「量子を見る」には電気代が年間500万円ほどかかる!?【眠れなくなるほど面白い 図解 量子の話】
量子を見るには設備完備の最高級3LDKが必要だ!
「量子を見る」には準備が必要です。わたしたちの周りには電子や原子や光などが満ちあふれています。部屋に当てはめてみると、ここを空っぽにして、シャイな量子のプライバシーが守れるような最高級物件を用意する必要があります。この項では現在、量子実験で使われているような準備を少し紹介します。
多くの「量子は暑がり」です。人の指先やスマホの画面は室温付近ですが、絶対零度/0K(ケルビン)=(–273.15℃)に比べると300K(27℃)ほどになります。室温近辺における物質を原子レベルで見ると、沸騰したお湯のように原子がブルブルと震えていますが、量子はそれが大嫌い。だから、振動を止めるためにとりあえず冷やさなければならなりません。希釈冷凍機という特別な冷凍庫を使うと、絶対零度より少し高い0.01Kの温度まで冷やせます。摂氏なら–273.14℃です。
量子の中でも気体の原子は周りを囲む空気も嫌いです。なので、超高真空装置を使って原子のために空っぽの部屋をつくります。特殊ポンプで大気圧の1気圧から0.00000000000001気圧まで下げると気体の原子やイオンは大喜び。
まだあります。光を遮断するために部屋を真っ暗にしたり、振動を完璧に抑制するエアクッションで浮遊させたテーブルに乗せたり、地磁気を嫌う量子には磁場を通さない「パーマロイ」というケージや冷えた超伝導体で囲ったり等々、すごく世話が焼ける。しかも、実験者が少しでも手を抜くと、 「量子性はお預け」とばかりに臍(へそ)を曲げます。
実験物理学者にとって、量子は「すごく贅沢な生き物」で、手厚く扱わないとまったくいうことを聞いてくれません。「量子を見る」には量子にとっての、いわば「最高級3LDK」住宅が必要なのです。ちなみに、希釈冷凍機はおおよそ1億円します。冷気にかかる電気代は年間500万円ほど。そんな金食い設備に量子を1個だけ置くというのですから、贅沢も極まるわけです。
富士山と希釈冷凍機の温度を比べると?
富士山3776mの頂上の温度を室温25℃(298K)と仮定すると、希釈冷凍機が冷やす温度は海抜10cmで−273.14℃(0.01K)になる。そこまで冷やさなければ量子は正体を現さない。
量子のわがままは際立っている。人の生活環境のほとんどが嫌いだ。そのため、量子の要求のすべてを受け入れて環境を整えなければコミュニケーションが成り立たない。
量子を見るには特殊な設備が欠かせない!
量子様がお喜びになられる設備完備の最高級 3LDKでございます…
希釈冷凍機はヘリウム3(3He)とヘリウム4(4He)の混合溶液を希釈するときの希釈熱を利用する冷却器で、超低温領域の冷却法。暑さが嫌いな量子のために装置内を超低温0.01K(−273.14℃)まで冷やす。また、気体の原子は空気も大嫌い。そのため超高真空装置を利用して空っぽの部屋をつくる必要がある。
希釈冷凍機イメージ資料:太陽日酸
https://www.tn-sanso.co.jp/gasequip/products/detail.html?pdid=174
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 量子の話』著:久富隆佑、やまざき れきしゅう