全国各地で愛される郷土料理【くじら汁は夏の食べ物か冬の食べ物か?】
古くから日本各地で食べられているくじら汁。名前は共通していますが、具材や作り方、そして「食べる時期」には多様性があるようです。
全国各地で愛される「くじら汁」
我が国では各地に郷土料理の「汁物」があります。その土地ならではの食材を用いたり、一般的な食材を用いていても調理法がユニークだったりすることで郷土料理らしさが見られるものも多いです。
一見すると全国共通の料理のように思えても、実際は地域性が高いものに「くじら汁」があります。各地にくじら汁(鯨汁)と呼ばれるものはありますが、その共通点は「クジラが入っている」というだけで、他の要素は驚くほどにバラバラだったりします。
例えば北海道では、塩漬けのクジラ肉をたっぷりのたけのこ(姫竹とよばれるもの)やその他塩漬け山菜とともに煮込んだものをくじら汁と呼んでいます。一方で和歌山県や三重県では捕鯨が行われており、新鮮なクジラ肉が手に入ったため、生のものをだしで煮て薄めの味付けで食べられてきたようです。
夏のスタミナ食?冬のハレの食事?
そんなくじら汁、各地で異なっているのは具材だけではありません。伝統的にくじら汁を「いつ食べるか」についても、大きな違いが見られます。
前記の北海道(道南地方)では、くじら汁はお正月の料理とされています。昔ほどクジラが食べられなくなっている現代でも、正月だけはくじら汁を食べるというご家庭も少なくないそうです。
一方、新潟ではくじら汁は夏の料理。良質の脂肪分を多く含むクジラの脂身は夏場のスタミナ食として愛され、みょうがやナスなどの夏野菜をたっぷりと入れたくじら汁が親しまれています。
「くじら汁」は冬の季語
そんなくじら汁ですが、全国的にはどちらかというと「冬の食べ物」として認識されているようです。俳句にもたびたび読まれていますが「くじら汁」は冬の季語となっています。
これは、俳諧がとくに盛んであった江戸において、くじら汁が冬に食べられていたことにも由来するのかもしれません。江戸では旧暦の12月13日に「煤払い」と呼ばれる大掃除が行われる風習がありましたが、これが終わったあとにくじら汁を振る舞う文化があったそうです。
この日は江戸中でクジラが食べられるため、その消費量はクジラ数頭分にも至ったのではないかと言われています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>