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親がしんどい。臨床心理士に聞く“分かってくれない親”との付き合い方

りっすん

今は仕事を優先したいと考えているのに結婚することや子どもを持つことを前提に話をされる、子どもを保育園に預けて仕事復帰することに小言を言われるなど、親との会話に「しんどさ」を感じたことはありませんか。

家族やパートナーシップのあり方、仕事観など、女性の働き方・生き方が多様化している現在。旧来的な価値観に囚われている親からの“よかれと思ってのアドバイス”とどう付き合えばいいのでしょうか。

親子のコミュニケーション方法に詳しい臨床心理士・公認心理師の寝子さんに「親と適切な関係性」を築くコツを伺いました。

お話を伺った方:寝子さん

臨床心理士・公認心理師。 医療機関で成人のトラウマケアに特化した個別カウンセリングに従事。中でも、親子関係でのトラウマケアと性犯罪被害者支援をライフワークとしている。著書に『「親がしんどい」を解きほぐす』がある。
@necononegot

過去の思考の癖から生まれる、親への「しんどい気持ち」

大人になり自立した人生を歩んでいるにもかかわらず、親の言葉に心が傷ついたり、モヤモヤを感じたりなど「しんどい気持ち」を抱くのはなぜなのでしょうか?

寝子さん(以下、寝子):まず大前提として、子どもにとって親は特別な存在です。特に幼いうちは衣食住に関する全ての決定権が親にあるわけですから、親は絶対的な存在と言っても過言ではないでしょう。

そのため子どもは親の機嫌や感情を敏感に感じ取ろうとします。「自分がいい子にしていれば喜んでくれる」「心配させると感情的になってしまう」など、親に及ぼす自分の影響力を本能的に分かっているからこそ、自分の気持ちよりも親の悲しみや不機嫌に対処しようとします。

その結果、大人になっても「親に合わせないといけない」「自分がなんとかしなくちゃ」という過去の思考の癖から抜け出せずに、親との関わりの中で「しんどさ」を感じてしまうのです。

なるほど......。子どもの心理として「親はどうせ分かってくれない」「でも分かってほしい」という気持ちが共存することによる “しんどさ”もあると思うのですが、なぜこうした矛盾した感情を抱いてしまうのでしょうか。

寝子:これも一見矛盾して見えますが、とても理にかなった感情なんです。例えば子どもが「◯◯が食べたい」「◯◯の習い事がしたい」というとき、親に“分かってもらえない”と物事は進まないですよね。だから「親に自分のことを分かってほしい、理解してもらいたい」と思う。

一方で親は絶対的な存在だからこそ、分かってもらえなかったときのショックはとてつもなく大きいです。そのため一度傷ついたことのある人ほど、これ以上傷つかないように「どうせ分かってくれないだろう」と諦めの感情を抱くのです。

なので2つの感情の中で揺れ動いたり、モヤモヤするのは全くおかしなことではありません。大切なのは「どちらも、親との関わりの中で必要な感情だったんだ」と認めてあげること。自分を守るため、生きるために状況に応じてバランスをとって共存していけるといいですよね。

“分かってくれない親”と、どうコミュニケーションをとる?

結婚、出産、子育て、働き方に関する旧来的な親の価値観にもとづいた「よかれと思って」のアドバイスには、どのように対応するのが良いのでしょうか?

寝子:まず親が生きてきた時代と今とでは、大きく価値観が異なることを念頭にコミュニケーションをとるのが良いでしょう。

現在20代後半〜40代の方の親世代は、高度経済成長やバブル景気を経験した世代です。今よりも働き方や生き方の選択肢が少なかったこともあり、画一的な価値観の中で育ち、個性よりも協調性が求められてきた。つまり、変化を好まない世代です。

一方、現代社会では世の中の変化のスピードも速く、価値観も多様化しており、人それぞれ働き方や生き方の選択肢も異なりますよね。

確かに、親世代から見ると私たちの働き方・生き方は「信じられない」ものなのかも……。

寝子:きっとそうだと思います。ですから、親から旧来的な価値観にもとづいたアドバイスをされたときは、「お母さん、お父さんの時代はそうだったんだね。でも私はこうするね」と、心の境界線を引くことを意識してみてください。

また「あなたのためを思って」というアドバイスは、親が自分の人生を肯定したいだけかもしれません。「お父さんのときは大変だったんだ」という自慢や、「お母さんはこんなに苦労したのに、あなたは!」という嫉妬心ゆえに口出しをしてくるケースもあります。

だからこそ親と自分を切り離して意見を伝えたり、人生の選択をすることが大切です。

「親と心の境界線を引くことを意識する」。“分かってくれない”しんどさを感じたときほど思い返したい言葉です。その上で親と話し合いがしたい、自分の気持ちを伝えたいとき、けんかやヒートアップを避けるにはどうしたら良いのでしょうか。

寝子:親に対する「期待値の調整」をおすすめします。「絶対に分かってもらわなければ!」「今日、決着をつけよう!」とすればするほど焦ってヒートアップしてしまうので「分かってもらえないかもしれないけど伝え続けよう」くらいの気持ちで構えてみてください。

いきなり本題に入らず、まずは世間話をするのも良いでしょう。お互いの趣味やおいしいごはん、レジャースポットの話など、たわいのない会話を通して楽しい時間を共有することも、適切な関係を築くためのコミュニケーションの一つです。また、親自身も話し合う心の準備ができていないこともあります。自分にプレッシャーをかけ過ぎず、長い目で見てみてください。

いざ話し合うときに心がけておくと良いことはありますか?

寝子:親との良くないパターンを把握しておくのはどうでしょうか。例えば、いつも言い返してケンカになってしまうのであれば、その場では受け流す程度にして、後からテキストでメッセージを送る、改めて電話で伝えるのも一つの方法です。

あとはイメージトレーニングをしておくのも有効ですよ。「すぐに言い返さず、間を空けてみる」「嫌なことを言われたときは、ん?という表情をして止まる」といったリアクションを事前に頭の中でイメージしておくと喧嘩を避けやすくなると思います。

なるほど。準備をしておくのも大事なのですね!

寝子:ただ、いくら準備をしても予想通りにいくとは限りません。ダメージを受けることもあると思うので、自分へのご褒美もセットで用意しておくと良いでしょう。

親と話し合った後は愚痴(ぐち)を聞いてくれる人と会う、好きなスイーツを買って帰る、その日はオフにするなど。ダメージを受ける前提で、自分を労わる準備をしておくこともおすすめです。

「気持ちを伝えられない自分」を責めないでほしい

けんかになってしまう方がいる一方で「親に意見を言えない・小さい頃から自分の気持ちを伝えるのが苦手だった」というケースもあると思います。その場合どのようなコミュニケーションを試みるのが良いでしょうか。

寝子:そうした場合は無理に話し合ったり意見を伝えなくても良いと思います。おそらく、過去に自分の気持ちを伝えて良い反応を得られなかったり、嫌な記憶が残っているのでしょう。

そもそも、自分の意見を言える方が良い・偉いなんてことはありません。言いたいけど言えないという人は、「相手を傷つけたくない」「人と穏やかに関わっていきたい」という深い優しさを持っている人です。

相手を慮(おもんばか)ってモヤモヤを抱え続けられるということ。その素晴らしい特性や優しさに気づいて、ご自身を褒めてあげてほしいなと思います。

“優しい特性を持っている”自分に目を向けてあげることが大切なのですね。

寝子:どうか自分の欠点探しをしないでほしいなと思います。そしてもし普段から優しい人が、怒りや不快感を抱くようなことがあったとしたら、それはその人にとって大切な価値観や信念が隠されている証です。

その場合は「自分は何を大事にしたいのかな?」とご自身と向き合う機会にしてみてもいいかもしれませんね。

今のあなたは、親に分かってもらえなくても生きていける

親にモヤモヤしつつも育ててくれた感謝の気持ちから、親を否定することに抵抗を感じるケースもあるかと思います。そうした中で、親と向き合うことのメリットもしくは向き合わないことで起きるデメリットについて教えてください。

寝子:まず向き合わないデメリットとしては、「しんどい気持ち」が続いてしまうことです。最初に話した通り「親」というのは特別な存在だからこそ、一度感じた不快感がなかなか消えません。嫌な気持ちにふたをするのにも、実はものすごくエネルギーが消耗されています。

また本人はもちろんのこと、苦しんでいる姿を目の当たりにする今の家族や友人に「しんどい気持ち」が伝わってしまうことも。本来親に向けるべき感情を抑圧してきた分、パートナーや子どもに当たってしまうなんてこともあり得ます。

今大切にしたい人をちゃんと大切にするために親と向き合ってみるのも良い選択かもしれませんね。

「親」との関係をどう築くかで、他の人との関係性にも変化が生まれるんですね。

寝子:ただし、選択に良い悪いはありません。向き合うことで短期的にはしんどい気持ちになると思いますし、自分を守るために向き合わないことが必要なときもあります。そのため双方のメリット・デメリットを知った上でご自身で選択ができると良いですね。

親へのしんどい気持ちから、これからどう接していくべきか悩んでいる方に向けて、寝子さんはどんなメッセージを届けたいですか?

寝子:「今のあなたは親に分かってもらえなくても生きていける」とお伝えしたいです。子どもの頃、親は絶対的な存在でした。生きるためには親の機嫌や感情に合わせなければならず、知らず知らず傷ついてきた人もいるでしょう。

でも親の顔色を気にしてしまうのは子どもの頃の思考の癖であって、今はもう振り回されなくて大丈夫。親の不機嫌は親の問題なので、引き受けなくていいのです。

そうやって「親がしんどい」と感じる根本を解きほぐしながら自己理解を深めていくことで、「親との適切な関係性」を模索していけると良いですね。

取材・文:貝津美里編集:はてな編集部

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