう考えるようになりました。大切な人の大切な物語は予想だにしないものかも。少しお話をしてみよう?そんなきっかけが訪れることを、そして観劇を通し子ども達に、物語を育くむ素敵な時間が訪れることを願っています。
河野:僕にとって初めての観劇体験はとても遅くて、30歳くらいだったんですが、それだけにとても感動が大きかったです。これから初めて演劇を観る方にもそんな気持ちを味わってもらえたら、と思いながら『おはなしルルラン』の歌を作りました。とても楽しい作品になっていますので、ぜひ観にきてください。
下司:今回は観劇のハードルを下げるため、30分のショートバージョンも上演します。舞台を観てみたいけれど、いきなり2時間の観劇はしんどいなと感じるかたや、観劇は好きだけれど子どもがいて行きづらいなと感じるかた。そんな人に、そっと寄り添えたらと思っています。老若男女、楽しんでいただけるお時間にしてみせるぜーと思っていますので! 皆さまにご来場いただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします!
取材・文=臼田菜南 写真=村上大輔