南仏「ジェラール・ベルトラン」のプレミアムなアイコンワイン
父親の元でワイン造りを手伝いながら、フランス代表のラグビー選手として二刀流の生活を送っていたジェラール・ベルトラン氏。1987年に他界した父親の事業を引き継ぎ、1992年、自らの名を冠した会社を設立。ベルトラン氏は南仏ワイン全体の価値を高めてきた起爆剤的存在の造り手である。
世界最大のビオディナミ農法の実践者
フェニキア人によってブドウが栽培され、紀元前123年ローマ軍の侵入により、ギリシャ・ローマ文化の影響を強く受けてきた南フランスのラングドック・ルーション地方。1800年代にはフランス最大のワイン生産地域として、大量の日常消費ワインが造られていたが、1970年代から品質重視のワイン造りにシフトした。
ジェラール・ベルトラン氏は祖父ポール、父ジョルジュに続く三代目で、家業を引き継いだ時点では従業員はわずか2名。今では総勢400名で、自社畑も数ヘクタールから1263ヘクタールに拡大。南仏の異なるアペラシオンに17のエステートを所有し、すべての畑は2002年から導入した*ビオディナミの認証デメターを取得している。ルドルフ・シュタイナーの書物がきっかけでビオディナミを取り入れたが、子どもたちの健康を考え、次世代に健全な土壌を継承することが最大の義務と考え決断した。プラダル氏は「ビオディナミを導入した直後から、ブドウ樹に変化があらわれた。夏の暑い日射しを受けて低下しがちだったブドウの酸味が維持できることに気付いた」と語っていた。
ラングドック地方は地域全体の40パーセントがオーガニック(有機栽培)であり、ジェラール・ベルトラン社では70名の契約農家に対して栽培指導を行い、地域の活性化にも力を入れている。
(左から)
『クロ・デュ・タンプル 2021年』
産地:ラングドック・ルーション/カブリエール
ブドウ品種:サンソー41%、グルナッシュ52%、シラー4%、ヴィオニエ3%
参考上代:3万4000円
『ヴィラ・ソレイヤ 2021年』
産地:ラングドック・ルーション/ラ・クラプ
ブドウ品種:ルーサンヌ、ヴェルメンティーノ、ヴィオニエ
参考上代:3万0000円
『クロ・ドラ 2019年』
産地:ラングドック・ルーション/ラ・リヴィニエール
ブドウ品種:シラー、カリニャン、グルナッシュ、ムールヴェードル
参考上代:3万5000円
歴史の“新たな頁”を紡ぎ出す
ベルトラン氏が、ボルドー地方やブルゴーニュ地方のグラン・ヴァンに匹敵する存在になると確信しているのがロゼワインやオレンジワインである。プレスセミナーで披露された『クロ・デュ・タンプル』や『ヴィラ・ソレイヤ』は、3万円超のアイコンワインだった。
エントリーレベルからトップレンジまでのラインナップはピラミッド型で構成されている。ベースをなすのはロゼで全体の40~50パーセントを占めている。輸出先の上位はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ベルギー、スイスで、前比12パーセント減で嗜好が白ワインに移行しているオーストラリア以外は好調。オレンジワインに関しては、アジア担当のヴィッセール氏が「日本ほど成熟した市場はない」と強調。続けて「フランスでは多くが2種類ほどの扱いだが、日本ではどの店舗でも10種類以上の品ぞろえがある。そのような国は他にはない」と言葉を添えた。
人気のスパークリングワイン、同社が誇るオーガニックワイン、少量生産のシングルヴィンヤードワイン、自社畑の厳選アイテムであるエステートワイン、究極のビオディナミワイン、そして頂点に君臨するのが、アイコンのロゼ『クロ・デュ・タンプル』、オレンジ『ヴィラ・ソレイヤ』、赤ワインの『クロ・ドラ』である。
ジェラール・ベルトラン社が所有する17のエステートには、独自のテロワールがあり、さまざまなブドウ品種を栽培しながら、多岐にわたるブランド展開をしている。南仏ワインのイメージを大きく覆したベルトラン氏のワイン造りの根底に、“今、我々が歴史の一頁を紡いでいる”という気概があることを強く感じた。
『クロ・デュ・タンプル 2018年』『クロ・デュ・タンプル 2021年』
「水はけの良い片岩の上に石灰質の表土が広がるユニークな土壌で、ブドウはミネラルが豊か。ロゼワインには最適」とプラダル氏。畑の中のセラーで仕込むが、施設内での生産はクロ・デュ・タンプルのみ。発酵初期はステンレスタンク。その後、フレンチオークで発酵・熟成。瓶底が台形の特殊形状、瓶の彩色はブルーとゴールドのフランス王朝カラー。生産本数は1万5千本~2万本。ファーストヴィンテージの2018年はミネラルが顕著でチャーミング。21年は果実味、塩味、土壌由来のミネラル、ポテンシャルを感じるエレガント系ロゼ。ベルトラン一押しのマリアージュはオシェトラのキャビア。双方にオイリーさや塩味、バターやナッツ風味があり、数多くのキャビアを試し、掴み得た究極の組み合わせ『ヴィラ・ソレイヤ 2020年』『ヴィラ・ソレイヤ 2021年』
ソレイヤは太陽を意味するネーミング。ベルトランの拠点があるシャトー・ロスピタレに隣接するラ・クラプには二つの山があり、風の通り路なので、年間を通して強風が吹き、ビオディナミには最適のエリア。醸造にはフレンチオーク、粘土製アンフォラ、ガラス製アンフォラ(ワイングローブ)の3種の容器を使用。抽出時間は品種や容器によって異なるが目安は7~15日。ファーストヴィンテージの2020年は、アロマティックで黄金糖のニュアンスがあり、スムースな食感、中盤からの軽いタンニンが好印象。21年にはアプリコットや黄桃、白コショウ、ローズマリーやミックスハーブ、とろりとした舌触り、心地良い酸味と適度なタンニン、旨味もあり、後ろ髪引かれる味わいのオレンジワイン。お勧めのマリアージュはチーズプラトー、エスニック料理、和柑橘を隠し味にした魚介類『クロ・ドラ 2015年』『クロ・ドラ 2019年』
ベルトラン氏が南仏で「グラン・クリュと呼べるワインを造る」との思いで手掛けたアイテム。ラ・リヴィニエールは中央山塊の南西に位置するモンターニュ・ノワールの麓に広がり、赤ワインのみの産地。規定品種のうち、最低2品種をブレンドする必要があり、シラー、グルナッシュ、ムールヴェードル、カリニャン、サンソーがブレンドの80%を占めねばならない。土壌は白亜質、砂岩、泥灰質で、ブドウ畑は9ヘクタール。ファーストヴィンテージは2012年。ヴィンテージによってブドウの比率は異なり、猛暑で収穫直前に少しだけ雨が降った15年はグルナッシュ、シラーが主体。一方で、暑くて乾燥していて春先に降雨があったクラシックな年と形容できる19年はシラー、カリニャンが主体のブレンド構成。15年はルビー色を含んだ濃紫色、赤系&黒系果実、乳酸のニュアンスがあり、口中滑らか。19年は深みのあるガーネット、ベリー系果実、ミントや白コショウ、ガリッグ、木目細かいタンニンながら若干の収斂味、中盤から余韻に続く果実の厚みと旨味。時間と共存させることで本領を発揮する大物タイプ。マリアージュに関しては、「絶対に神戸ビーフ!」と主張していたお三方
*ルドルフ・シュタイナーが提唱した有機栽培農法の一種
text & photographs by Fumiko AOKI
【問い合わせ先】㈱ファインズ TEL.03-6732-8600