沖縄県大東諸島の深海洞窟から日本初記録の魚122個体を発見? 生息環境+色から<ホラアナヒスイヤセムツ>と命名
日本の海には様々な魚が生息しており、毎年のように日本初記録の魚、新種の魚が発見されています。
特に「深海」は未調査のエリアも多いことから、未発見の魚が見つかることも少なくありません。
琉球大学、JAMSTEC、株式会社FullDepth、いであ株式会社、新江ノ島水族館の研究者を中心とする研究グループは3月11日、深海域における生物多様性把握のための調査航海で、南大東島・北大東島沖の海底洞窟から日本初記録となる深海魚Epigonus glossodontusを発見しました。
この研究成果は「Zookeys」に「First northwestern Pacific records of the deep-sea cardinalfish Epigonus glossodontus (Teleostei, Epigonidae) from the Daito Islands, Japan」というタイトルで掲載されています。オープンアクセスなので、誰でも閲覧することが可能です。
北・南大東島周辺にはカルスト地形が発達
海底火山の噴火で誕生した北大東島と南大東島の周辺は、深海まで続く急斜面の海底地形を保有。また、陸上に洞窟や亀裂などが多数存在しており、海中にもカルスト地形(溶食されることによってできる特殊な地形)が発達していると考えられていました。
このような海底洞窟は特殊な環境を保有することから浅海においても独特な生物が発見されており、2007年には沖縄県伊江島の水深20メートルから「ドウクツイタチウオ」が、2024年には沖縄県恩納村の水深1メートルの海底洞窟から新種のヤドカリ「ドウクツヤワクダヤドカリ」が新種記載されています。
一方、海底洞窟は調査が極めて困難なことから、謎が多く生物相(特定の地域に生息する生物の種類組成)が明らかになっていません。
3種類の無人探査機が活躍
そんな中、琉球大学、JAMSTEC、株式会社FullDepth、いであ株式会社、新江ノ島水族館の研究者を中心とする研究グループは2024年4月から5月にかけて、北大東島・南大東島の深海に形成された海底洞窟内の生物相を明らかにするため調査を実施。
この調査では3種類のROV(無人探査機)が使用されました。
使用されたROVはそれぞれ大きさや装備が異なり、これらを使い分けることにより深海の洞窟の入り口や亀裂など調査が難しいポイントを詳細に調査することができたそうです。
ヤセムツ科の魚122個体以上を発見
海底探査の結果、これまでにハワイで数個体しか見つかっていなかった、非常に珍しいヤセムツ科の魚Epigonus glossodontusを122個体以上発見。特に340~588メートルの範囲のほら穴や亀裂、その周辺で数個体から十数個体の群れを形成しているところが見つかったそうです。
さらに、この調査では本種の標本が得られたほか、貴重な生時の姿を捉えることにも成功。ヤセムツ科というと底曳網等で得られた黒っぽい色をイメージしますが、生時のEpigonus glossodontusは美しい翡翠(ひすい)色をしていることが明らかになりました。
生息環境と生時の色から標準和名は<ホラアナヒスイヤセムツ>に
日本初記録となった大東諸島のEpigonus glossodontusはまだ日本語名がなかったため、論文中で新称を付与。新称は調査船に乗船した研究者や乗組員から募ったそうですが、本種の生息環境と生時の色から「ホラアナヒスイヤセムツ」という標準和名となっています。
ホラアナヒスイヤセムツに限らず、ヤセムツ属にはイブシギンヤセムツ、コゲメヤセムツなど変わった名前の魚がいます。特に沖縄県の恩納村沖から採集されたコゲメヤセムツは、ホラアナヒスイヤセムツと同様にROVで採集された魚です。
今後も海底巣窟から未知の生物を発見?
今回の研究発表では、大きさや装備の異なる3台のROVを用いたことで、海底洞窟のような複雑な地形を詳しい場所でも調査ができたことが述べられています。
一方、この調査ではまだ洞窟の玄関口しか調査できていないようなので、今後の調査でより先の洞窟内に生息する生物が明らかになるかもしれません。
(サカナトライター:まうまう)