Yahoo! JAPAN

書いてあるとおりに読めていますか? 伝えたいことだけ書けていますか?

Books&Apps

書いてあるとおりに読めていますか? 伝えたいことだけ書けていますか?

今日はまず、以下の文章を読んでみていただきたい。

(高市)首相は会談で、両国が今年、国交正常化60周年の節目を迎えたことを踏まえ、「日韓関係を未来志向で安定的に発展させていくことが両国にとって有益だ」と述べた。「今の戦略環境のもと、日韓や日米韓の連携の重要性は一層増している」とも強調し、「シャトル外交」の活用に意欲を示した。

一方、李氏も「日韓両国はいつにも増して未来志向の協力を強化していかなければならない」と語った。

これは、10月30日のyahooニュースに記載されていた、日韓首脳会談のやりとりを報じたものだ。上掲引用文には、どんなことが書いてあるだろうか?


もし、この文章を読んで「日本と韓国は仲良くなった」と読みとった人がいたら、「それは違うんじゃないの?」と私なら指摘したくなる。


確かに両首脳はこれからの日韓関係についてポジティブな発言をしているし、日韓関係の重要性にも言及している。高市首相はシャトル外交の活用への意欲もにじませている。

しかし、ここには「日本と韓国は仲良くなった」とは書かれてない。

書かれているのは、せいぜい、「これからの日韓関係を重視していかなければならない」こと、「そのための努力の必要性や意欲について」までだ。ここから「日本と韓国は仲良くなった」と読み取ったら深読みのし過ぎだ。

そんなことはこの文章には書いてない。


米中の首脳会談にも似たことが言える。以下も、10月30日のyahooニュースから引用したものだ。

トランプ氏はこの日までのアジア歴訪を終え、大統領専用機内で記者団に対応。「素晴らしい会談だったと思う」とし、「10点満点中12点だ」と評価した。   

習氏が米国へのフェンタニル流入阻止へ全力で取り組むと約束したとし、「彼らが本当に強力な行動を取っていると信じているため」関税を引き下げると述べた。

中国のレアアース輸出については、今後1年間の継続で合意し、おそらく延長されるだろうと指摘。「全て解決済みだ」とし、「これは全世界的な問題だ。米国だけの問題ではない」と述べた。中国はレアアース輸出規制を4月に導入し、今月に入って強化を表明していた。ただ、今回の合意が規制対象となる全てのレアアースをカバーしているかは不明だ。

またトランプ氏は、中国が米国産大豆やその他の農産物を「直ちに、膨大な量」購入するとも述べた。

さきほどと同様、この文章には「アメリカと中国は仲良くなった」とは書かれていない。

トランプ氏が会談を高く評価していること、アメリカが関税を引き下げるつもりであること、中国のレアアース輸出が一年間は継続するだろうこと、中国がアメリカ産農産物を購入すること、までは書かれているが、それらが事実だとしても、これらをとおして「米中関係が仲良くなった」と読み取るのは深読みのし過ぎだ。

少なくとも、このニュースにはそんなことは一言も書かれてない。


引用したふたつのテキストは、それぞれの首脳会談で語られたこと、首脳たちが語ったことの一部、または要約を紹介したものである。

人間には省略や要約をしたがる性質があるから、もちろん、こうした文章を自分なりに更に要約することはあっても構わないだろう。


しかし、その要約にあたって書かれていることに忠実に要約できるか、書いてないことまで勝手に要約してしまうのかは、また別の問題である。

もし、これらの文章を読んで書いてないことまで勝手に要約してしまったなら、読み方が雑だったか、読み書き能力に問題があるか、その両方かである。


社会は「正しく読む」前提でつくられている

ニュースに限らず、現代社会では重要な情報の多くが文章で授受されるから、読む能力と書く能力はひときわ重要だ。


国際政治についてのニュースなら、多少の読み違いがあっても生活には響かないかもしれない。

だが、お金にかかわる文章や契約にかかわる文章を読み違ってしまうなら深刻である。

スマートフォンの通信料についての契約、各種チケットの購入にあたっての契約、自分が被雇用者や被保険者としてお金を受け取るにあたっての契約、等々では、契約書に書かれていることを書かれているとおりに読めるか、読んだうえで理解できるかが問われる。


その際、書かれていることを書いてあるとおりに読まず、読みたいように読み、書かれていないことが書いてあるかのように思い込んでしまったら、後でがっかりしたり憤慨したりするかもしれない。

人間は、ともすれば自分が読みたいように文章を読んでしまい、読みたくないことから目を逸らしてしまいがちだ。

だが、契約社会においてそれは危ない。書いてないことを読み取ったつもりになった挙げ句、後から「だまされた!」と思っても救われない。こういう時、嘘をつくのは書面よりも自分の記憶や認知や認識のほうだ。


まともな契約書では珍しいが、ときに、書面に微妙な事柄が微妙な調子で書かれている場合がある。

何かあった時にどこまで保証するのか?

誰がどこまで責任を負うのか?

それとも責任を負わないのか?

そうした時も、書かれていることが第一に重要で、書かれていないことを勝手に読み取ってはいけない。

書かれていないのがわざとなのか、たまたまなのかはケースバイケースだろうし、その理由については思案すべきだろう。ともあれ、書いてないことは書いてないこととして読み取り、注意を払い、必要ならば対処しなければならない。


SNSなどを眺めていると、「書いてないことを、書いてないこととして読む」ができていない人がものすごく多いことに気付く。

これは、SNSを片手間に読んだり酔っ払った状態で読んだりする人が多いせいだろうか? どうあれ、書いてないことを読み取る人、言ってもいないことを読み取る人は珍しくない。


それよりもずっと多いのは

「書いてあるとおりに読まず、拡大解釈して読む」

「書いてあることを自分の願望に沿ってアレンジメントして読む」

人々だ。


たとえばSNSのインフルエンサーが

「今年の○○の新作に私はちょっと乗れませんでした」

とメンションした時、そのインフルエンサーが○○を嫌いなったと解釈する人がいる。

そう解釈してしまう理由は、読者の早とちりかもしれないし、読者がもともと○○のことが嫌いでインフルエンサーにも嫌いになって欲しかったからかもしれない。


もし、そのインフルエンサーが本当に○○のことを嫌いになり、嫌いになったことを正確にフォロワーに伝えたいなら、

「今年、○○のことが私は嫌いになりました」

とちゃんと書くはずである。

メンションは、雰囲気で読むのでなく、一字一句を噛みしめるように読むべきなのである。それが、正確なコミュニケーションというものだ。


正確なコミュニケーションを心がけた結果、相手の言っていることが意味をなしていないと判断するしかない場合もある。10月31日のヤフーニュース に掲載されていた、小野田大臣に対する記者の質問などがそうだ。

小野田先生はハーフから日本の国籍を取られた。日本の旗は共生社会に必要であるとされるならば、旗を大事にしようという法律があっても私は当たり前だと思う。考えを聞かせてほしい

この質問は、前節と後節の間に脈絡が無い。脈絡がないからうまく意味を成していない。

まず、「理解できない」と読まなければならない文章の典型である。


実際、小野田大臣は

「ご質問の内容と私がハーフで混血であることの何の関係があるのか私にはよくわからない。ただ私にとって日本国旗はとても大切なものだ。」

と回答したという。

前節と後説の脈絡が無いことを踏まえたうえで、国旗に対する考えだけ回答したのは模範的なことだと私は思った。


必要なことだけ書くこと、不必要なことを書かないこと

ちなみに、正確に読み取ることが大切なのと同じくらい、伝えたいことだけを正確に書くことも大切だ。


さきほどのインフルエンサーの

「今年の○○の新作に私はちょっと乗れませんでした」

という文章を振り返っていただきたい。


このインフルエンサーのセンテンスは、「今年の」「〇〇の」「新作に」「ちょっと」「乗れませんでした」という語彙から成っている。

これらの語彙を精確に読み取るなら、「別に○○のことを全部嫌いになったわけじゃない」とも「来年の新作はそうとも限らないかもしれない」とも読み取れる。

そのインフルエンサーが十分に思慮深い人なら、そうした読みの余地を残したメンションをわざわざ選択したと思っておいて間違いないだろう。


逆に、こうした読みの余地について考慮せずに語彙を選択していたとしたら、そのインフルエンサーは良いメンションができていなかったことになる。


尤も、インフルエンサーになるような人は、語彙の選択に鋭い意識を持っていることがほとんどだ。

有名タレントのアカウントを運営している人や、大企業の公式アカウントを運営している人なども同様だ。


彼らのポストするメンションは、語彙の選択にかなり意識的であると想定して構わない。

できるだけ似つかわしく好ましい語彙を選んでメンションを構成していることだろう。

解釈の余地のあるセンテンスも、解釈の余地のないセンテンスも、たぶんそうである。


それだけに、普段、そうして語彙の選択をきっちりやっているはずのアカウントが不用意なメンションをポストすると非常に目立ってしまい、唐突に炎上したりする。

アカウントの規模が大きくなればなるほど、伝えたいことだけを伝えて伝えたくないことは伝えないメンションが期待されがちだ。


だが、それが難しいのもまた事実で、人はしばしば口や筆を滑らせてしまう。


たとえば私もウェブ上で長く文章を書き続けているが、精確な語彙の選択や過不足のない記述のメンションは今でも難しいと感じる。

同じ内容を、もっと簡単な語彙で・もっと短い文字数で書けたはずだと後で気づくこともあるし、簡素な表現を意識しすぎた結果、誤解や誤読を招く余地が大きくなってしまったと反省することもある。

だから、推敲の余地がほとんどない精緻な表現を出し続けているアカウントを見かけるたび、うまいな、と思わずにいられない。


同じことを、文系エリートな職業の人からのメールにも感じる。

丁寧で、気遣いに溢れ、無駄なことが書かれておらず、解釈違いの余地が非常に少ないメール。

それは、読む側からの心証を良くするためのオフェンシブな戦術であると同時に、余計な言質を与えないためのディフェンシブな戦術でもあろう。


SNSなどが普及したため、令和の日本社会では職業や年齢に関係なく、文章を読むことや書くことが非常に当たり前のことになっている。

しかし、読み書きが当たり前になったからといって、誰もがうまくそれができているわけではない。昭和時代などに比べてより多くの人が日常的に読み書きするようになったにもかかわらず、読み書きの巧拙に個人差がまだ残っている社会である。


ということは、令和の日本社会は読み書きの巧拙によって社会適応がより大きく左右されやすい社会でもあるはずで、読み書き能力が高いことによるアドバンテージや読み書き能力が低いことによるハンディキャップが無視できない社会でもあるはずだ。

書いてないことを読み取ったり、書かれていることを読み損ねたりしていては、今日日の渡世は危うい。

***


【プロフィール】

著者:熊代亨

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)など。

twitter:@twit_shirokuma

ブログ:『シロクマの屑籠』

Photo:Darwin Boaventura

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 【動画】「リンクス梅田」がリニューアル ゆうちゃみさんがアンバサダー就任 

    OSAKA STYLE
  2. 『ばけばけ』イライザ・ベルズランドのモデル?世界一周に挑んだ記者エリザベス・ビスランド

    草の実堂
  3. 都内初となるトライアルの小型店舗「トライアルGO」が良すぎる! これは確実にコンビニを脅かす存在になるぞ

    ロケットニュース24
  4. 広島で先行販売!「すみっコぐらし焼きぬいぐるみ しろくま」をいち早くゲット

    旅やか広島
  5. 本田翼、大胆な美脚見せコーデにファン絶賛!「ばっさー可愛い」

    WWSチャンネル
  6. 【攻撃力高そ】「今までに食べたことがない食味」だという珍野菜『マシシ』の味はどれくらい珍妙なのか?

    ロケットニュース24
  7. 世界選手権個人総合3連覇の橋本大輝も凱旋出場予定!『第79回全日本体操団体/種目別選手権』は11/13から

    SPICE
  8. 阿部兄妹や村尾三四郎らが世界に挑む!12/6&7開催『パーク24presentsグランドスラム東京2025』日本代表選手56名決定

    SPICE
  9. <20年の裏切り>親友の結婚相手は、私の元彼だった…!絶交覚悟で明かされた真実とは

    ママスタセレクト
  10. 【必見】チーズ好き昇天…!全13種のチーズを使用した「チーズグルメ食べ放題」の内容がガチすぎる!!

    ウレぴあ総研